表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
67/68

5 公的案件と世界一酸っぱい木の実

 「やっぱり、あの黒男の仲間なんじゃねーの?」

 珍しそうに、マルカンティアの首都、ソレイユの繁華街を眺めているキリンに声をかける。

 「うーん……でもあれの仲間だったら、もっと別のやり方をするんじゃないかな……それに……」

 キリンは買い出しのメモに目を落としながら続ける。

 「今回のやり方だと、全員死んじゃう可能性があったでしょ。あいつは、私のことは、少なくとも殺さないつもりみたいだから……」


 ああ、そう言えば。

 俺を含めた4人はともかく、キリンのことは殺さないみたいなこと言ってたな、あいつ。


 「ま、とりあえず、帰ってからみんなともう一度考えるとして、まずは買い物しましょ。珍しいものがたくさんあるわ!」


 キリンが笑う。 

 何か楽しそうだな。


 でも、まぁ確かに。


 夕闇を押し返すように、あちこちに一斉に街灯が灯り始めたソレイユの街は、ちょっとしたお祭りのようだった。

 

 黄色、オレンジ、赤といった暖色系の輝きに包まれ、鮮やかな色の果物や、鳥の香ばしい串焼き、ブイヨンやスパイスを煮込んだスープの香りが路上の露天店や少し洒落たレストランの間から漂って、空きっ腹を刺激する。


 その美しい明かりと行き交う人々の活気を見てるだけで、気持ちが高まってくる。

 

 「根菜と豆、あー、久しぶりに新鮮なお肉! あ、何かあの果物のジュースとか、美味しそうじゃない?!」


 新人警邏官は、2年間の各国研修が義務づけられている。この期間に、アレステリア国を除く6つの国のうち、最低3つの国の地域警邏官部隊に行き、それぞれで難度3以上の「公的案件」(レ・パブリカ)をこなすこと。それが2年後の資格更新の条件。これを達成しないと、最悪、警邏官資格が剥奪される。

 逆に、それさえこなせば、後は何をしても自由。

 ただ、キリンの場合は、これに加えて、ユリウス管理官から課せられた課題がある。


 2年後の、資格更新の時までに、出身地を訴明する情報を提出すること。


 キリンは、東端の国、スクトゥムティア(盾の国)の出身だ。

 それは、間違いない。

 俺の、「見分ける力」が、正しい記憶だと告げている。

 問題は、それをどう証明するか。

 キリンと話した結論は、スクトゥムティアの、キリンの家に行くこと、だった。

 そこに行けば、キリンがそこにいた、という記録や証拠が見つけられるはず。

 ついでに、スクトゥムティアの手前には、スパナが行きたいヘルバスティア(薬の国)、ドレイクが興味を持つエクエスティア(騎士の国)、ソラが調べ物をしたいスコラスティア(科学の国)がある。

 ただ、ララ先生に聞いた話では、東に行くほど、「公的案件」の難易度も増す傾向にあるそうだ。

 なので、基本的に新人警邏官は、とりあえず、マルカンティアの地域警邏官部隊で、ちょうど難易度3くらいの案件に従事して、練習するのが王道だとか。

 ただ、俺たちはそれぞれの理由で、単に案件をこなす以上の成果を望んでいた。

 

 難易度が高い案件や、「指名手配」を生け捕りにした場合、「評価点」が加算される。

 

 1年間の評価点の合計が高いほど、高位の警邏官に昇進できる。

 高位になればなるほど、権限が高まる。高位の警邏官だけが知ることのできる情報、読むことのできる文献、出ることのできる会議、利用できる武器や道具、参加することのできる高難度「公的案件」……その恩恵は計り知れない。

 そして、俺の兄、「国家大罪人指名手配」ハル・インバクタスの捕縛は、超高難度「公的案件」。

 つまり、今の俺には参加することすらできないってこと。

 

 王都の、ハル追跡班は、色々な情報を集めてるらしいが……。

 

 キリンが俺の遠征仕様警邏官服の袖を引っ張る。

 本来の警邏官服より青色が抑え目で、茶色・黒っぽい生地。デザインはあんまり変わらないけど、何となくどこの街でも不思議と目立たない。


 「この鶏肉! 今日はこれ買ってってシチュー作ろう! それと、クレアの実も買ってジュースにするの!」

 「まだ資金も限りがあるからさぁ……、あんま遣い過ぎないようにしないと……」


 「もー! まったく。ちゃんとソラと管理してるから大丈夫! せっかくマルカンティアの首都に無事に到着できたのよ! ちょっとくらい楽しまないと! それに、これから「公的案件」こなしたら、いっぱい資金も入ってくるでしょ?」


 俺を睨んで膨れたような顔をしたと思ったら、最後は満面の笑み。


 街灯の鮮やかな暖色の光に照らされて、キリンの赤みを帯びたオレンジ色の瞳が、深く鮮やかに輝く。


 王都で俺が黒男に殺されかけて……目を覚ましたときの大きく見開いた瞳の記憶と重なって、俺は少し落ち着かない気持ちになった。


 それは、凄く美しかった。


 「ん? 何? 何か変?」


 キリンが髪の毛やら警邏官服の襟やらをパタパタと触る。


 「いや、何でもない。じゃ、買い物をすませようぜ」


 何だか気恥ずかしくなって、俺はすたすたと露店の人だかりの方に向かって歩き出す。


 ーまったく、コテツも何を考えてるんだかー


 そんなことを言いながら、踊るような足取りで俺を追い越し、人混みをすり抜けていくキリンを、目で追った。


 そう、踊るような、軽やかな。

 優雅な動きは、見る人が見れば気付くはず。

 生まれ、育ちの違いを感じる。しなやかな、でも凛とした動き。

 スクトゥムティアの王族の娘。そして、その身分を家族ごと、あの黒男に盗まれた少女。


 俺はこの、正真正銘のお姫様を、ちゃんとスクトゥムティアまで連れて行かないといけない。


 それは、警邏官試験を通じて支え続けてくれた、キリンにできる、恩返し。

 

 「コテツ、ほら、口開けて!」

 「は?」 

 「ほりゃっ」

 少し離れたところから、キリンが何かを投げる。

 天才的な射撃、的当ての技術を持つキリンが投げた物は、一瞬で俺の口に収まる。

 

 何かが、舌の上を転がる。

 その瞬間。

 「!!!!!!!!!!!!」

 目の前がまっ黄色になった?!

 すっっっっぱい!!

 「それ、世界一酸っぱい木の実「ナニャの実」だって! 試食サービスだってよ!」

 「なっ……何すんだ!!」

 キリンがけたけた笑いながら、人混みに逃げていく。

 ……くそっ!

 

 そういや、あいつにはもう、最初に出会った時から、蹴られるわ、噛みつかれるわ……!

 

 前言撤回だ! 何が恩返しだ! どこがお姫様だ!

 後で何かやりかえしてやる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ