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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
75/86

13 3位と弓矢

「3位? 上に、二人もいるって言うの?」

 成績表をみた母の反応は、思った通りだった。 いや、本の少し、別の反応を期待していた。淡い、期待。

 

 警邏官学校で3位だなんて、凄いじゃないの。

 「将来、王都に採用されるのは、上位わずかなんでしょう? 2人も上にいて、失敗したらどうするつもりなの? いったい、どんな勉強をしているの?」

 たくさん、していた。キリンとソラに追いつこうと、隠れて、寝ないで。

 試験の日のコンディションは、良くなかった。吐き気をこらえながら、鉛筆を握った。

 

 「ごめんなさい、お母様」

 

 俯いて、謝った私に与えられたのは、平手と、その後の、やけに優しい抱擁だった。

 

 「謝罪なんていらないわ。一位をとってらっしゃい。いままでできたんだから、当然、できるはずよ。あなたは、優秀な、マクロード家の一人娘。この国のエリートになるのよ」

 

 お母さんは、そうじゃなかったよね。

 お父さんは、神童って言われるくらい、賢かったらしいけど。

 

 お母さんの血、なんじゃないの。


 今思えば、そう言ってやれば良かった。

 言う前に、どっか行ってしまった。


 笑える。


 地位も金も失った旦那にも、失格した娘にも、興味を失って、さよならも言わず、宝石とドレスを持って、いなくなった。

 

 矢尻に、黒男からもらった致死性の蛇毒を塗りたくる。

 

 今日は盗賊を撃退して気分が良いはず。キリンもソラも露天風呂に暢気に入るだろう。

 狙撃できる距離と角度は、確認済。露天風呂施設南南東の巨木の上。

 邪魔が入る可能性は、低いはず。


 ***


 「……」

 「どうした、ドレイク? のぼせたか?」

 「い、いや……その……向こう側だが……」


 「ん?」


 「さっき聞こえた声……」

 「あ、キリンとソラじゃないか?」

 「ぬ……よ、よし、もう上がろう。熱くなった」

 「何言ってんだ、来たばっかじゃないか。折角貸し切りだろ? 初めての温泉、ゆっくりしようぜ。なぁ、スパナ」


 「いや、これは素晴らしい設備。また、このお湯も面白い……自分はしばらく調べていきますので、お構いなく」


 スパナはなにやら試験管に温泉水を詰めている。そんな楽しみ方もあるのか。やはり。まったく別次元で生きているのだな。


 「お、お前は何とも思わないのか?」

 「は?」

 「いや……その……向こうに女性が居るわけで……」

 「? 別に見られるわけじゃないし、何を気にするんだ?」


 こいつは……。


 くそ、こ、こんなことを考える自分だけが、邪だというのか。


 「!」


 コテツの表情が急に険しくなる。

 

 この感じ、こいつが何か危険を察知した時の。

 「まずい……!」


 コテツが、辺りを見渡した後、長めのタオルを腰に巻いて縛り、女性風呂側の壁を見上げる。

 嫌な予感がする。


 「ち、ちょっと、お前……」

 コテツが加速して、壁のくぼみに手をかけ、一気によじ登った。


 ***


 弓を引き絞る。

 照準は、完璧。


 キリンは、ソラとの会話に夢中になっている。 

 そう言えば的当てで、キリンに馬鹿みたいな負け方をしたことがあったっけ。

 キリンは、針の穴を通すような精度で、的の中心を正確に、2度撃ち抜いた。

 

 私には、あんなこと、できない。


 この矢は、身体のどこか、かするだけで良い。 それで、程なくして毒が回って死ぬから。

 

 死ぬ。

 キリンを、殺す。

 

 ー殺せ。

 ーさぁ、殺せ。

 ー憎いだろう、お前の人生を邪魔した。

 

 私は……。

 私は……!

 

 照準は、少しぶれた。

 

 私は矢を放った。


 ***


 羽根のように軽くなった体は、「速く動く力」の5速以上に感じられた。

 温泉施設の南南東の巨木の方向。


 そこから、危機を知らせる光を感じた。

 男女の露天風呂を分ける高い厚みのある壁の上に立った俺は、その方向から飛んでくる何かに意識を集中した。


 凄まじい速度で飛んでくる矢の側面を、俺は手刀ではたき落とした。

 俺が弾いた矢は、右手の女性風呂の方に落ちていく。

 

 まだ来る!

 

 角度が違う。

 俺はあわてて女性風呂の方に降り立つ。

 「キリン! 頭を下げろ!」

 

 「え!? あっ……」

 

 俺はキリンの近くに降り立って背を向け、風呂の外、弓矢の射主の方へ意識を向ける。

 矢の軌道が、光の筋になって視界に映る。

 

 見えた。

 

 意識を集中して二本目の矢の側面を、右手でつかんだ。

 右の手の平がこすれる感覚。

 矢は空中で止まった。


 その軌道は、正確に、キリンの身体を狙っていた。

 

 危険を知らせる光が遠ざかっていく。

 狙撃主は、どうやら諦めたようだった。


 「……キリン、大丈夫か?!」

 俺はキリンの方を振り向いた。

 

 あ。

 そうだった、風呂に入っていたわけで。

 キリンとソラは、腕とタオルで自分の身を守るような姿勢を取って、俺を睨みつけているわけで。

 

 「……だ……大丈夫なわけ……!!」

 「こ、こて……コテツ君……」


 「え……あ……だって……」

 

 「こっち見るなーー!! 出てけ!!」

 

 強力な空気弾と、電撃で俺は壁の方まで吹き飛ばされた。

読んでいただいてありがとうございます!

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