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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
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9 エリートコース/この通話は録音

 隊長室の机は、俺には立派過ぎる。2年経っても落ち着かない。他の国の隊長室はもう少し質素だと聞いた。マルカンティアは、商人の国。金がありすぎる。

 鍵をかけた引き出しから、一枚の写真を取り出す。


 そこに写る、警邏官服を着た、最高位指名手配犯の姿。


 警邏官の暗黙の序列。

 上位警邏官のエリートコース。

 王都の機関への配属、早い段階での学校の教師への任命、そして西端である盾の国、スクトゥムティア駐在隊への配属。


 俺は、同期や上下の世代の中でも、一番高出力な「重くする力」の使い手として、スクトゥムティア地域警邏官部隊に配属され、それから学校、王都への配属へと進むことを希望していた。


 自分はエリートコースに乗れるんだ、という根拠のない自信があった。比較的、発現率の低い「重くする力」の使い手、というのも自分の特別さ、を助長していたんだろう。


 無論、特殊な電撃発生能力を持ったララや、異様な努力で速く動く力の新しい扉を開いたスザクのような、異質な後輩のことは気になっていた。それでも、自分はあいつらとは違う能力の使い手。その点で分があると、自分に言い聞かせていた。

 

 それも、あいつの登場で、あっさり打ち砕かれた。


 ハル・インバクタス。

 試験を軽々と卒業し、警邏官になって、2年間の各国研修の1年目。行く先々の国で、公的案件難易度2を解決し、ついでに、3人の「高度指名手配犯」を捕縛した。


 王都は、ハルの各国研修を1年で特別修了とさせ、審理官直属の特殊案件部隊に所属後、最年少で盾の国スクトゥムテイア地域警邏官部隊の隊長に任命された。

 

 俺の配属先は、ヘルバスティア地域警邏官部隊とマルカンティア地域警邏官部隊の行ったり来たりのルートになった。

 

 自分の完全な上位互換。10も歳が離れた、圧倒的な才能。

 

 隊長職。上位警邏官。

 自分だって端から見れば、十分な出世だろう。

 だが、そこには超えられない壁が確かにある。

 

 「お前、どこで何をしているんだ?」

 

 まるで、女性のような綺麗な顔立ちは、長めの髪がよく似合う。

 あれだけの才能がありながら、俺から素直に、「重くする力」の使い方を学ぼうとしていた。教えてやれることなんざ、細かいことしかなかったが。

 せめて、醜く嫉妬させてくれるなら、憎みようもあったのだが。


 そういえば、ハルの弟。コテツと言ったか。

 ハルは、合った瞬間、鳥肌が立つほどのノードの強さを感じたが。


 コテツは……本当に試験に合格しているのか?

 全くといって良いほど、いや、実際に全く、ノードの波長を感じなかった。本当にノードを発現しているのか?

 不思議な兄弟だ。

 

 卓上の、金で装飾された王都直通通話機が鳴った。魔術の国マゲイアティアと科学の国スコラスティアの協同開発機器の中でも、3本の指に入る発明品だと思う。遠くにいる人間と会話ができるなんて。


 「ゼストです」

 「ご無沙汰してます、ゼスト隊長」

 久しぶりに聞いたその声は、教師級警邏官、「雷神」ことララだった。


 「これはこれは、雷の女神様からお電話とは、恐縮です」

 「からかわないでください。それに、そういう発言、最近は女子生徒から告発の対象になってますよ」


 「おっと、これは失礼。美しい後輩の姿が目に浮かんだので、つい」

 「……だから、そういう発言ですよ。この通話録音して……」


 「冗談だ、冗談。それで、用件は?」


 「私の生徒たち……新人5人が狙われた、飛空艇の件です」


 「ああ、まぁ何とか間に合ったが。何か分かったことでも?」


 「彼らと同級生だった、退学した女子生徒が関与しているかも知れません」


 おっと。退学組か……。


 「何か、在学時にトラブルでも?」


 「いくつか記録が残っているのですが……。強い殺意にまで結びつくとは思えず、調査中です。ただ、例の黒男と接触した可能性があります」


 「報告書の、黒いローブの男か」


 「そうすると、キリンさんの件とも関わって来るかも知れません。キリンさんの監視に加えて、黒男についても引き続き配意願います」


 「退学生徒案件、ということは、学校も動くのか?」


 「スザク先生が、調査を開始しています。近いうちにマルカンティア入りすると思います」


 「了解。とりあえず、彼らには難易度3の護衛任務をお願いしている。変わったことがあれば、また報告する」


 「よろしくお願いします」


 「あ」


 「何です?」


 「そういえば、ハルの弟にも会った。全然違うな」


 「あ、そ、そうですね。コテツ君は、ハルよりもっと男の子っぽいというか。ハルは、もっと中性的というか……」


 「……いや、容姿の話じゃなくて、ノードの方なんだが……」


 「えっ? あっ、あはは。あ、そうですね。コテツ君はぱっと見、全然ノードの気配がしないですよねー」


 「雷神様は、ハルみたいなのが好みだからな」


 「……!」


 ん?


 何だ?

 

 バリバリバリバリっ!


 2階の隊長室の窓の外、庭のあたりが一瞬光って、轟音が響いた。

 

 警邏官補達が、あわてて庭に飛び出していく。

 ーなんだ!

 ー雷!?

 ー昼間だし、晴れてるぞ?!

 

 「……失礼。さっきのは忘れてくれ」


 荒い息づかいが聞こえる。


 「はい、忘れますので……。それでは、ゼスト先輩、またお会いしましょう。天気の急変にはご注意ください。ご機嫌よう」


 ガチャン、ツーツーツー。


 射程、また伸びたのか。


 雷撃が、マルカンティアまで届くとか、最早、神の領域だな。

 圧倒的な、才能の差。


 まぁ、相当消耗したっぽいが……。あんなことして、また審理官に怒られるんじゃないか。


 そういえば、ララとハルは、恋仲との噂があったが、あれは本当だったのだろうか。

 あの動揺っぷりだと、あながち、デマでもなさそうだ。


 だとしたら、彼女もまた、ハルのことで苦しんでいる者の一人か。

読んでいただいてありがとうございます!

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