水面下で動く取引
そんな事のあった翌日、俺は廊下を歩いていた。
学校内の廊下を歩くのは陰キャである俺はほとんどない事でもある。
休み時間は机に突っ伏して寝ているか、スマホで野球のニュースを見るかしか、していない。
そんな俺だが今日は珍しく廊下を歩いていた。理由はまぁなんというか、今日は昨日の件が気になり夜、眠る事が余りできなかった。
こんな事が、起こったのは、一ヶ月ほど前に千葉さんと野球場で出会った時以来の事だった。
そんなこんなで、俺は今、眠くてたまらなかった。この前は上の空、今回は机に突っ伏しての睡眠だとまぁ、色々とシャレにならなくなる。
それを危惧した俺は、軽い足掻きだが下の自販機へと向かい、コーヒーを飲もうと考えたのだ。
案外知られていないが廊下こそ陽キャのたまり場で、グループで固まっては騒いで、たまに教師にちょっかいをかけて、楽しむそんな人種達が多くいる。
そんな中、俺は廊下の真ん中を眠気と戦いながら歩いていた。
すると、廊下の角でバタッと生徒と接触してしまった、こういう時の陰キャは、とりあえず謝る癖があり、それは俺にも当てはまることだった。
「すいません」
「いえ、こちらこそ不注意だったわ……って鈴木君よね?」
俺がぶつかったのは、偶然なのか? それとも違うのか? 昨日、部室へと来て、今、俺の眠気の原因の一つである三次さんだった。
「あぁ、三次さん、昨日はどうも」
「鈴木君と、廊下でバッタリは、アポを取るのとわ別の話しよね?」
「えぇ、これは該当しないと思いますよ? それに一般的には会わない方が難しいと思いますし」
三次さんは少し考えると「それもそうね?」と自身の中で何か腑に落ちたみたいで、話を続けた。
「実は、大切な話があるのだけれど、この後時間は空いているかしら?」
この後の予定は、缶コーヒーを買いに行く以外なかった俺は軽い感じで受けてしまったのだが、これが間違いだとは思いもよらなかった。
「場所を変えましょうか」と言われ、俺は三次さんの後をついて行き、一つの教室にたどり着いた。
教室の場所は俺たち一般生徒が入り込まないであろう奥の小さな場所にあった。
クラスなどを提示する看板には、風紀委員室と聞き馴染みのない部屋の名前が書かれており、三次さんはカバンから鍵を取り出し、その教室の中に俺を招き入れる。
「ようこそ、ここは風紀委員室、風紀委員が与えられた部屋なのよ」
よく、来賓やイベントなどで使われているパイプ椅子に長めのテーブルそして、大きな棚など、ここが風紀委員室だと言われても納得してしまいそうになる、程に軽く質素でもあった。
「案外、質素なんですね?」
「えぇ、この質素な感じこそが風紀を取り締まる風紀委員の形であり、これがある意味、風紀委員の伝統でもある」
「……そうなんですか」
「えぇ、先輩から伝え聞いているのは、この委員会は最初、一人の生徒が、奮起し立ち上げた委員会で、学校の方からも最初は援助を得ることが出来なかったらしいの、だけどそんな時こそって、風紀委員の全員が校門の前に立ち挨拶をしながら募金を募ったらしいのよ」
「だからこそ、あの時の資金がなく細々とした委員会で
過ごした大先輩達の事を見習い、学校からの援助は最低限にして活動を続けてきたのよ」
そう風紀委員の歴史を教えてくれた三次さんはいけないと感じたのか、少し笑いながら、「話を戻すわね?」と俺を呼び出した理由について話し始めた。
「担当直入に言うと、新たに生徒会長の部活申請の不正が見つかりました」
「不正?」
「えぇ、とある部活を不正に受理したというものよ」
「まぁ、隠しても仕方ないから部活名は言うけど鈴木君達が今、属している野球部が、その対象だったのよ」
その事は俺も知っていた。だが千葉さんは上手い事やっている物だと考えていたからこそ、外部に漏れたのは少し驚くところでもあり、やはり、どんな形でも不正はバレるのだと、考えに至った。
「もしも、その事が公になると、千葉さんは生徒会長の席を降りざる終えなくなり、勿論、不正で作られた部活は廃部になると思うわ」
それを、脅迫と捉える人もいるだろうが、俺には言い返す事は出来なかった。三次さんが話す出来事は十分に考えられる話であり、その不正が事実である事を俺は知っていた。
「だけど、なんでその話を俺にしたんですか?」
「えぇ、実は一つ取引をしたいと思っているの」
「取引ですか?」
「そう、この話を不問とする代わりに、鈴木君あなたに風紀委員に入って貰いたいの?」
突然の勧誘に俺は戸惑い、風紀委員が俺を引き抜くメリットも、理由も理解が出来なかった。
「えっ、でもなんで俺を?」
戸惑う俺にニコッと笑顔を見せると、「理由は詳しく言えないけど、勿論今すぐに返事を貰う気もないわよ、でもどんな選択肢が、今後の事を左右するかは、よく考えて」
圧力とも、取れる口撃に俺は口をあうあうと、振るわせていると、ドアがガラッと勢いよく開いた。
そのドアの開く音に、身体をビクッと振るわせ、ドアの方に視線を向ける。
「三次さん、何か取り込み中でしたか〜?」
「いえ、大丈夫よ、丸さん」
「なら、良かった〜」
丸さんと呼ばれた生徒は、ネクタイを緩めて制服を少し汚く、着崩した、本当に風紀委員かと思う様な、服装をしていたが、右腕には風紀委員の腕章がされており、紛れもない、風紀委員だと証明をしていた。
「まぁ、あの件じっくりと考えて答えを聞かせて欲しいわ、それと明日の放課後、鈴木君達の部室へとお邪魔させて貰うわ」
そう告げられると俺は風紀委員室を後にして、缶コーヒーを買うことを忘れ、教室へと戻ったのだった。




