7 エレナ・ファルフィート/あいつらさえいなければ
神童、と言われていた。
小さい頃、周りの子はみんな私より劣っていて、バカなんだ、と思っていた。
自分の家が、周りと比べて明らかに裕福だ、ということは、周りの子と違って、毎日綺麗な洋服を着れること、家には何人も召使いがいたこと、何より、外の子たちの家より、私の家は何倍も大きかった。「あのお屋敷のお嬢様」と言われていたのだから。
もちろん、容姿にも恵まれていた。金色に近い茶色の艶やかな髪と肌理の細かな肌は母親から、薄茶色の二重の瞳は父親から。
家の父親の書斎は、図書館のようだった。本を読むのも好きだった。運動も得意だった。走れば町の子の誰よりも速く、ダーツや弓矢の的当ての精度も、誰よりも高かった。
全部持っていた。
だから、この国で、一番のエリートになるのが当然だと思っていた。
警邏官の上位職。王都の国家戦略室行政官。 父親に連れて行ってもらった、そこで働く行政官警邏官は、みな理知的で、しなやかで、華麗だった。
私は、当然、それになるんだと思った。
あいつらが、邪魔をした。
キリン・アレステリア・ノノ
ソラ・リードベルト
入試の成績で、私より筆記試験が上位だった女子が2人いると聞いた。
キリンはいつも本を読んでいて、物静かで、そして、知性を宿した意志の強い瞳に、にじみ出るような気品があった。
おまけに、キリンの射的は、いかさまのようだった。私より、遙か遠く離れたところから、寸分違わず的を撃ち抜いた。
ソラの知識量は、洪水のようだった。私の知らない、何千冊、何万冊という本の知識を、その脳に刻み込んでいた。
先生も、他の生徒も、知らない。知るわけがない。私が、どれだけ隠れて弓矢の練習をしたか。夜な夜な図書室に通ったか。
それでも、私がキリンに実技で勝つことは一度もなかったし。筆記で、二人に敵うこともなかった。一度だって。
邪魔だった。
この二人がいたら、私は一番になれない。
2の試験。
私は追い込まれていた。石を集めるのに立て続けに失敗して、時間ばかりが過ぎていく。
1の試験の光景が脳裏に焼き付いていた。
ソラとキリンが水晶の骸骨に触れたときの、鮮やかな、見たことのない光。
凡庸な私の反応とは、違う。
特に、キリンの放った光は、異質だった。
素質。
才能。
産まれ持った力の違い。
ずるい。
なぜ?
どうして私じゃないの?
私は、特別じゃないの?
試験に、落ちる。
2の試験の残り時間が半分を切った時、喉が、からからに乾いた。
全身が砂になってしぼんでいくようだった。
あいつらさえ、いなければ。
キリンとソラが、軽々と石を集めたのを見たとき。私の心は真っ黒になった。
キリンとソラをだまし討ちして、石を奪い、2の試験を不合格になった私を待っていたのは、事業で騙されて破産し、母親に逃げられた酒浸りの父親だった。
屋敷は、召使もおらず、荒れ放題だった。
手紙の返事がしばらくないと思っていたが。
私服で帰ってきた私の様子を見て、父親はうつろな目で呟いた。
「お前も結局、期待外れだったな」
それから、家を飛び出して、しばらく記憶がない。
黒いローブを着た男に会うまで。
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