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未来の息子シリーズ

操られ王太子、断罪会場で未来息子に煽られ嫉妬爆発→魅了解除されました

作者: *ほたる*
掲載日:2026/03/13

※各話パラレル構成のため、単独でも楽しめます。

「公爵令嬢アディア・リーベル、其方との婚約を破棄する」


 王太子、レオンハルト・アウレリウスの声が大広間に響き渡る。

 凛とした声とは裏腹に、胸の内は焦燥と混乱で満ちていた。

 くそっ。どうして、こんなことに──。


 ──数年前。

 淡い金髪をかき上げ、レオンは深くため息をついた。

 今日は婚約者との初めての顔合わせ──正直、面倒でしかない。

 十四になったばかりで、王太子としての責務は増える一方。

 未来の王妃だとしても、これからお茶会に振り回される日々を思うと気が重かった。


「レオンハルト殿下」


 柔らかな声に、ふと顔を上げる。

 はちみつ色の髪が春風に揺れ、光を散らした。

 十三歳になったばかりの少女──アディアだ。


「……これからは、よろしくお願いいたします」


 彼女は静かにスカートを摘み、ぎこちなくも丁寧にカーテシーをした。

 幼さの残る動きの中に、品の良さが確かに息づいていた。


 完璧ではない。

 けれど──だからこそ、瑞々しい。

 花が咲ききる前の一瞬の美しさのようだった。


 顔を上げたアディアがふっと微笑む。

 柔らかい光がふくらむような笑顔。

 金の睫毛が震え、琥珀色の瞳がまっすぐレオンを見つめる。

 その瞬間、レオンの胸がドクンと跳ねた。


 ──彼女を見ると冷静でいられない。

 自分が自分でなくなる。

 戸惑いのあまり、彼は次第に彼女に冷たくふるまうようになった。

 顔を合わせれば眉間にしわを寄せ、ほとんど口を開かない。

 やがてアディアも、彼の態度に心を閉ざしていった。

 その矢先──


 ピンク色の髪の少女が、レオンに近づいた。

 本来なら自分には決して効かないはずの精神干渉。王家の血は精神耐性が高く、訓練も受けている。

 なのに──胸の奥がざわりと揺れた。


(なぜ……押し返せない?)


 自分でも理解できない“弱さ”が、そこにあった。思い当たる理由は一つしかない。

 ──アディアに初めて会った、あの日からだ。

 彼女の笑顔を思い出すだけで、胸の奥がじんと熱くなる。

 呼吸が、ほんの少しだけ乱れる。

 ……彼女のことを考えると、どうしても心のどこかが無防備になる。

 その“隙”に、

 ピンク色の髪の少女──ロザリーの魔法が入り込んだ。


 彼女はレオンハルトの腕にしがみつきながら、

 その瞳の奥でにやりと笑った。


(……うまくいったわ)


 この魔法は、対象の“心の揺らぎ”にだけ反応し、そこを足がかりとして侵食する特殊な魅了魔法だった。

 王太子の心に“特定の隙”があることは、事前に綿密に調べていた。


(まさか、ここまで完璧に効くなんて)


 腕を掴む指先に力を込めながら、

 ロザリーは勝ち誇るように唇を吊り上げた。

 壇上の向かい側では、アディアが蒼白な顔で立ちすくんでいる。

 事情が飲み込めないまま、ただレオンを見つめるしかない。

 大広間の空気が、きしむように張りつめた──

 その瞬間。


「──母上ええええ!!」


 会場を、突如として淡い光が包んだ。

 場違いという言葉では到底足りないほどの叫びが、大広間の空気を震わせる。

 光がすっと収まると──

 そこに立っていたのは、アディアのはちみつ色の髪と、レオンの瑠璃色の瞳をそのまま受け継いだ、

 六歳前後の小さな少年だった。


 全員が、息を呑む。

 少年は涙をぽろぽろこぼし、鼻水をすすりながら、

 一目散にアディアの胸へと飛び込んだ。


「母上ぇぇ!! 僕、振られちゃいました──!!

 エレンお姉さま、今度ほかの人と婚約しちゃうんですよ──!!

 慰めてくださいぃぃ!!」


 レオンの眉が、ピクリと跳ねる。

 会場中が混乱で固まり、誰も状況を理解できない。


「前に、僕がお嫁さんにしてあげるって言ったら、

 笑って『いいわよ』って言ってくれたのに!!」


 少年はさらにアディアの胸へ顔をうずめた。

 アディアは真っ赤になり、どうしていいのか分からず固まっている。

 レオンの身体が、ぶるぶる……と震え始めた。


「こんなことになるなんて信じられない!

 僕はこれからどうやって生きていけばいいんですかあ!!」


 ぐりぐりとアディアの胸に顔を押し付ける少年。

 ──その瞬間、レオンがついに爆発した。


「貴様!! 俺のアディアに何をしている!!?」


 レオンはつかつかとアディアへ歩み寄ると、

 少年を べりッ と引きはがした。

 急にレオンの腕の中へ閉じ込められたアディアは、真っ赤なまま茫然とする。


「な、何するんですか父上! 僕の母上ですよ!?」


 少年はむくれて抗議した。


「知るか! 俺だってそんなことしたことないんだぞ!?

 お前、何様のつもりだ!!」


 ……正直、うらやましい。


「僕は僕です! 僕の母上を取らないでください!!」


 少年はギャーギャー叫びながらアディアの腕を引き、レオンは取られまいとさらに抱き寄せる。

 アディアは成す術もなく、レオンの腕の中で戸惑うように震えていた。


「ちょ、ちょっと……どういうこと?!

 なぜ魅了魔法が……?」


 思わずロザリーが言葉を漏らした。


「魅了魔法だと?!」

「なんだって!?」

「どういうことだ?」


 群衆がざわめく。しかし──

 レオンと少年は、完全に聞いていない。


「父上!! 離れてください!!」

「離すものか! 俺は──」


 レオンの指先に力がこもる。


「俺は彼女を──愛している!!」


 その瞬間だった。

 ぱぁん、と閃光が広間に広がる。


「なっ……?! 何!?」

「光──?」


 戸惑いの声があちこちから上がる。

 その中で、少年の腰に下げられた小さな通信機から、ジジッ……と機械音が鳴った。


「……リ……ユーリ。戻ってこい。

 ──そこは、お前のいるところじゃない」


 硬質な声。

 しかしその響きは、この場にいるレオンとそっくりだった。


「父上!? あれ……? 本物の父上はここに?!」


 少年の体を包むように、まばゆい光が立ち上る。

 アディアが息を呑んだ瞬間、

 光は少年を完全に飲み込み──

 しゅん、と音もなく弾けて消えた。

 光が晴れたあと、そこに少年の姿はもうなかった。


 その後の調査で、ロザリーが冷戦状態にあった隣国の刺客であったことが判明した。

 今回の事件は隣国の失態として扱われ、

 王国は自国に有利な条件での和平を結ぶこととなった。

 混乱の収束を見届けた後、レオンはアディアの前に立ち、静かに息を吸った。


「……今まで、すまなかった。

 君にどう接したらいいか分からなかったんだ。

 本当は──初めて会ったときから、ずっと惹かれていた」


 まっすぐ向けられたその想いに、

 アディアは頬を赤らめ、潤んだ瞳でそっと微笑んだ。


「……わたくしも、ずっと……貴方のことが好きでした。

 てっきり、嫌われていたのだと……」


 二人は小さく笑い合う。

 長くすれ違っていた心が、ようやく重なった瞬間だった。


 こうして一連の事件は幕を閉じ、王国には静かな平和が訪れた。

 レオンとアディアが顔を見合わせると、そこにはもう、以前のぎこちなさはない。

 ──あの人騒がせな少年とは、またいつかきっと会える。

 二人は、そんな確信とともに……寄り添うように微笑んだ。



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― 新着の感想 ―
よっしゃ! ユーリのことを引き合いに……、ダーーイブ! するのは夜だけにしましょうね? レオン。 ユーリがやってたことを「うらやましい……」と思ってたでしょ? アディアのアレの感触を顔面で感じたい…
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