45.改札(1)
「昨日の帰り、武蔵小金井の自動改札で引っかかっちゃったよ。」
「ごめん。言っとくの忘れてたんだ。『都区内パス』で乗って定期券で降りたんでしょ。」
「そう。トモは知ってたんだ。駅員さんのいる窓口でパスと定期券を見せたら何か操作して通してくれた。」
「僕は最初から駅員さんのところに行った。で、その時になってナオは大丈夫だったかな?って思い出した。」
「ちょっと遅かったね。」
「悪かったって。引っかかったのは定期券に入場記録が無かったからだと思う。」
「都区内パスもスマホに入れられたら自動で判断してくれないのかな。でも定期券で使ってるとダメなんだよね。」
「うん。だから紙のきっぷを買ったんだもんね。スマホに入れる方法もあるけど管理が面倒そうだし、定期券と一緒には使えなかったはず。」
「それで俺が引っかかったのは『キセル』ってのの疑いだよね。」
「そうだと思う。」
「何でキセルって言うんだっけ。」
「煙管って、吸い口と煙草を詰めるところが金属で、その途中は主に竹でできてるんだよ。」
「あ~、そんな恰好してる。」
「だから、最初と最後だけ金属を使ってて中は素通し。」
「あ、そういう事だったんだ。」
「中間無札っていう不正乗車だね。」
「そういうのを防ぐ仕組みなんだね。」
「似たような言い回しで『サツマノカミ』ってのもあるけど知ってる?」
「知らない。いつもの昭和の人情報でしょ。」
「うん。平家の武将に『平忠度』って人物がいて、そのひとが『薩摩守』だったことに掛けて『タダ乗り』、つまり無賃乗車のことを言うらしい。」
「全くお金を払わないからキセルとは違うんだね。でもそんな乗り方できるの?」
「そういうことに頭を働かす人はいるからね。だけど明らかな不正行為だし、割増運賃が請求されたり、刑事罰の対象にもなり得る。」
「罰則ぬきでも絶対にダメだよね。俺たち鉄道ファンとしても、運賃・料金をちゃんと払うのがあるべき姿だと思う。」
「そうそう。お得なきっぷなんかで、工夫して安くするのは構わないと思うけどね。」
「こんなことで記憶に残るタダノリさんって…。」
「今クラスメイトにそういうことしたらイジメだよね。」
「それと俺たちがお金を払って鉄道に乗るのって、推し活とかお布施みたいな感じだなって思った。」
「ちょっと違うんでない?」




