第十五話
唐突に気付いてしまった。
病的に白い、毛のない皮膚。目元はほとんど埋まるようにして見えないが、黒い髪を巻き込んだ頭部。美醜はともかく鼻、口と続き顎の下に喉が見える。その更に下には平たい胸。胸の下からは外殻に覆われていて見えなくなっている。両側に放り出されたようにして細い腕があり、こちらも肘辺りからは外殻に覆われてしまっていた。
――人だ。
ごくりと唾を飲み込む。
男性とも女性ともつかない年齢不詳の人間がそこに埋まっていた。
唖然とする少女に気付いた男も目を見開く。
「うわぁ、悪趣味」
男は嫌悪を隠さずに吐き捨てた。
ゴーレムの間合いギリギリまで近付いたランタンが丁寧にそれを照らす。
唇は雑に赤い糸で縫われ満足に喋れないようにされているが、よく耳をすませば小さな呻き声が聞こえた。
瞬間的に理解してしまった。それがゴーレムの核なのだ、と。
おぞましい現実に吐き気がする。気持ち悪さを堪えて少女は胸を押さえた。
薄い胸がわずかに上下している。生きているのだ。
つまり、核を壊すということは。
「うえ、」
何度も吐き出しそうになるが、吐くものがない。それが幸か不幸かはわからないが。
涙が浮かんできた。現実を受け入れたくない。
――造るものほぼ全てが冒涜的で趣味の悪いヤツだよ。
確かに、趣味が悪い。
ぽん、と少女の背になにかが当たる。顔を上げて見れば、いつの間にか男が側に立っていた。男が少女の背に手を置いている。
ゆっくりと叩くリズムが心地よい。
「息を吸って、ゆっくり吐いて。そう。……大丈夫そう?」
男の体温は低いのに、手は温かい。おそらくなんらかの魔法を使っているのだろう。
「ダメそうなら――」「ダメじゃない。まだ、やれるよ」
出直そうか、という男の言葉を遮って首を横に振る。
ゴーレムに視線を戻すと、ゴーレムはようやくもがくのではなく腕を突き立てれば起き上がれることに気付いたようだった。ゆっくりと立ち上がろうとしている。
あれを放置するということは、あの人を更に苦しめるということだ。そんなことはできない。
「なにか……どうにかあの人を助ける方法は……」
ぽん、と男の手が止まる。
「リタちゃん」
「なにかあるはずだよ。ゴーレムからあの人を引き離して、ゴーレムを倒す方法が……」
「リタちゃん、」
もう一度、男が「リタちゃん」と少女を呼んだ。
少女は唇を噛んで男を見上げた。先ほどとは違う意味で泣きそうだ。
「ゴーレムの核は壊す以外に引きはがす方法はない」
「うう、う……」
「あの核は人じゃない。魔王だよ。……見えるかな。胸の真ん中に黒いアザがある」
男は無情にも続ける。言う通り、魔王の証が見えた。
「魔王は勇者にしか倒せない。あれは、リタちゃんにしか殺せないんだよ」
背から離れた男の手が肩に乗せられた。
「どこのどいつかは知らないけど、運のないヤツだね。同じ魔王に実験台にされるなんて」
たとえ魔王だろうと、なにもしていない相手を傷付けるのは嫌だ。少女は折れた剣を胸の前で握りしめた。
だから、と男の静かな声。
「殺してやってよ。魔王を仲間だとは思いたくないけど、ボクだって魔王だ。あんな風に生き長らえさせられるのはつらいよ。楽に、してあげてほしい」
ボクにはできないから。
魔王を倒せるのは勇者である少女だけ。
少女は唇を引き結ぶ。
「……楽に、するのは、いいこと……?」
うん、男は確かに頷く。
こぼれかけた涙を拭って、折れた剣を見下ろす。
「ボクがゴーレムの気を引くから、リタちゃんはその横をすり抜けて奥に行くんだ」
「奥?」
男の手が少女の手に重ねられ、折れた剣を取り上げた。
「奥に伝説の勇者の剣――聖剣が封じられている。その封印を解いて、聖剣であいつを――あの魔王を殺して……楽にしてあげてほしい」
そうすれば、ゴーレムも止まるはずだ。
男の赤い目は少女を見下ろしている。少女はそれを見上げて、こくりと頷いた。




