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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
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21 応接間と鋼鉄熊

 「完璧な品質だ。イースター、よく切り抜けたな」

 「いや、護衛の……この5人のおかげです。本当に今回は危険だったので」


 マルカンティアの北部中核都市、リスリルの中心部。リスリルは赤煉瓦が特産品で、中心部の商会の建物や都市自治会庁舎は、重厚な赤煉瓦造りで、荘厳かつ巨大だった。


 イースターの所属する「リレニア商会」もその赤煉瓦で街の一角にあり、俺たちは商会の客人として応接間に通されていた。


 天窓から差し込む光は、応接間の中心に置かれた深い緑色の応接机と、赤色のソファを柔らかく輝かせていた。応接間に敷き詰められていた艶やかな絨毯には見覚えがあった。


 以前、地理と国際の授業で習った、マルカンティア南部特産の、貴金属と同様の価格で取り引きされているという「ファルラワ絨毯」に違いない。……土足で踏んでいいのか? この大きさ、一体どれだけの価値があるのか……。

 

 ふと部屋の壁に視線を送ると、右側の木製の棚には貴金属の食器類や、大きな宝石があしらわれたネックレスや指輪が陳列され、左側にはおそらく相当高級な蒸留酒のボトルがいくつも並べられていた。

 またガラスケースに入れられた色とりどりの香辛料が、天窓からの光を反射して宝石のように光っている。正面上側の壁には、騎士の国エクエスティアの紋章が刻印され、金で細かな装飾が施された長身の剣と盾が2セット飾られていた。

 恐らくこの商会が、何らかの取引をエクエスティア国の貴族と行って、特別に譲り受けたものだろう。


 キリンとソラは宝石や指輪に、スパナは香辛料に、ドレイクはエクエスティアの剣に、それぞれ完全に目を奪われていた。


 そう考えると、俺ってなんか、物欲があんまりないよな。確かに珍しい物はたくさんあるけど……。


 イースターの上司、リレニア商会次長のザグレアさんは、イースターが運んだ閃胡椒の粒を、白い手袋をはめた細い指で摘み、虫眼鏡を使ってのぞき込んでいる。相当品質が良いようで、自然と笑顔がこみ上げてくるようだった。俺たちのことを忘れてしまっているかのように、品質チェックに没頭している。


 することもないので、ふと、キリンの視線を追ってみる。真珠のネックレス、ルビーのイヤリング、白銀の細かな細工が施されたカチューシャ。キリンは、警邏官服から着替えると、途端に雰囲気が変わる。それこそ、ドレスにあんな装飾品でも付けた日には、紛れもなく王女様に見えることだろう。


 黒男は、一体何故、キリンとその家族をあんな目に遭わせたのか。

 黒男がいなければ、キリンは今頃、スクトゥムティアの王族として、それこそ公務に従事していたのではないだろうか。そうしたら、キリンと出会うこともなかった。


 あれ。

 そうすると、俺は試験に受かってたんだろうか?


 「コテツ」

 「っ……ん?」

 急にキリンが声をかけてきた。


 「あれ、良いと思わない?」

 どれのことだ?


 キリンの視線の先……白銀のカチューシャか? まぁ……。


 「……あんま、装飾品とか詳しくないけど、ま、それこそ、ドレスとか着て着けたら似合うんじゃないか?」


 キリンが不審気な顔で、ソラは何故か目を丸くしてこっちを見ている。


 「……?」

 「え?」


 「どれのこと言ってるの?」

 「その、カチューシャじゃないのか?」


 「…違う。その隣、黒い手袋あるでしょ」

 「え?」


 あ、確かに、なんであんな地味なの飾ってあるんだ?


 「あれ、鋼鉄熊の皮のグローブ。布なのに、衝撃には鉄みたいな固さではじき返す。ものすごく珍しい品物なの。その……コテツは、ほら、あの武術とかで右手使うでしょ。あれ、手にはめてたら、手をかなり安全に保護できると思って……ま、コテツは興味ないみたいだから、もういいわ」


 と言った後、キリンは何故か赤くなって、そっぽを向いてしまった。

 

 物欲がなくて、怒らせたか……?


 いや、そんな物があるなんて知らなかったし……。でも、確かに、それはちょっと欲しいかも。

 「ああ、すまない、すっかり品質の良さに夢中になってしまって。今、お茶とお菓子を運ばせますから、部屋の物をごらんになりながらお待ちください。イースター、部屋の物、ご案内してさしあげなさい」

読んでいただいてありがとうございます!

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