第十四話
岩石を避けながら少しずつゴーレムに近付いていく。跳弾のせいで一進一退、なかなか前に進めない。
生物でないゴーレムは疲れ知らずだ。絶え間なく投げられる岩塊が厄介で近付くのも難しい。
しかも近付いたところで迂闊に斬りかかれば剣が折れる。
胸元の赤石の位置は高い。懐まで入り込んであの位置まで跳べるだろうか。
とにかく近付かないことには始まらないと少女は岩塊の間を縫って走る。
ズシン、
不意にゴーレムの身体が傾いだ。
「あっ」
ズズン、
重たい音を立ててゴーレムが横倒しになる。
ふ、と男が思い切り吹き出した。
「あはははは、バッカだぁ、あいつ。その場で岩掘りまくったら足元削れるだろうに」
抉れた地面にはまり込んでいる。ゴーレムはもたもたともがいているがうまく起き上がれないようだ。
それでも両手足をめちゃくちゃに動かしているので簡単には近付けない。あの太い手足だ、当たっただけで致命傷になるだろう。
だが岩塊の雨が止んだのは僥倖だ。
今のうちにと少女は距離を詰める。男の支援魔法が飛んだ。じわりと腕や足に熱が集まる。肉体強化だ。
一足跳びでゴーレムに肉薄。振り回される手足を避け、倒れたことでちょうどいい高さにある赤石に刃を叩き込んだ。
赤石はいとも簡単に砕ける。
バキンッ、
同時に刃が砕けた。
「あぁっ!」
腕が痺れる。
ゴーレムの振り回される腕が止まらない。慌てて避けるが鼻先を掠った。チリとした痛みを感じながら二度の跳躍で距離を取る。
ゴーレムはまだもがいている。
「囮か!」
「ただの飾りってこと⁉」
いや、と男が首を振る。
「一応魔力の流れはあの赤石にあった。けど核ではない……えぇ、面倒な作りしやがって」
「他に核のありそうなところは……」
「通常、核は表面に露出しがちだ。生物と違って、魔力の流れを制御するには内側だと不都合なんだ。だから弱点を晒していることになる。これはゴーレム製作者にとっての課題でもある」
それ以外にも機能停止させる必要が出たときに内側に核があると、製作者でも止められないという事態になりかねない。そのためゴーレムは核が表面に露出している方が都合がいいのだ、と男は続けた。
ゴトン、ゴトン、ゴーレムが激しくもがいている。感情がないように見えるが、今だけはなんだか苛立っているように見えた。
「でも造化の魔王だしな……もしかしたら、本当に核を内側に入れかねない……」
「内側にあったらどうしたらいい?」
剣は効かない。少女は刃の折れた剣を見下ろしながら考える。
(思い出の剣だったんだけどなぁ)
剣の扱いを教えてくれた旅人にもらったものだ。惜しくはあるが、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
赤石を斬ったときに外殻にも当たった刃はほとんど砕けるようにして折れていた。それほどの硬度を持つゴーレムだ。まともにぶつかるだけでも骨の数本は砕けるだろう。
かといって少女は他に武器を持っていない。腕力には自信があるが、殴ったところで拳が壊れるだけだ。
生物と違って目などの急所を狙うことも無意味と見ていい。
ゴーレムが足元をすくわれ倒れたときに思い切りぶつけたのだろう、右目部分は石が砕けたのか光を失っているのが見えた。
脳すら存在しないので生き物のように脳を揺らして脳震盪を起こさせるなんてことも無理だ。
やはり核を叩くしかない。
(でも、核はどこに?)
胸の赤石はダミーだった。
額のドラゴンのような魔王のアザ(ゴーレムにアザなんてあるのだろうか)を砕くのはほとんど不可能。
さて、どうする。
「どうしようねぇ」
少女の心を読んだかのようなタイミングで男も呟く。
「屋外なら内側から爆破すればそれで終わるんだけどねぇ」
少女は目を瞬かせ、首を傾げる。
「ダンジョン内だとできないの?」
できないの、男は頷く。
「ここは外より空気が薄いでしょ。そんなところで火気なんて起こしたら大変なことになるよ。変なガスでも出てたらそれに引火してボカーン、だし」
酸素不足で死にたくないでしょ、と男は肩をすくめた。
なるほど、そんな方法は危険すぎて試したくもない。
ゴトン、
ゴーレムが音を立てて転がった。立ち上がるのに失敗したらしい。
立ち上がってまた岩を投げ始めたら厄介だが、今のように両手足を振り回してもがいているのも厄介だ。
動きが遅いとはいえ、それは生物型モンスターに比べたら。しかもめちゃくちゃに振り回された手足の軌道は生物よりも可動域が広く、予測のできない動きをしているから無策に近付くのは危険すぎる。
「ん?」
今度はうつ伏せでもがいているゴーレムに違和感。
どうしたの、と男が首を傾げた。
目を凝らす。少女の視力は昼間の野外で直線距離なら十数メートル先の針の本数を数えられるほど。
暗いとはいえ、宙を舞うランタンの灯りに照らされているのでそれなりに見えやすい。
「人形……?」
頭と胴体のつなぎ目。人間でいうところのうなじ部分に異物が埋め込まれているのが見えた。
そこに妙な凹凸がある。更に目を凝らす。
黒い外殻に埋もれているそれはヒトデのような形で盛り上がっているように思えた。不自然に白いそれはつるりとした表面をしている。
あ、と無意味な声が口からこぼれ落ちる。




