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第十八話

 見えない壁をすり抜ける。足元にいた洞窟ネズミを蹴飛ばした。


「リタちゃん!」


 少女の姿を見とめた男の安堵。

 ぐるりとゴーレムがこちらを向いた。剣を振り上げる。同時に跳躍。


「やぁぁぁぁぁぁっ!」


 振り下ろす。重力を乗せた剣先は寸分違わずゴーレムのうなじ――白い肌の魔王の胸を貫いた。


「あ……あぁ……」


 魔王の口が開く。


 ビシビシビシビシッ、


 核となった魔王を中心としてゴーレム全身に亀裂が走る。

 ゴーレムの肩に足をかけ、跳躍。

 寸前、ゆるく縫い付けられていた魔王の口が弧を描いたのを見た。


「あぃ、がと……う」


 崩落の音に紛れてかすかに聞こえた、女性とも男性ともつかない知らぬ声。

 少女はぎゅっと下唇を噛む。

 着地してすぐに剣を払う。飛びかかってきたケイブバットは悲鳴を上げることなく二つになって地に落ちた。

 背後でゴーレムが崩れ落ちる。もう動き出す様子はなかった。


「リタちゃん」


 小走りで男が近寄ってくるのが見えた。ひとりでだいぶ頑張っていたようだ。疲れた顔が隠せていない。

 額の出血はもう止まっているようで、血も乾いている。

 うっとうしそうに男はローブの袖で乾いた血を払った。


「よかった。無事に聖剣を手に入れられたんだね」

「うん! シグレくんも、お疲れさま」


 ゴーレムが倒されたことで危機を感じたのか他のモンスターたちもそろそろと身を隠していた。

 空気を読めずに突進してきた洞窟ネズミを男が長い脚で蹴飛ばす。視線をそちらにやることすらない。

 少女は振り返ってただのガレキと化したゴーレムの残骸を眺める。核となった魔王の姿は埋もれてしまったのか見えない。


「あのヒト、楽になれた、かな」


 男は無言で少女の頭を撫でた。

 少女は聖剣を見下ろす。


『勇、』


 突如、激しい揺れが少女たちを襲う。

 げぇ、と男が顔を引きつらせた。


「まずい、ゴーレムが暴れすぎたせいで崩落する!」

「ほ、ホウラク⁉」

「崩れるってこと!」


 揺れは酷くなる一方で、天井からもパラパラと大小さまざまなガレキが降ってくる。

 頭を庇いながら二人は顔を見合わせた。


「出口!」

「向こうだ、走れ!」


 抜き身のままの聖剣を少しうっとうしく思いながらも抱えて走る。

 ランタンの灯りが二人に先行して辺りを照らす。


 ビシビシビシッ、

 ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、


 あちこちから不穏な音が聞こえてくる。岩壁だけでなく天井にも地面にも亀裂が走っていて危ない。

 落ちてくるガレキを避け、足元の亀裂を飛び越え、出口を目指す。


「見えた、出口!」


 眩しいくらいの光に向かって走る。走る。走る。

 出入口を支える坑木がバキリと悲鳴を上げた。

 走り抜ける。

 外だ。暗いところに慣れた目には眩しさが痛い。構わず更に走る。

 ダンジョンの入口から離れた木に、二人は激突するようにして止まった。


「せ、セーフ」

「危なかったぁ」


 振り向こうとした矢先に轟音。凄まじい地鳴りと共にダンジョンの出入口が圧し潰れるのが見えた。


「……セーフ……」

「……あ、危なかったぁ……」


 あと少しでも遅かったら巻き込まれていただろう。

 肩で息をしながら、二人は青ざめた顔で地滑りを起こす山を呆然と眺めた。ようやく光に目が慣れてきて、遠くまでしっかりと見える。

 ある程度離れたところまで走ったので、ここまで被害が来ることはないだろう。多分。

 深呼吸して呼吸を整える。今日は走ってばかりだ。

 火照った頬を冷まそうと左手でパタパタと扇ぐ。

 体温が元に戻るころには地響きや崩落はおさまっていた。


「いやぁ、疲れた……」


 男は地面に座り込んでひっくり返りそうなほどだ。

 それを見下ろしながら少女は小さく笑う。


「無事でよかったねぇ」


 完全にガレキで埋まってしまったダンジョンの入口を眺める。山の一部が崩れているように見えるだけで、もうそこにダンジョンがあったことなどわからなくなってしまっていた。

 それほど長い時間でもなかったはずなのに、ずいぶんと長いこと洞窟の中にいたような気がする。

 ふらふらと少女たちの周囲を浮かんでいたランタンが灯りを消し、のんびりとした動きで少女の足元に着地した。それきりもう動かない。


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