部活動は用語と共に
この話では野球用語を多く使用している為、後書きに簡単にまとめた野球用語の解説を載せておきますのでそちらを参考に読んでいただけると幸いです。
また読みにくいと感じられた場合はこの話は飛ばして貰っても構いません。
このエピソードは日常回にしており、飛ばして頂いても今後のエピソードに影響の無いようにしています。(この話では折原の可愛い姿が見られます)
千葉さんはテレビの近くに椅子を持っていき、腰を掛け俺たちにも、「座って観ましょ」と持ちかけ、初めてのプロ野球ニュースを観る事になった。
折原も「仕方ないから付き合ってあげるわ」と、言葉では言ったが、初めてのプロ野球ニュースに興味津々何だろうか? 一番見えやすい所に椅子を持っていき腰を掛ける。
かく故俺も、初めてのプロ野球ニュースに非常に興奮している。
早くプロ野球ニュースを観る事に楽しみにしていた。
「それじゃあ、始めるわよ?」
「えぇ、早くしなさいよ」
「初めてのプロ野球ニュースか」
俺と折原が一言呟くと、DVDが再生された。
最初に流れるコマーシャルですらプロ野球ニュースに対しての期待と高揚感を高めるスパイスとしては上等なものだ。
コマーシャルが終わり直ぐに軽快な音楽が流れプロ野球ニュースとエメラルドグリーンのセットを背景にスタジオが映された。
アナウンサーにプロ野球選手のOBが「こんばんは」の挨拶をし始まったのだと思い知らされる。
俺の前に座る折原も高揚感に当てられているのだろう、折原の表示こそ分からないが、足をプラプラと軽快にリズムを取るようにふっている。
二人のOBが注目試合に対して語り、アナウンサーが台本のようにその結果に興味を抱かせるとヤ・リーグの試合へとスムーズに移行した。
「今日の注目試合は埼玉パイレーツ対大阪ポンタースの試合です」
「ポンタースの先発は高橋、パイレーツの先発幸田の投げ合いになりました」
「初回パイレーツの先発幸田は先頭の福田を二飛に抑えましたが、二番の助っ人 ゾンに左中間にポトリと落ちるセンターへのヒットの後三番中畑は中飛に終わり、四番のドンパレス、その初球でした。低めのカーブを投げたタイミングでゾンがすかさず盗塁、タッチはしますが間に合わず、これでツーアウトランナー二塁、その場面で四番のドンパレスでしたがここはボテボテの二ゴロに打ち取られ、ポンタースは先制のチャンスを逃しました」
「その裏の攻撃、先発の高橋は一番殿田 二番源 と打ち取りましたが三番古賀にセンター前のヒットを許すと四番の海山をフルカウントから四球で出塁させ、ツーアウトランナー一塁二塁の状況をつくりましたが、五番の呉が遊飛に打ち取られこちらも先制をする事が出来ませんでした」
「試合が動いたのは二回、ポンタースの五番山野ヒットの後ダグラスが併殺崩れでワンアウト一塁の場面で、七番の足立がライト線を破る二塁打を放ちワンアウト二塁三塁とチャンスメイク、そして八番の小林がカウント1-2からセンターの前へと運び1対0とポンタースが先制」
試合に見入っている俺たちは一言も話すことなく、部室にはテレビの音声のみが流れる。
そんな均衡を破るかのように小さく声を上げたのは折原だった。
「……よし」
小さくも確実に漏れた折原の声は静寂の部室に小さく響いた。
その声を千葉さんも聞き逃す事は無かっただろう。しかし折原から漏れた声に俺も千葉さんも指摘することはなかったのだ。
「尚もワンアウト一塁三塁ここでOBの熱視線」
「この回からそうだったんだけどね、幸田のコントロールが悪くなってるんだよ? 特に打たれたっていう動揺もあるだろうけどね、でも一番嫌なのはこのままズルズルと失点を重ねて手に負えなくなる事なんですよ、それを踏まえてこの後のプレーを見て欲しいんですけど」
「三遊間の深い位置のゴロを、ショート源が取って6-4-3のダブルプレー、ポンタースの追加点を許さないファインプレー」
「ここで、流れを断ち切ったのは次が分からないぞというね、事なんですよ」
「そして、その裏の攻撃先頭の六番ライトの武田が初球を打って右中間へのツーベースを放つと、七番のオグリビーンが2‐1から、打った瞬間というようなあたりはライトスタンドに突き刺さる第七号逆転2ランホームラン! パイレーツ先制点を取られた後すぐさま逆転に成功」
「そのまま、回は進み七回の表、ポンタースは、八番小林が四球で出塁、九番若林が送りバントを成功させ、ワンアウト二塁でバッターは福田! カウントを3‐2とし、打った当たりは三遊間をしぶとく破るレフト前ヒット外野が浅く守っていた事もあり、二塁ランナーは三塁ストップ」
「ここで、OBの熱視線! この場面でバッターは二番ゾン、この場面ゾンは驚きのホームラン予告です」
「うぉ! いいですねーこれでホームラン打ったらかっこいいですよねー」
「そんなゾンの打席、全球見ていきましょう! 初球は低めに外れるストレート、二球目カットボールをファウルにすると三球目のカーブ、これまたファウル、幸田が1‐2へと追い込み4球目、SFFを見極め並行カウントに、五球目のストレートを打ってファウル六球目アウトコースのスライダーを見逃しフルカウントに、七球目縦スライダーを打った大きな当りはぐんぐんと伸びていきますが、後一伸び足りずセンターのフライに終わりましたが、犠牲フライには十分の距離三塁の小林は優々ホームイン、この回で同点に追いついたポンタース、このまま逆転と行きたいところでしたが、中畑はセカンドへのダブルプレーでスリーアウトチェンジ、逆転とはいけませんでした」
「その後、八回で降板した高橋は球数、101球、5安打3四球、2失点といつもの調子とはいきませんでした」
「高橋と考えると、不調ですがしっかりとHQSを達成しましたし先発としては上出来ではないですかね?」
「そうですね」
「一方、パイレーツの先発幸田もHQSを達成しましたし今日は投手戦というような試合でしたね」
「観戦する方はあまり楽しい試合ではなかったでしょうが、いい試合だとは思いますよ」
「そしてそのまま回は進み、九回の表、ポンタースの攻撃。先頭の山野が四球で出塁のあと代走の佐野が盗塁を成功し、次のバッターが送りバントでしっかりとランナーを三塁へと送ります。
ワンアウト三塁の場面で内野前進守備を敷くパイレーツ。バッターは足立! 打った当りは三塁線へのゴロ! ホームへは投げれず三塁ゴロに打ち取りました、しかしその間に三塁ランナー佐野がホームへと帰り九回ワンアウトから勝ち越し、そうとなれば、九回の裏はこの人ポンタースの守護神 平尾!」
試合が進みボルテージが上がったのか折原は試合観戦さながらのテンション間が見て取れた。
「頼むわよ、平尾!」
小声だが力強くこぼした折原を俺は後ろから眺めていた。
千葉さんも健やかな顔でプロ野球ニュースを見ているが途中で俺に気づいたのか千葉さんは俺に微笑みかけてきた。
俺は、まだ陽キャにはなれないようで千葉さんを見つめていた事に気づかれ恥ずかしく目線を逸らしてしまう。
「ですが、先頭バッターの桃山がレフト線へのシングルヒットを放つと、すかさず代走の若松。その初級でした! 若松が2塁への盗塁を成功して、ランナー二塁の場面で九番代打 長川が一二塁間をしぶとく破るヒットを放ちますが二塁ランナーの若松は三塁ストップノーアウト一塁三塁の場面で一番殿田! しかし内野へのフライ、足立が取ってワンアウト」
「二番源は2‐2から落差の大きい変化球を振り三振に抑え次のバッター三番古賀! 初球真ん中高めに浮いた変化球を振りぬき、打球はライトスタンド中段に飛び込む逆転サヨナラスリーランホームラン! チームメイトにホームベースで迎えられました」
「一方、打たれた平尾は悔しそうな表情、この試合、3対5とパイレーツがサヨナラ勝利を収めています」
「何やってるのよ! 平尾!?」
折原は前の試合にもかかわらず、興奮して椅子から立ち上がりテレビに向かい文句を言っていた。
「ふふっ、やっぱり野球が好きなのね?」
はぁっとした表情で千葉さんへと
「別に好きじゃないし! ただ、そうちょっと少し見入ってしまっただけだから!」
それは、好きという事なのではと、心の中で思ったが、口に出すとまた、興奮しながら否定されそうで、仕方ないので二人のやり取りを眺めていた。
そんな中でも、DVDは進み、パイレーツのヒーローインタビューや試合の注目ポイントの解説はすらすらと過ぎていき、落ち着きを取り戻した二人は後のヤ・リーグの試合も流し見ながら、見進め千葉さんが一番に見せたかっただろう、その日のホームランとファインプレー集の時間へと差し掛かる。
ここまで、六個の試合を五十五分で見終わり、残り五分のタイミングでアナウンサーの人が、「今日のファインプレー集です」とコーナーの紹介と同時に画面が切り替わりファインプレー集が始まる。
「やっぱり、この日の一番のファインプレーは源のプレーよね」
「いやいや、あのプレーは頑張ればできるわよ」
千葉さんへの対抗意識かポンタースがファインプレーをされたのが気にくわないのかどっちかはわからないが、千葉さんと折原の仲が良くなっているようで良かったと二人を眺める。
テレビではプロ野球OBの1人が「やはり、この日の一番のファインプレーは三遊間の深い位置のゴロを、ショート源が取って6-4-3のダブルプレーに打って取った源ですね」
「ほら、言ったでしょ? このプレーだって」
そのOBの発言に千葉さんは言った通りでしょ? と言わんばかりに誇らしげな笑顔を見せる。
しかし、折原も負けていない様で千葉さんをジト目で見つめると「ていうか、これが録画なら、もちろん結果知ってたわよね?」
正論を言われマズイというような顔を折原とは反対側にいる俺に見せる。
やれやれというような俺の表情から読み取ったのか折原は「やっぱりそうじゃない!」と千葉さんに詰め寄った。
まずいと思ったのだろう「ほら、もうホームラン集が始まるわよ」と話をすり替え俺と折原をテレビに注目させた。
神奈川ロビンスの本拠地の映像が流れ、打球音と共に野球ボールが画面に迫っていき、ホームラン集が始まった。
懐かしさすら感じる一昔前の軽快なジャズが流れ、始まる。
選手の名前と今シーズンのホームラン数を左上に表記し右端にはサヨナラならば、サヨナラと表記されホームランの映像が流されていく。
もちろんその中には、オグリビーンのツーランホームランや、右端にサヨナラと表記された古賀のホームランもあった。
「さて、とりあえずプロ野球ニュースを見てもらったのだけど、どうだったかしら?」
「まぁ、楽しめたわ」
「楽しかったですよ」
「そう、なら良かったわ」
俺と折原の感想を聞き、満足げな笑みを浮かべ、言わなくてもわかるように、そうでしょうそうでしょうと顔に書いてあるようだった。
ダブルプレー ダブルプレーとは1つのプレーでアウトを2つ取る行為。
6-4-3 野球ではポジション事に番号が割り振られています。
(投手は1 捕手は2 一塁手は3 二塁手は4 三塁手は5 遊撃手は6 左翼手が7 中堅手が8 右翼手が9)
またこの数字はアウトを取るに至っての経路を表しており上記の6-4-3の場合はショートからセカンドそしてファーストにボールが渡りアウトを取った事になります。
2-1 この数字はその打席のボールカウントを表しています。最初の数字はボール(ストライクゾーンから外れた球の事で四つ外れると無条件で塁に出ることが出来る)であり後ろの数字はストライクを表しています。この場合はボール球が2つストライクが1つというカウントになります。
カットボール 横に小さく早く曲がる変化球
SFF 正式にはスプリット・フィンガー・ファストボールであり、速く曲がりの小さい落ちる変化球
縦スライダー 普通のスライダーとは違い落差のあるスライダー。
HQS 投手のその日に投げた回数(7回以上)と失点数(2失点以下)の場合に記録される指標。
送りバント 送りバントはバットを寝かしあえてゴロを打ちランナーを進塁させるプレーです。
犠牲フライ ランナーを置いた状況で外野へのフライ(飛球)を放ちランナーを進めるプレーの事を言います。
また犠牲フライでのルールとしてランナーの進塁は外野手がフライを取ってからでないと進塁は出来ない他、犠牲フライを打つ前にツーアウトである場合は効力が発生しません。