表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
65/67

3 隊長の憂鬱

 「いやー。いきなり、新人警邏官5人全滅かと思ったよ。王都に怒られまくるところだったなぁ。とはいえ、君たち、すごいねぇ。良くあそこまで持ってきたよ。普通の新人なら、死んでたね。絶対死んでた」


 あっはっはっは。

 

 マルカンティア地域警邏官部隊隊長室は、広い。警邏官学校のララ先生やスザク先生の教官室の数倍はある。校長室と同じくらいだろうか。

 確かに、警邏官の階級としても、校長と同等程度だったような。

 装飾の施された大きな窓、上質な木材で作られ、磨き上げられた執務机、その上には「未決」「既決」の箱が置かれ、整然と書類が積み上げられている。

 その机の後ろ、油絵で描かれたマルカンティア国とアレストリア国の地図を背に、艶やかな黒皮張りの椅子に座る男性は、すごく明るい笑い声で「死んでた」を連呼する。

 

 上級職警邏官服に身を包んだ、スラリとした細身の男性、ゼスト・フォン・クレイモア。


 マルカンティア地域警邏官部隊隊長。


 年齢は、ララ先生やスザク先生より結構上だと思う。

 温厚そうな笑顔だが、尖った顎と切れ長の緑味がかった茶色い目は、鋭さや激しさを潜ませていた。

 

 まぁ、上級警邏官なんて、みんな油断ならないわよね。

 あのララ先生だって、能力全開の時は悪魔か化け物みたいだったし……。

 ああ、そんなこと言ったら怒られるな。

 「何でもっと早く助けてくれなかったんですか? 本当に死ぬとこでしたよ……」

 不満そうな顔のコテツ。


 そう、私たちは、ゼスト本部長の能力で救われた。


 重くするグラビテの逆向き使用。


 飛行艇全体を軽くして持ち上げ、崖への落下を防いだ。


 あんな巨大な物体を、手で持てるレベルまで軽くして、持ち上げるなんて。


 アレステリア本国以外の「七繋ぎの国々」に配置されている警邏官「隊長」6名は、格付けとしては「教師」より上。

 ララ先生達より上位の警邏官って初めて会うけど、やっぱり化け物だな。


 「さすがにあんな高いところだと、力が届かないからさ。落下地点を予測して海の上で待ってたのさ。そしたら、持ち直して陸地まで飛ぶもんだから。たどり着くのに時間がかかったのさ。何、誰か飛行艇の操縦したことでもあったの? でたらめに操縦して上手く行った?」


 「コテツが体勢を立て直したんですよ」


 コテツは「それは良いから。」みたいなことをぼそっと言ったけど、どうせ状況は報告しなくちゃいけないんだから、話しておこうと思った。


 「ああ、君がコテツ・インバクタスか」


 ぞくり。

 何?


 一瞬、ゼスト隊長の目が、ひどく冷たい光を放ったように見えた。


 「君も、重くするグラビテ? それで浮かび上がらせたの?」


 「いや、違います。自分は重くするグラビテじゃありません」


 「じゃあ、どうやって」

 

 「計器やレバーの動かし方が直感的に分かったんで、操作しただけです」


 「直感的? それが君のノード? 聞いたことがない類の能力だが」


 「……ユリウス管理官とも話したのですが……。「見分ける力」と。何か、その状況でどうしたら良いか、何となく見えるんですよね」


 「「見分ける力」? 外れた力か? 聞いたことないが……」


 「それに、俺の力だけじゃないです。キリンがぶっ放した空気弾と、スパナとソラが作った柔らかい液体のおかげ……」


 「それを、このドレイクが!ドレイク・アルウベスタが「速く動く力」(ケレリタス)で、絶妙なタイミングで船体の下に撒いたのです」


 急に胸を張って話し始めたドレイク君にも、ゼスト隊長は笑顔のまま。

 さすがは隊長格。


 「空気弾……「閉じこめる力」か。こりゃまた。いわくつきの……。後は、速く動く力、調合・分析する力、痺れさせる力、か。へぇ。面白いメンバーだな。「外れた力」が二人に、標準能力三人。みんなバラバラ」


 「王都から、私たちの情報は来てないんですか?」


 「こないだ届いたみたいだけど、まだ本部内でぐるぐる回って、私の所までたどり着いてなくてね。ま、どうせ会うから良いかなと思ってたんだけど」


 ゼスト隊長がじろりと、私たち5人を見回す。

 「例年になく興味が湧いたから、後でちゃんと見ておくよ。5年前、自分が赴任する前の話だが、ここにたどり着く前に賞金首に殺されちゃった新人もいてね。またそんなパターンかと思ったら。良く持ちこたえたよ、ほんと」


 すごくさわやかな笑顔と、話の内容が合わないなぁ。

 この人苦手だ……。

 

 「……ん。5年前。そうか、5年経ったか。そうしたら、君たちの担任教師は……ララやスザクか」

 「あ、そうです」


 ゼスト隊長の目が鋭さを増したように見えた。


 「ハルまで続く、祝福の世代か、忌々しい」 


 ぼそっと呟いたのが聞こえた。

 ……忌々しい?


 「改めて、歓迎するよ。新人警邏官諸君。マルカンティア警邏官本部へようこそ」


 口元に満面の笑みを浮かべたまま、両手を広げたゼスト隊長の目元は、やっぱり笑ってなかった。


 「さて、まずは君たちを狙っている犯人の捜査計画からはじめようか。飛行艇の船長に毒を盛った犯人の、ね」


 え?

 どういうこと?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ