部員は来ずともヒロインは来る
「もしかして入部希望者! やったわ鈴木くんポスターの効果があったのよ」
ぴょんぴょんと千葉さんは飛び跳ねて喜んでいた。
「私はこの部の部長で千葉麻美よ、よろしく」
千葉さんは俺の幼なじみに手を前に出し握手を求めた、だが返答は千葉さんの望んだものではなかった。
千葉さんの手はパチンと弾かれ、幼なじみがやはり入部するわけない事を改めて理解した。
「おい、何すんだよ? 折原!」
「何って、あたし入部する気ないもん」
手を弾かれたのがショックだったのか? 千葉さんは固まって動かなくなってしまった。それをよそに俺は折原に問い詰めた。
「じゃあなんで? あたしは鈴木を救いに来たのよ! このやばい女から」
「ヤバいって……」
「鈴木くん知り合いなの?」
手を弾かれ少し固まっていた千葉さんは再び動き出し話に入ってきた。打たれ弱いのかそれとも強いのか分からないが案外ケロッとした顔を千葉さんはしていた。
千葉さんは俺の前に立つオレンジがかった茶髪ショートの小柄な女子でタヌキのマスコットが付いた学生カバンを持っているのが幼なじみの折原だと伝えた。
「おい、折原挨拶しろよ」
はぁっとため息を一つつき折原は腰に手を当て自己紹介を始めた。
「鈴木と同じ二年の折原葵よ鈴木とは家族ぐるみの付き合いで鈴木とは幼なじみ」
「そうなのよろしくね折―――」
折原は千葉さんの話を遮り強い口調でこう言った。
「さっきも言ったけど別に、あなたと仲良くするために、ここに来たわけじゃないの、私は鈴木をこの部から退部させるために来たのよ!」
千葉さんの頭にはハテナがある様に見えるくらい、首を傾げ何故俺を、この部から退部させたいのかと、全く理解は出来ていない様子だった。
「何故、鈴木くんを退部に?」
千葉さんの純粋な疑問なのだろうだが、折原からすれば一目瞭然のヤバいやつが煽っている様に聞こえたのか? 少しイラつき気味に俺の時に言った言葉と同じ言葉で、言ってのけた。
「それは、あなたがヤバい女だからよ!」
私がヤバい女? と一周まわって清々しいほどに驚いた表情を千葉さんはする。千葉さんは天然なのかそれともイノシシみたく目の前の事しか見えてないのか
「鈴木くん! 私ってそんなにヤバいのかしら……」
俺自身、どう言うべきか、数秒、悩んだ末に「まぁ、まともでは無いと思います」
はぁっと折原はため息を一つつき「まともな人はね? 同級生をお姫様抱っこして廊下は走らないのよ!」
本日二度目のショックを受けた千葉さんは今度、膝から崩れ落ち座り込んだ。
「何? もしかして気づいてなかったのこの人?」
折原は驚きと軽く引いた目線で千葉さんに対してオーバーキルをかます発言でダメ押しをする。
「ごめんなさい鈴木くん、今日はもう帰る事にするわ」
さすがに、ショックだったのかカバンや荷物をまとめガクンと肩を落とし、部室のドアを開けて帰って行った。
「案外簡単に、追い出せたわね」と折原は拍子抜けした顔で千葉さんの出ていったドアを見つめる。だが俺は千葉さんのその背中を見て心配になるのだった。