8 雨音/暗殺
その日は雨が降っていた。
家を出て、5日間くらい経っていたか。
所持金も底をついて、お腹が空いていた。
警邏官学校から着てきたままの服は、汗を吸って、臭い。
街の図書館の裏にある静かな公園。夜中に忍び込んで、屋根のあるベンチに横たわり、雨を凌いでいた。
家には、帰れない。
学校は退学になったし、先生達だって、私のことを蔑んでいるだろう。
警邏官に保護を求める?
どの面を下げて?
そんな、惨めな姿を晒すくらいなら。
頬を涙が伝った。
死のう。
私の視界を、真っ黒な何かが覆った。
この少女達を、殺してくれないか?
真っ黒なローブを身にまとい、フードをかぶり、顔もはっきりと見えない、誰か。
その男は、2枚の写真を私の前に見せていた。
その写真に写っていたのは、間違いなく、キリンとソラだった。
あなた、誰?
ー君は、この少女達に恨みがあるだろう?ー
その男は、私の質問に答えなかった。
その言葉は、心に直接響いてくるようだった
君は、奪われたんじゃないか?
本当は君の物だったものを、全部。
不公平じゃないか。
不平等じゃないか。
取り戻したくはないか?
簡単だ。
君の人生を邪魔した、それを消し去ればいい。
そうだ。
キリンとソラさえいなければ。
私は自信を失わずに済んだ。
試験だって焦らずに済んだ。
道を、間違えずに済んだ。
ー成功したら、これをあげよう。ー
黒男の手から写真が消えて、いつのまにかその両手には、薄暗い雨の朝にも輝く、棒状の金属の塊が乗せられていた。
角度によって、うっすらと、虹色の輝きをはなつそれを見て、鳥肌が立った。
超希少金属。
皇金の延べ棒。
それも、見たことのない大きさのものが三つ。
それ一つでも、屋敷を買い戻してお釣りが来る。
ーこの二人の少女は、この世界に危険をもたらす。だから、早く、亡き者にしないといけない。
エレナ・ファルフィート
君なら、それができるはず。ー
***
マルカンティアの街外れ。
高台にある山小屋は、黒男から拠点として使用を許可された場所の一つだった。
高倍率双眼鏡を使うと、警邏官宿舎の動きも観察することができた。
雨も収まりはじめ、視界も良くなってきた。
飛行艇は失敗した。
だが、おそらく何とか切り抜けるのだろうという予感はあった。
やはり、もっと、直接的で、確実な方法を。
黒男から付与された力を使って。
キリン、ソラ。
死んで。
私のために。
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