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転校生(三)

田舎の学校だから、時間割は普通の高校とは違う。生徒の数が少なく、教師も限られているせいで、昼前にはもう放課になる。


その日の終わりに、まさかそんな形で声をかけられるとは思っていなかった。ちょうど荷物をしまっている時だった。


「立田さん、すみません。今日、お忙しいですか?」

秋山さんがそう尋ねた。彼女も自分の鉛筆をしまっているところだった。


午前中は一言も話さなかった。授業間の短い休憩時間でさえもだ。少し驚いた。というか、彼女の存在すら忘れかけていたくらいだった。


「どうしました、秋山さん?」

会話の流れを作るために、そう聞き返した。


秋山さんは答えた。

「立田さんは平内のご出身ですか? 母が食料品を買ってきてって頼むんですが、ここの地理が全然わからなくて。少し案内してほしいんです」


「…ええ、地元です…妹が学校から出てくるまでまだ少し時間あるから、僕は空いてます。けど、なぜ僕に? 誰にでも聞けたはずじゃ…」


「話したことがあるのは立田さんだけですし、何だか信頼できそうな感じがしたから。それに、鷲岡先生が、どんなことでも立田さんに相談しなさいっておっしゃってました。成績は並みだけど、全体的には一番責任感があるって」


学校のアイドルにそんな風に言われたのは、ちょっとしたショックだ…けど、侮辱とかそういう風には取らないよ。


鷲岡先生には、転校生の面倒を見られるくらい僕が信頼に足る人間だと思う理由があるんだろう。


それか、単に僕が、人を助けるのが嫌じゃない数少ない人間の一人だから、その役目を押し付けただけかもしれない。


「僕の成績が並みだなんて言うからには、君の平均点はどれくらいなんです?」

少しむっとしたように聞こえたい、半分冗談でそう言った。


別に怒ってるわけじゃない。会話のきっかけとしては悪くないと思う。


「おお、そうですねえ…参考までに言うと、東京でトップ10入りしてましたよ。お望みならネットで検索できますし」


そして秋山さんは、片手で髪を揺らしながら、大げさに誇らしげな表情を浮かべて、僕の冗談に乗ってきた。


「プッ、ははは…わあ、秋山さん、見かけほど堅い人じゃないんですね」


「冗談じゃありませんよ、立田さん。本当に東京ではエリート学生の一員でしたから!」

彼女は自慢げな態度を崩さない。もちろん、彼女の言うことは非常に注目に値する実績だ。


僕たちは同時に席を立ったが、行こうとする前に、別の誰かに呼び止められた。


種田が僕の腕を掴み、教室の隅へと引っ張っていって、小声で言った。


「おい、バカ!何あれは?!お前、知らない人にニコついたりしねえだろ!?町を案内するだって?!いつから立田学がそんな親切な奴になった?!」


こうなるってわかってた。彼の言う通りだ。僕は知らない人にそんなに親切にしない。


ただ…どうだろう。秋山さんはいい人そうだ。誰にでもそう言うわけじゃない。


「鷲岡先生が、俺を信頼していいって彼女に言ったんだ。変なこと考えんなよ、クソったれが」


「ありえねえ…望月が死んでからお前は一人で殻に閉じこもってるだけのクソ野郎だったはずだ。好きなんだろ、テメェ?!それしか答えがねえ!」


「おい!好きだなんて一言も言ってねえよ!ただ、他所から来た人と知り合うのも悪くないって思っただけだ!」


「じゃあ、兄貴のせいか?」


……


種田の掴みから腕を振りほどき、「また明日」とだけ言って、何も答えずに彼をそこに突っ立たせた。


秋山さんに、行けるよ、と合図するように顔を動かした。


はあ…あのバカは口を慎むことを知らない。昔からずっとそんな軽率な奴だ。何度か、本当にちょっと傷つくようなことを言われたこともある。


確かに…その通りだ。後藤のことをもっと知りたい。あの兄貴は今、何をしているんだろう。他の人とどう関わっているんだろう。そして、僕たち弟妹のことをどう思っているんだろう。


父が病的なギャンブル狂で、後藤が僕たちに送ってくれる金を最後の一円まで賭け事に使い切るせいで、僕の日常は非常に厳しい。


今朝も、八年前に凶悪犯罪で亡くなった母の遺品の中から、また何かを探し回っていたに違いない。


そして、後藤は父が怪物だって知っていたくせに、時雨と僕を置いて行った。


父が時雨を殴らない代わりに、あのクソじじいが酔っ払った時は、大抵僕が殴られる側になる。でももちろん、昔は後藤が僕たち二人のために同じことをしてくれていた。だから、父に時雨を触らせないのは、長男としての僕の役目なんだろう。


後藤がどうしているか知りたい…そして、今いる場所で幸せなのか聞いてみたい。


あの兄貴が去ったことを責めたりはしない。ただ…せめて時雨だけでも連れて行ってくれれば良かったのに。僕はあの父なら耐えられる。


学校の敷地を出たばかりの時、秋山さんがまた僕に話しかけてきた。


「どちらに向かえばいいですか、立田さん?」

期待に満ちた顔で僕を見ながら、彼女は尋ねた。


今はこんなこと考えてる場合じゃない。この状況の空気を壊してしまう。


秋山さんには、僕に彼女と交流したいと思わせる何かがある。好きだとは思わないけど…不思議だ。


いい友達にはなれると思う。うん、それは確かだ。


「歩くしかないですね。見てるかどうかわからないけど、ここにはマックスバリューがあります」


彼女がその情報を知るのはいいことだ。時間をかけずに済む、手近な選択肢なんだから。


「でも、ちょっと町の外に行ってみたい気もするんですよね。ここ、ホタテ貝しか見たことないみたいで」


「そうですか…」


都会の女の子が、地元の安いものだけで満足するわけがない、とどこかで思っていた。


うーん…小湊駅からは結構離れてる。歩いて30分はかかるかも。


それで、僕たちは黙って駅へ向かって歩き始めた。青森行きの次の電車に間に合うかもしれない。


道中、他の生徒たちの好奇の視線を感じた。きっと、僕が秋山と何をしているんだ、と思ってるに違いない。


そんな状況で胸を張れるほど、僕は尊大でも自信過剰でもない。


今は彼女を知る過程なんだ。結局のところ、残りの高校生活の間、彼女は僕の隣の席のクラスメイトなんだから。


それに、長い会話を続けられるほど口が上手いわけでもない。一番よく接するのは時雨で、彼女は無表情なこともあって、あまり多くを話す方じゃない。


…時雨が自分から笑えた頃のことを、今でも覚えている…


この町は、若者からあまりにも多くのものを奪いすぎた。ついには、命を絶つ者さえ出た。


「この町の空気…どこか重いですね…」

今、僕の左側を歩いている秋山さんが、そう口にした。


彼女の言う通りだ。時々、何かの力が肩を地面に押し付けてくるようだ。クラスメイトは皆、似たようなことを口にしている。


僕自身も、そんな小さな経験をしたことがある。あの感覚はひどいものだ。


「祖父がよく言ってたんですが、それは地元の神様が、平内を捨てる若者たちに怒っているからだって」


頬を刺す風。春はもう終わりに近づき、夏へと道を譲ろうとしている。


引っ越しを選ぶ家族は増える一方だ。若者の人口比率が極めて低いこんな町に待っているのは、地図から消えることだけだ。


政府も何もしてくれない。70年代から放棄された建物が残っていて、平内の全体的な景観をさらに陰鬱なものにしている。


もちろん、地元の神様である大海様おおうみさまが、僕たちがルーツを捨てることに対して怒っているのは当然だろう。でも今では、誰も海の仕事に就きたがらない。


「じゃあ、私もその神様に挨拶に行って、子供の一人として受け入れてもらわないと。地元の神様ですよね」


秋山さんは小さな笑顔でそう言った。この町には新生児を大海様の神社に連れて行って紹介する習慣があるけど、地元出身じゃない人には必要ないと思う。


「…効くかもしれませんね」

それが、僕の秋山さんへの返事だった。


そうこうしているうちに、僕たちは電車に向かって歩き続ける。

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