10 星5つの副隊長
「閃胡椒?」
聞いたことがある。確か、砂金に匹敵するほどの超高級香辛料。「薬の国」ヘルバスティア諸島連合の特定の島でしか採れない香辛料。
「そう、これを入れた静電皮袋、特殊な獣皮で加工した袋なんだが。これ一つにつき1バルの重さがある。これを5つ。低速馬車に乗せての輸送だ。首都ソレイユから北の中核都市リスリルまで。途中の宿場町パステルとうちの商会の中継宿場にそれぞれ宿泊して、2泊3日の行程だ」
依頼主は、マルカンティアの大商会の一つ「リレニア商会」の中堅商人、イースターという20代くらいの若い男性だった。私たち5人は、マルカンティア地域警邏官部隊庁舎の会議室で、イースターからのブリーフィングを受けていた。
「2泊3日ですか?航空便もありますし、陸路でも早朝に出発すれば、夕方には着く距離では?」
地図を見ながらソラが質問する。確かに、マルカンティアからリスリルは、空路を使えばほんの1時間ほどで着くし、陸路でも馬車を使うなら、ゆっくり行っても一日でたどり着ける距離だ。
「普通の荷物なら、ね。閃胡椒は、そうはいかないんだ。これは、こすれると連鎖的に弾けて、一気に風味が落ちてしまう。連鎖の仕方によっては、結構な爆発が起きてしまい、飛行艇は積載禁止なのさ。
それで、なるべく衝撃を与えないように、低速馬車で慎重に運ぶ必要がある。これを運ぶときの速度は商会の規則で決められててね。これを破ると一気に商品価値が下がっちまう。この袋に、輸送速度測定機が付けられててね。スコラスティアも余計なもの作ってくれるもんだが……まぁ、品質証明にはなるけど、さ。だから、ほぼほぼ、徒歩のような速度で進むことになる。だから、盗賊や山賊の標的にされやすいんだ。速馬を走らせて逃げるってこともできないし。高い金を出して、公的案件で依頼している理由、分かったろ? 確かに、このルートで襲撃を受けたことはないが、閃胡椒を運ぶのは数ヶ月ぶりだ。それなりに経験が必要な案件だと思うのだが……」
イースターは、若干、案件を引き受けるのが私たちだということが不満のようだった。確かに難易度3とは言え、新人に担当されるのを嫌う依頼主がいる、というのは聞いたことがある。
「通常、星3つの警邏官1人と警邏官補の2名体制派遣のところ、5人をつけるんです、むしろ激安だと思いますがね」
会議室で、イースターをじろりと睨みつけたのは、コテツの1・5倍はある巨体の警邏官服の男性、マルカンティア地域警邏官部隊副隊長のゴルテアさん。
副隊長だけど、警邏官ではなく、警邏官補からのたたき上げだという。
私たちは、案件説明用のランクでは、星3つ。 警邏官補は、昇格試験を受けない限り、星は2つまで。副隊長は星5つ級。通常、そこまで昇格する警邏官補は、ほとんどいない。
ノード無しでその地位まで上がるには、人並み外れた能力が求められる。
ゴルテアさんの鋼のような体躯からは、どれほどの訓練を積み、今も積み続けているのか……。
「少なくとも、この5人に一斉に襲いかかられたら、私でも切り抜けられるかは分かりませんね」
イースターは、きょとんとした顔で、ゴルテアさんを見上げた。それから、私たちを眺めて、小さく鼻を鳴らした。
「ま、4人くらいなら、何とかするでしょうが、ね」
自己紹介で「昔は悪かったが、更生して副隊長になった男だ。よろしく」なんて言ってた。
そんな、口の端を少し上げたゴルテアさんのリップサービスは、ゼスト隊長に感じた鋭さや冷たさと真逆の、暖かさを感じた。
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