10.絶景(1)
「来月あたり旅行に行こうと思うんだけど。」
「はい、いってら~。」
「古いね。やる気ないね。」
「僕は安楽椅子鉄だから。」
「初めて聞いた。」
「初めて言った。で、どこ行くの?」
「迷ってるんだよ。」
「候補は?」
「その候補決めで。何か『絶景』とか見てみたいなって思うんだけど。」
「あ~、絶景ね。」
「ネットとか雑誌とか、うわぁって思うような鉄道の写真が出てるじゃない。でも、それはそれで、多すぎて選べない。」
「そこは好みの問題だからねぇ。でも、ひとつアドバイスをして進ぜよう。」
「やっぱり古いね。」
「進ぜない。」
「ごめんなさい。お願い申し上げますです。」
「あのさ、ナオは車窓を楽しむ派だよね。」
「うん。」
「ああいう写真って一緒に列車も映ってたりしない?」
「うん。大自然の中の列車!とか、大都会を走る列車!とか。良い感じだよね。」
「そこに落とし穴があるんだよ。」
「『写真はイメージです』ってやつ?天気良くないととか、季節で変わるとか。」
「う~ん、そういうのもまあ有るだろうけど。根本的なところで。」
「何だろう?」
「つまりだね、必ずしも車内からも同じ景色を望めるとは限らない。」
「あっ。」
「まあ、参考にはなるけどね。」
「言われてみればそうだよね。」
「特に『渓谷の鉄橋を渡る列車を見下ろす』とかはね、列車を降りてから山を登らないとだし、車内から鉄橋全部は見れないよね。」
「確かに。でもって、ああいう所って駅から遠かったするんでしょ。」
「うん。それで、できれば降りないでほしい。」
「そっか。きっと降りちゃうと次が来るまで数時間待ちとかだったりするんだよね。」
「いや、ナオの名前を『鉄道ファン、登山中クマに襲われる』なんてニュースで見たくないから。」
「理由が恐かった。」
「ほんと、冗談にならないから。」
「早く落ち着いてほしいよね。」
「話を戻すけど、写真も行く場所を選ぶ参考にはなるし、もし運転席の後ろで景色が見える車両だと結構良いと思うよ。」
「良く調べて考えろってことね。」
「結局のところ個人の感じ方は様々だし。」
「逃げを打ったな。」
「あれこれ調べて考えてる時間が楽しいんだよね。」
「それは確かにそう。だけどトモはそれだけで満足しちゃいそうだね。」
「そうだけど、なにか?」




