22 チーズケーキと紅茶
リレニア商会次長のザグレアさんの合図で、3人のメイドさんが私たちの前に紅茶とラズベリーの乗ったチーズケーキを運んできた。マルカンティア北部のリスリルの更に北にある大牧場の特産品のチーズを使ったものと、メイドさんが説明してくれた。
私たちより少し年上で……透き通るような奇麗な肌に控えめなお化粧が良く映えていて、全員、絵画の中の人物のように美しい。
ささやくようなケーキの説明に、思わず緊張してしまった。
ちらりと他のメンバーを見ると、ソラはうっとりした目で、ドレイク君は顔を赤くして……そりゃそうだよね。 スパナ君は……紅茶を凝視してる。
コテツは……。
「うめー! こんな紅茶飲んだことない」
がさつなコテツ。
何か恥ずかしい……。
こんな奇麗な人たちの前で、緊張しないのか。
紅茶を一口。
芳醇な、蜂蜜に林檎や苺が混ざったような複雑な香りが広がる。
……確かに、こんな美味しい紅茶、飲んだことない……。
ふと、メイドさんの後ろの方できらりと光る白銀のカチューシャが目に止まった。
ーま、それこそ、ドレスとか着て付けたら似合うんじゃないかー
……。
あれ、一般論よね? ドレスを着て、あのカチューシャを付けたら、それは何でも似合うって、そういうことよね。
コテツが、私のドレス姿何て考えるはずないし……。
「あら、熱かったですか? お顔が……」
「え? え? いえ、あ、だ、大丈夫です。奇麗なカチューシャだなー、と」
変なことを考えていたら、顔が熱くなってきた。おまけに、メイドさんの奇麗な顔が目の前で、余計に緊張する。
「カチューシャ、奇麗ですよね。マルカンティアの南部の工芸品ですが……お似合いだと思いますよ。付けてみます?」
「え? いやいや、私、髪もぼさぼさなんで。あんな高級なの似合わないですから……」
メイドさんが、そうでしょうか……? と言ったのと、応接間のドアに大きなノック音が響いて、小柄な男性が駆け込んできたのは、同時だつた。
小柄な男性が、リレニア商会次長のザグレアさんの隣にひざまづき、何か耳打ちを始めると、満面の笑顔だったザグレアさんの表情が急速に曇った。
チーズケーキと紅茶に夢中だったみんなも、雰囲気の変化を察知してフォークを皿に置いた。
「イースター、ちょっと。……申し訳ありません、みなさんは少しこちらでお待ちください。もしよければお代わりもありますので、メイドに申しつけてください」
ザグレアさんは、一瞬私たちに視線を送り、イースターさんを手招きすると、速い足取りで応接間を出ていき、イースターさんが慌ててその後を追った。
何かあったのは間違いない。
そして……。
「仕事……かも知れないですね」
スパナ君がみんなの考えを代弁して、ぽつりとつぶやいた。
「……ケーキ、もう一つ、本当にいただいてもよいでしょうか?」
ああ、それもみんなの気持ち……スパナ君、素晴らしい。
にっこりと頷いたメイドさんに、私を含めた他の4人も追従してケーキ皿を差し出した。
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