転校生(五)
運賃は500円だった。
僕の財布事情を考えると、これで済んだのは幸運だ。ありがとうJR東北…これで帰りの分しか残ってないけど。
肩を並べて電車に座り、秋山さんと短い会話を交わす。
楽しいものもあれば、少し苦いものも。
「それで、立田さんの趣味は何ですか?」
「いつか聞かれると思ってました。実際のところ、特に何かに熱中しているわけじゃなくて…どう答えればいいのかわからないです」
「ええ〜、そろそろ卒業する生徒が帰宅部だけってのは寂しいですよ」
残念ながら、それが現実だ。趣味も興味もない。他の活動に割く時間的余裕が、本当にないんだ。
今日はバイトがないから、普段なら考えもしないような寄り道をして家に帰ることにした。
平内からこんなに遠くまで出ることはめったにない。たとえこの町から逃げ出したいと思っても、時雨を連れて行かなくちゃならない。そうしなければ、彼女の安全を保証できないからだ。
もちろん、それは二人分の家賃と食費を賄えるだけの収入があるフルタイムの仕事を見つけることを意味する。
学業を終えていなければそれも難しいから、まずはせめて高校だけは卒業してから考えたい。
「進路希望の調査票はもう書きましたか、立田さん?」
また質問だ。秋山さんからの。
答えてあげたいけど…実際のところ、日々の生活に追われて、高校を卒業すること以外、何も考えられていないんだ。
平内の外で暮らす自分を想像したことすらない。そして、多分一生そうしないと思う。
「…実は、まだなんです。秋山さんは?」
質問を返した。繰り返すけど、僕の調査票はまだ真っ白だ。
父に相談するつもりは毛頭ないし、兄がしたように柳さんにそこまで迷惑もかけたくない。
日々の食事でさえままならないのに、大学の授業料なんて考えられない。後藤はやっとのことでローンを組んだらしいから、僕にもそれができる保証はまったくない。
柳さんもいずれ結婚して、自分の子供を持つだろう。だからあんなに頼りすぎたくはない。でも、僕のためじゃなく時雨のために、頭を下げなければならない時が来るかもしれない。
時雨は僕よりも明るい未来を持っている。学校ではほぼ完璧な成績だ。高校に入ってもそれは続くだろう。
とにかく。僕の質問に答えて、秋山さんは微笑みながら言った。
「私もです。私の両親は私に何も要求しません。むしろ、私に何の期待もしていないみたいです。完璧な娘になろうとどれだけ頑張っても…」
「え?」
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
確かに彼女が何か呟いたのは聞こえたけど、忘れろと言うならそうしよう。
今、じっくり考えてみると、もしかして目立ちすぎてる? しばらく前から、後頭部に何組かの視線を感じる。こっちを刺し通そうとしてるみたいに。
うっ、わかってるよ。秋山さんはかなり可愛いから、多分そのせいで死にそうな気分になってるんだ。
「ねえ、すみません…」
早いか遅いか、誰かが僕の席のすぐ脇で直接話しかけてきた。女の子だ。年齢は僕と近そう。制服は見覚えがない。
その子は折りたたみ式の携帯電話を差し出し、自信に満ちた笑顔で言う。
「お邪魔してすみません。とっても素敵な方だなと思って。携帯の番号を教えてもらえませんか?」
僕は十秒ほど沈黙した。
秋山さんを振り返ると、彼女はもう背を向けて忍び笑いしていた。
聞き間違いだと思う。
「え、僕に番号を聞いてるんですか?」
バカみたいに聞こえないか少し怖くなりながら、聞き返した。
目の前の女の子はうなずき、僕が聞いたと思ったことを確認した。
「そうですね」
彼女は美しい微笑みを浮かべて言った。
「連絡先に登録しておいて、今度どこかへ遊びに行けないか聞いてみたくて」
僕の思考は、線路から脱線した。
本能で、最初に頭に浮かんだことを答える。
「あ、えっと…僕、携帯持ってないんです…」
緊張が僕を蝕み始めた。
一体何なんだ? 冗談の類か? 脅し取ろうってのか?
「本当? それってかなり珍しいですね。うーん…またこんな偶然があるとは思えないから、これはあなたにあげる」
ごく軽い調子で、その子は携帯を僕の手に置いた。僕は少し震えていた。
マジで、いったい何が起こってる? 今生の運を使い果たしてるのか? 死ぬ直前なのか?
種田がここにいたら、僕の首を絞めてるだろう…
「受け取れません。お褒めいただいて光栄ですが、携帯をプレゼントされるほどの価値は僕にはないと思います。お互い何も知らないんですし」
「片桐 塔香。十八歳。今年、青森の富士見学園を卒業します。家庭の都合でよく平内まで来てるんです」
がっ…! 自己紹介までしやがった!
彼女がここまでしつこい理由がわからない。そしてお願い、秋山さん、こっそり笑うのやめてよ!
「そのまま受け取ってよ。電話してね? もう一台の携帯は『携帯2:続編』って登録されてるから」
「あなたのことがまったく理解できません。お願いですから、携帯を持って行ってください!」
片桐塔香は来た時と同じように、別の車両へと去っていった。手の中のこの新しい物体の重みが、これ以上なく重く感じられる。
警察署に置き去りにするのは失礼だろう…
青森
街に着くと、秋山さんが先頭に立ち、僕の腕を引っ張って言った。
「さあ、立田さん! 楽しむ時間はたっぷりありますよ!」
「うわっ…!」
突然の引っ張りにほとんどよろめいたが、秋山さんのペースにはすぐに慣れた。彼女は見たところ、肉体的にかなり活発らしい。
その一方で、僕は吐き気をこらえなくちゃならない。
この一日が、これまでのどんな日よりもずっと楽しかったと言うほかない。この瞬間から僕の人生がどれほど変わるかなんて、本当に想像もしていなかった。




