6.電車(1)
「今日は電車について話をしようと思います。」
「電車?」
「電車。」
「電車といっても色々な切り口があるんだけど。」
「そう、その色々について。」
「電車の仕組み、運転の仕方、デザイン、分類、歴史、あとどんなのがあるだろう?」
「あ、ごめんなさい。そこまで色々ではありませんでした。」
「それで、電車だっけ?」
「うん。昨夜旅行番組見ててね、出演者が『あ、電車来た』って言うんだよ。」
「それがどうかしたの?」
「どう見ても架線がありませんでした。」
「ああ、そういうことね。」
「第三軌条もありませんでした。」
「はいはい。」
「何かモヤっときてね。」
「大変残念なお知らせです。」
「何よ。」
「貴方はもう後戻りできないところまで足を踏み入れてしまっています。」
「そんなに大変なこと?」
「以前伯父さんが言ってたんだよ。ディーゼルカーなんかを電車って言ってる人をつかまえて、『それは電車じゃない!』って指摘しちゃうようになったら真正だって。」
「ガーン…。」
「それに気を付けた方がいいよ。」
「まだ何かあるの?」
「最近は蓄電池とか燃料電池とかを積んで、ディーゼルカーだと思ったらモーターで走る『電車』でしたってのが増えてるから。」
「不用意に指摘したら、恥ずかしい目にあうかもってこと?」
「そういうこと。」
「でも、あの番組で映ってた電車は確かにディーゼルカーだった。」
「ちょっとナオ、気付いてる?」
「え?あれ?電車じゃないのに電車って言っちゃってた。何これ怖い。なんかの呪い?」




