見学する部活は頼りになるのか?
「それで、千葉さん? 野球部のメンバー集め何か作戦でもあるんですか?」
「えぇ、もちろん無いわ!」
自信満々な表情で見切り発車な事を伝える千葉さんに1人俺は肩を落とした。
「じゃあどうするんですか?」
千葉さんを少し見上げて顔を見る。
「とりあえず何も考えていないのだけれど何か案はあるかしら?」
「そうですね……例えば他の部活動の様子を見るとかどうですか?」
なるほどと、漫画とかだと頭の上に!がピコンと出るような閃きの顔を浮かべる。
「そうとなれば早速、他の部活へと乗り込むわよ」
部室のドアを勢いよく開けた千葉さんは俺を置いて走り出して行った。
俺は千葉さんの後ろを生徒会長が廊下を走ってもいいものなのかと思いながら追いかけた。
千葉さんはとある部室の前に立ち止まっている。
陰キャの俺にはこの数十メートル走るのもキツくハァハァと息切れを起こしていた。
「やっぱり体力もないのね……部活のメニューにランニングを加えようかしら」
「うるさいですよ……それより着きましたか?」
「えぇ、ここよ」
「ここって!」
「そうここは、演劇部よ」
「ですよね」
俺は一瞬にして期待が不安へと変わったが千葉さんは意に介さず、部室のドアを開けた。
すると噂を知っている俺からするとやっぱりかと思う光景が広がっていた。
部員の四人がこちらの方をパッと見たが、再び劇を始め出した。
「千葉さん本当に大丈夫なんですか?」
「えぇ、確かに彼女たちは毎日校内で劇場をしていたけれど、少しづつ部員を集めて1つの部活として私たち生徒会を認めさせた実力者よ」
千葉さんの目は自信ある様に写りそれは、不安しかない俺に自信を与える力強さを感じた。
だが、演劇部は劇を止める事は無く、部員がバラバラに演技を続ける。
「でも、どうやって止めるんですか? あの人達」
ニコリと微笑んだ顔をこちらに向け「簡単よ」といいのけた千葉さんは部室を明るく照らし、運動部員の気合いの入った声が聞こえる窓側に行き両端にぎゅっと纏められていた黒い幕で外の光と音を遮断する。
先程までバラバラに劇をしていた部員はパッと演技を止めた。
「やぁ、千葉さん久しぶり?」
部員の一人だろうか茶髪のショートカットに172cm程ある俺が少し見上げる程に高身長な女性部員が千葉さんに話しかけていた。
「えぇ、久しぶりね? どうそちらの部活は?」
「あぁ絶好調も絶好調だよ」
「でも千葉さんはどうしてここに?」
「えぇ、実は頼み事があるの……」
二人を少し離れた所で眺める俺の肩をポンポンと二回叩かれ、振り返ると目の前に二人の女の子がいた。
「ねぇ、君は誰?」と先程の部員とは違いとても小柄で黒髪ボブカットに元気な小麦色に焼けた女の子が俺に話しかけて来た。
その後ろにも一人頬がまん丸で触るとぷにぷに気持ちよさそうな女の子が話しかけてきた女の子の後ろに隠れ顔を覗かせる。
二人の勢いに押され、やはりここは陰キャだなと俺でも思う位たどたどしい返事をしてしまった。
「えっと、鈴木です」
「鈴木くんって言うんだ〜私ねラファエルだよ! でも長いからみんなラフィーって呼ぶの鈴木くんもそう呼んでね?」
「あぁ、うん」
「私の後ろにいる子はね平野ちゃんだよ」
「よろしく……」
後ろに隠れている平野さんはその様子、同様声はか細く少し怯えているように見えた。
「えっと……」
「あぁ! ごめんね? 平野ちゃんすっごい人見知りでいつもは無口なんだよ!」
そんな話をしているとこちら側に、もう一人の生徒が近づいて来た。
「おぅおぅ、あんた鈴木ってぇのか」
少しいや大分江戸っ子の口調で話しかけた生徒を俺は知っていたが、その子は知らない様子だった。
「えっと武田さんもこの部活だったんだね?」
リアクション大きくなんで名前を知ってんだと驚いた女生徒、それは途中から編入してきたクラスメイトの武田さんだった。
制服を少し気崩し、肩くらいある髪にブリーチが抜けて毛先だけ名残りが残る金髪をしている。
元々は東京に住んでいたらしいが、家庭の事情で引っ越してきたらしい。
「そうだ鈴木!」
俺の前に出て目を見ながら少し大きめな声で、話しかける。
「えっと、なんですか?」
「よけりゃで良いんだけどよ? いつかあたしの実家に来ないか?」
初対面ではないが、初めて話す相手に何を言っているんだと戸惑い、俺はオロオロとしていた。
「いいね! 私も行った事、あるけどクールで良いお父さんだったよ」
「えっと……それだと誤解が……」
「誤解……?」
その意味に気づいたのかはぁっとした表情をするとゲラゲラ笑い「違う違う、実はなうちの実家。寿司屋でよ! 食べに来いって言いたかったんだ!」
そういう意味かと、内心ホッとした俺は「あの平野さんありがとう」
「いえ、こちらこそ……」
平野さんは顔を赤くしラフィーさんの後ろに隠れた。
「でも、やっとか〜」
ラフィーさんが唐突にそう言い出した。
「えっと何がですか?」
「やっと、部活に男子が入って来るんだなって」
一瞬他の生徒かとも思った俺だが周りには男子が居ない事とその事を、俺に向かって言っている事を考えると……
「もしかして、俺の事ですか?」
「えっ? そうじゃないの?」
数秒の沈黙の後
「いや、違いますよ! もしかして俺と仲良くしようとしたり寿司屋に誘ったのって……」
「あぁ、同じ部員になるならって思ったからな」
何を言ってるんだ? みたいな表情でこちらを見る二人と後ろに隠れていた平野さんは少しホッとした表情に見えた。
そんな会話をしていると、「ごめんなさいね? 武田さんラフィーさんそれに平野さんこの子はうちの(部員)なの」話に横から入ってきた千葉さんは、そう三人に言い俺の手を取った。
「ありがとうね? 小林さん」
千葉さんは先程まで話していた高身長の生徒に向かいそう言う。
「いや、構わないよ! 千葉さんには色々と良くしてもらったからね」
「小林さんの意見とても参考になったわ、流石部長ね」
何故か良い話風に千葉さんと小林さんは握手をした。
「それじゃあ、しっかりアドバイスも貰えたし、そろそろ行きましょ鈴木くん」
ドアを開けて、帰るように促す千葉さんは満足そうな表情で何かいい案でも思いついたみたいだった。
「何か、収穫はあったんですか?」
廊下で千葉さんの横に並びそう尋ねる
「えぇ! とても良い物がね」
「それって? まぁ秘密よ来週辺りにはその成果を持っていくわ」
自信に満ち溢れた千葉さんの横顔を眺め部室へと戻り俺は平穏な休日を過ごした。