第十九話
「お疲れ、リタちゃん。ミッションクリアだね」
起き上がった男はパタパタとローブを叩いて砂を落とす。
少女はランタンを拾ってじっとそれを眺めた。
「魔法切れちゃった?」
「もう必要ないからね」
そうか、と少女は頷く。
ランタンを畳んでポーチバッグにしまおうとして、右手に持ったままだった聖剣を思い出した。鞘がないので、手がふさがってしまうのが地味に邪魔だ。
聖剣を見下ろしたまま動かなくなった少女を見て、男は首を傾げる。
「どしたの」
「鞘がないから、ずっと持ってなきゃいけなくて……ちょっと邪魔だなぁ、って」
ああ、と男が頷いた。
ぐぅ、という不満そうな唸り声が頭に響く。
『邪魔とは心外だな、勇者よ』
わ、と男は目を丸くした。
「ご、ごめんね。でもずっと抜き身で持ってるのは危ないし……このままじゃ町にも入れないよ。どうにかして鞘を作らないと」
勇者とて抜き身の剣を持ったまま町をうろつけば不審者として捕縛されるだろう。
さすがにそんな経歴を持つ勇者は嫌だ。
そんなことを考える少女の横で、男はじっと聖剣を見下ろしていた。
「それが、伝説の勇者の剣?」
男の眉が寄っている。不審なものを見るような目だ。
なにがそんなに不審なのだろうと少女は首を傾げながらも頷く。
「横穴の奥にねぇ、ドーンっと広い部屋があってねぇ、水があってねぇ、真ん中に剣があってね、そんでね」
身振り手振りを交えて話すので両手に持った聖剣とランタンを振り回していることに気付かず少女は興奮気味だ。
男はそうかー、すごいねー、と適度に相槌を打ちながらそれを回避。話の内容はふわふわしていてよくわからない。
それよりも、と男は少女の話がひと段落したのを見計らって、聖剣を指した。
「しゃべってたよね、今」
少女が頷いたのを見て、男はぎゅっと眉間にしわを寄せる。
なにか考え込むように腕を組んで、ふと自分が手ぶらだということを思い出した。
「あ、そうだ。ごめん、リタちゃん。洞窟内にキミの剣置いてきちゃった」
古い折れた剣は持っていても仕方のないものだが、少女が大切にしていたことに気付いていたのだろう。男は申し訳なさそうに頭を下げた。
少女はそれを見て首を横に振る。
「いいよ。もう折れちゃってたし、しかたないよ」
確かに少しだけ名残惜しいが、形あるものはいつかなくなるものだ。折れた剣をいつまでも持っていてもどうしようもない。
「それに、わたしにはもう新しく勇者の剣があるからね!」
聖剣を掲げるようにして男の前につき出す。
顔を上げた男はやはり眉を寄せてそれを見下ろした。
「どうかした?」
「あー……いや……」
歯切れが悪い。
先に声を上げたのは聖剣の方だった。
『勇者よ、その男はおまえの仲間か』
「そうだよ」「仲間じゃなくて、ついてくるヒトだよ」
声が重なる。
『……どっちだ』
少女と男は顔を見合わせた。
「リタちゃん……もうここまで力合わせて戦ったし、仲間でよくない?」
「だって魔王が仲間の勇者って変だもん」
えぇ、と男が不満そうに唇を尖らせた。
聖剣はなにか考えているのか再び沈黙する。
「でもボク、今回とっても役に立ったでしょ? ほら、仲間にしてもいいと思うんだ」
ぱっと笑顔を作る男。
しかし少女は首を縦に振らない。




