23 難度5
険しい顔をしたザグレアさんとは、私たちの方を見ながら、ソファの前に立った。
「マルカンティアの警邏官本部、ゼスト隊長と連絡を取らせていただきました」
全員に緊張が走る。
ゼスト隊長に?
私たち、何かやらかした?
「ああ、いえ。何かみなさんの働きに問題があったわけではないのです。極めて緊急の公的案件が生じ、派遣可能な警邏官を聴取したのです。その結果なのですが……何分、時間がなく……今、近隣でこの案件を頼めるのが……」
ザグレアさんが私たちにぐるりと視線を送った。
「自分たちで良ければ」
「ただ、公的案件としては、相当に危険な依頼になります。ゼスト隊長は、難度5の格付けをすると」
難度5。
難度4までの案件と、難度5の案件には、大きな差がある。
難度5以降は「警邏官が死亡する確率が、2割以下」の案件、あるいは大規模な経済取引や国家運営に小規模の影響を与える案件。
ベテランの警邏官でも、複数名で、必要に応じて王都と相談しながら慎重に対応する事案だ。
全員の顔に緊張が走る。
大きな音を立てて、応接間の扉が開いた。
イースターさんが顔を出す。
「マルカンティアの警邏官本部から、通話連絡!」
***
各国の政府機関の他、それに準ずる権威や権力を持つ貴族や大規模商会には、お互いをつなぐ通話機の通信網が構築されている。リレニア商会はそうした大規模商会の一つらしい。
通話専用室は、応接室とはうってかわって殺風景だった。管楽器のホルンのような、金属製の通話機の置かれた木製の上質な机を中心に、放射状に7つの椅子が並べられていた。リレニア商会の人たちが出払うと、ゼスト隊長の声が通話機から響く。
「まずは、難度3の公的案件の達成、おめでとう。上出来じゃないかな。しかも、同級生に命を狙われながら、ね」
え……。
今、ゼスト隊長は、確かに同級生、と言った。
「なぜ、それを?」
「王都が調査を進めて、判明した。おまえ等の命を狙ってるのは、エレナ・ファルフィートだろう」
「……」
通話専用室を重苦しい沈黙が包んだ。
「ま、試験に落ちた奴が悪事に手を染めるのは、そんなに珍しいことじゃない。おまえ等は知らないだろうが、良くあることなのさ。とはいえ、いきなり同級生の命を狙いに来る奴は珍しいが」
ショックを受けたのは、みんな同じだったろう。警邏官を目指していた人が、それとは真逆の道に向かうことが、珍しくない、だなんて。
「これから、いやってほど向き合う話だ。曲がりなりにも試験を受けるまで訓練されてる。一般人よりはよっぽど能力が高い。中には、うっすらとノードに近い力を発揮する者もいる。ま、王都の警邏官が追跡してる、そのうち捕まるだろうさ。さて、それより、本題だ」
ゼスト隊長の咳払いが響く。
「マルカンティア王室から、直接連絡が入った。リレニア商会の依頼を支援してくれ、と」
「王室から……? 公的案件、難易度5と聞きました。一体、何なんですか?」
「花火の原料を、至急、空路で運ぶ必要がある。その、飛行艇の護衛だ」
「空路で護衛?」
陸路なら、山賊や盗賊の危険がある。
空路なら、そんな心配はない。
なぜ、その護衛が難易度5?
「空鯨を知っているか?」
「一度遭いました」
「え? スパナ君? どこで?」
「あれ? 全員遭ってますよ? マルカンティア来るときの飛行艇で」
「え?」
「あ」
コテツが何かを思い出したようだった。
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