第十三話
ガラガラガラ、ズシンッ、
天井から大きな影が降ってくる。
ひと際大きな音と振動を立ててそれは地面に降り立った。ゆっくりと立ち上がるそれは見上げるほどに大きい。
「ご、ゴーレム⁉」
ランタンに照らされた真っ黒な塊――かろうじて人型と言える大きな影。大きな岩が載っているだけのような頭部、太い岩の連なった手足、胴体はがっしりとしていて短い。肩や腹などのあちこちから水晶らしき鉱物が生えて飛び出している。
胸の辺りには赤いつるりとした丸い石がはめ込まれていて、少女でさえ絵本で見たことのあるゴーレムの姿そのものだった。
「うわぁ……アイアン……いやスティール・ゴーレムか? もしかしたらレッド・ゴーレムかも」
男が独りごちる。
生物ではないので正確ではないが、頭部の目に当たる位置には胸元のものと同じ光り方をする赤いものが二つ、こちらを見下ろしていた。
「でっかい」
先日のレイクワームの全長よりは小さいだろうが、立ち上がった姿は似たようなものだ。目算で五メートルはあるだろう。
ランタンがふわりと高度を上げ、ゴーレムを頭から照らす。
「あっ」
先ほどは暗がりでよく見えなかったモンスターの頭部がよく見える。――額にドラゴンのような白い模様。
「魔王……!」
その模様は男の左頬にあるアザと同じもの。
ちらと隣に立つ男へ視線をやる。男はゴーレムを見上げたまま目を見開いた。
「この魔力……造化の魔王のものか。さしずめこいつは、石くれの魔王ってところかな」
少女は目をぱちりと瞬く。意識はゴーレムから逸らさないまま、「ゾウカの魔王?」と男の言葉を繰り返した。
男もゴーレムから視線を逸らさないまま頷く。
「魔王は多いからね。人間のような名前がない者も多い。だからお互いを呼び合うときの呼び名があるのさ。あのゴーレムを造ったのは造化の魔王と呼ばれている魔王。モノ造りが趣味だけど、造るものほぼ全てが冒涜的で趣味の悪いヤツだよ」
だからって魔王まで造り出すなんて、と男は苦い顔だ。
ゴーレムは奥へ続く横穴を塞ぐようにして立っている。二つの赤い光がチカチカと点滅した。
「来るよ」
ゆっくりと岩の巨体が動き出した。
腰を落として中段に構える。右足を引いて、左足に力を入れる。
横で男も正面に片手剣を構えた。
「動きは遅い。でも、その分パワーは計り知れないから注意して」
「うん。勝つよ!」
ゴーレムの左右に垂らされた長い腕が地面を掴んだ。ガゴッ、と音を立てて持ち上がったのは大人の男でも抱えられないほど大きな岩の塊。
「うわぁ」
男のうんざりした声。
岩の塊をゴーレムは予備動作なしでぽぉんと放った。まるでリンゴでも放るかのようだ。
地を蹴って後方へ回避。着地と同時に再び足に力を入れ更に距離を取る。二人の立っていた位置に落ちた岩の塊は地面に当たって砕けた。砕けた大量の岩が四方に飛び散る。
跳弾した岩が左肩を掠った。砕けた塊ですら少女の頭の半分はありそうだ。
「シグレくん、ゴーレムの弱点知ってる?」
体勢を整える。肩の傷は深くない。
「うーん、ゴーレムの種類にもよるけど、あれはこの洞窟と似たような性質を持ってそうだね。それなら、岩石由来だろう。ま、見ての通りかたそうだ。普通の剣は簡単に通らないだろうね」
続いて投げられた塊を避けながら男はゴーレムを観察している。
「ゴーレムは核となるモノが存在する。力の源であり、人間でいう心臓部分。これは性質上どうしても主成分になる外殻部より脆くなる。そこを叩けばあるいは……」
「核ってどこ⁉」
再び投げられた塊を避ける。跳弾の軌道が読めず、また小さい傷ができた。
男は涼しい顔で手を肩の辺りに上げた。
「さぁ。それはゴーレムの製作者次第だからねぇ。ボクにはわからないや」
お手上げ、と男は眉を下げて笑う。
「通常の魔王ならだいたいアザのあるところが弱いんだけど……あれはやめた方がいいだろうね。外殻そのものだし」
剣折れるかも。
確かに、と少女は頷く。
「怪しいのは胸の赤石かなぁ」
「だーよーねー」




