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第十六話

「こんな閉鎖空間だと手数も限られるし、そもそも力に自信はないからね。早ければ早いだけ、早くしてくれていいよ」

「ん、頑張る!」


 ぱちんと両手で頬を叩いて気合を入れる。

 ゴーレムは不安定な足場に苦労しながら立ち上がったところだ。再び投石を始めようと長い腕を地面に突き立てる。


「よし、行け!」


 男の合図で一気に駆け出す。

 真っ直ぐに走り抜けたいところだが、迂回しなければゴーレムがぼこぼこにして穴だらけなところを通らなければならなくなる。

 改めて投石器と化したゴーレムの岩塊が飛んでくる。

 避ける。


「――風よ」


 男の声で空気が動く。風の刃はゴーレムにぶつかって霧散した。


 キキ、キキ。ヂュウ、ヂュウ。


 ゴーレムの出現で姿を消していたモンスターたちが顔を出す。おおよその動きを把握したのだろう、余計な手出しをしようと出てきた。


「ああもう、うっとうしいなぁ」


 苛立つ男の声と共に少女の目の前を塞ぐ洞窟ネズミが吹っ飛んだ。

 ゴーレムの投石は止まらない。雨のように岩が降り注ぐ。

 うわ、という声が聞こえて、少女は思わず立ち止まり振り返った。


「シグレくん!」

「だいじょぶ、行って!」


 頭部を掠ったのだろう、男の額から頬が赤く染まっている。少女は息をのむが、男は少女を見もせずに奥を指差した。

 足元に駆けてきた洞窟ネズミを蹴飛ばして再び走り出す。

 握りしめた拳で飛んできたケイブバットを払いのけ、洞窟ネズミを踏みつけて走る。全身が燃えているかのように熱い。もっと速く。息を止めて走る。

 横からゴーレムの長い腕が迫る。


「――土よ!」


 隆起した地面がゴーレムの腕を貫いた。逆氷柱のようなそれは外殻を破壊しその場に縫い付ける。

 その横をすり抜けて少女はゴーレムの背後にある横穴に飛び込んだ。


 ガガガガガッ、


 激しい音がして横穴の入口をゴーレムの腕が掠めた。なにかに阻まれてそれは少女に届かない。

 肩で息をしながら見れば、他のモンスターたちも横穴には入れないようで、見えない壁のようなものにぶつかって地面に落ちていた。

 息を整える。まるで耳の側に心臓があるようだ。

 横穴の外では未だ男が頑張ってくれているのだろう、絶え間なく荒々しい音が響いている。


「は、ふ、この、奥、かな。……ふぅ」


 奥には光るものが見える。チカチカとしたそれはまるで少女を奥に誘っているかのようだ。

 少し重たく感じる空気を振り払って歩を進める。

 少しだけ開けた空間。人の手は入っていないはずなのに、横穴の外とは違ってつるりとした滑らかな壁と天井。灯りとなるものはないのに薄ぼんやりと明るいのは何故だろう。


 ドーム状に切り抜かれたその空間の中心には水が張った大きくもない泉があった。

 泉の外周はどこまで続くのかぐるりと溝となっており、湧き出た水が流れ落ちている。着水音が聞こえないから相当に深いのだろうと思えた。

 その泉の中心には四角い台座があり、むき出しの剣が安置されていた。

 そこへ向かうための道はない。

 少女は辺りを見渡すが、他になにかあるようには見えなかった。


「あれが……伝説の勇者の剣……」


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