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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第二章
63/64

1 飛行艇に乗って

 まるで、豆粒の様だ。

 人も、家も、町並みも。

 分厚い入道雲、太陽を照り返した白銀のようなその輪郭、飛行艇の窓から差し込む白い日差し、美しくどこまでも青い空。

 青い顔のソラ。

 青ざめたキリン。

 汗だくで半笑いのまま強ばったドレイク。

 薄ぼんやりした顔で、なにやら本に没頭しているスパナ。


 うん、最悪だ。

 何もかもが。 


 「…コテツ……」

 「ん?」


 「何を、そんな悟ったような顔をしてるの…。あんた…まさか…」

 「さすがに、な。これは、まずい。明らかにまずい状況だ」


 俺は腕を組んで、淡々とそう言った。


 「お前、俺がまた諦めたとでも思ってるんだろ」

 吊り目を器用にジト眼に変えて、キリンが俺に視線を注ぐ。


 「もう、そのリュックサックでぶっ飛ばされるのはごめんだ。軽いトラウマだからな」

 「え、キリンちゃん、何それ」

 「ソラに変なこと聞かせないで!」


 ジト眼を吊り目に切り替えて、キリンが怒り出す。

 警邏官試験1の2の後、へこんでいた俺は、キリンにぶっ飛ばされた。


 今思えば、アレステリアの王都で黒男に吹っ飛ばされた時より、身体の芯に来るダメージがあった気がする。


 「いや、それがな、ソラ、こいつがな……」

 「今はそんな話は良いの! 大体、あれはあんたが死にそうな顔してうつむいてたから悪いのよ! その時と似たような顔してたわよ!」

 「光の具合だろ。今はそんなに絶望してない。なぁ、スパナ」


 俺はにやりと笑って、スパナに呼びかけた。


 「何か、解決策、分かっちゃったんだろ?さ、頼んだぜ」

 スパナはものすごく細かい字が書き込まれたメモを熟読し続けている。


 マルカンティアの首都行きの小型飛行艇。

 アレステリアの東端の街、スカイシアから、商人の国マルカンティアとの国境地帯の険しい山脈を避け、海から首都に向かうルート。

 

 俺達だけを乗せた飛行艇。

 その運転手が、離陸後、最高高度に達してまもなく、意識を失ってしまった。


 もちろん、誰も運転の仕方なんか分からない。

 飛行艇の燃料も、いつまで持つか分からない。


 大量の計器と謎のスイッチやレバーが並ぶ操舵室で、あれこれ4人でいじくってみたが、がたがた揺れたり、燃料放出スピードが上がったり下がったりで、危険を増すばかりだった。


 高度ばかりがどんどん上がっていく。

 こんな高さから落ちたら……。

 だが。

 どたばたする俺達4人を後目に、メモに没頭していたスパナ。


 きっと、解決策を見いだしていたに違いない。 めちゃくちゃ、こいつだけ落ち着いてるもん。

 「さ、スパナ。教えてくれ」

 何か、ぼそぼそとつぶやいている。

 耳を近づける。

 

 ……イヤダ。コワイ。オリタイ。タカイ。コワイ……。


 うん。

 現実逃避してるだけだ。

 体中から、嫌な汗が吹き出してくる。


 「…ちょっと、コテツ…?」

 俺の異変を察知したキリンが、不安げな声を上げる。

 ガタン。

 飛行艇が大きく揺れた。


 ***


 「何だ?!」

 丸い窓の外が灰色に染まる。

 「雲の中に入った…?!」

 「きゃあっ!」

 雷の轟音が響く。ソラが悲鳴を上げる。

 飛行艇の揺れが激しさを増す。

 「?!」

 何かと、眼が合った。

 丸い窓の外、ぬらりと光った。

 魚?

 いや、そんな。

 ここ、空の上だろ?

 

 !!!!


 飛行艇が一際大きく揺れた。

 

 全員、尻餅を付き、倒れ、飛行艇の中を転がる。

 「何だ!?」

 ドレイクが刀を構える。

 その気持ちがよく分かった。

 攻撃された。

 明らかに、意図的に。

 何かに攻撃されたんだ。

 再び、飛行艇に激しい衝撃が走る。

 飛行艇の高度が、明らかにがくんと落ちる。

 

 「わっ!」

 「もう嫌ーー!!」

 

 キリンとソラが悲鳴を上げる。

 俺は何とか壁を伝いながら、操縦席に向かう。 何か、何とか、しなくては。

 飛行艇が大きく傾く。

 

 「うおっ!?」

 俺は、操縦席のドアに転がり落ちるように吸い込まれた。

 操縦席の前方は、一面、透明度の高い高強度なガラスが張られていて、飛行艇が真っ暗な雲の中を進んでいることだけが分かる。

 床に押し付けられるように、全身にかかる重力は、飛行艇が地上に向けて高度を下げていることをまざまざと感じさせた。

 海とかなら、落ちても何とかなるのか?


 いや、高いところから落ちた場合、水でも凄まじい衝撃を受けると、授業で習った気がする。


 「!!」


 また何かに殴られたような、激しい揺れが船体を襲う。


 船体の向きが明らかに下を向いて。

 視界が急に明るくなった。


 雲を抜けて、そして、操縦席から見える景色は、じわじわと近づいてくる、いくつかの島々と薄緑色と青色の輝き。


 「くそっ…!」


 傾いた船体の中、身体をよじりながら、操縦桿の前の2つ並んだ操縦席の合間に足を滑り込ませ、どうにか操縦桿に手を伸ばす。

 昇って欲しいんだから、引けば……。

 「コテツ!」

 後ろ、というかほとんど上の方からキリンの声が響く。

 「キリンの力、使えないかな?」

 「?」 

 「海か、地面に向けて全力で撃てば、落下の衝撃を抑えられと思う」


 できなくはない……。と思うけど。


 俺が返事をする前に、操縦室の中を滑り降りる様にして、キリンが俺の隣の右隣の席に座る。

 器用な奴だよな、ほんと。

 「手」

 「?」

 「コテツに弾を作ってもらった方が、ずっと強い」

 ああ、そうか。

 俺はひょいと右手で、キリンの左手を掴む。

 一瞬、キリンがびくっとした。


 「……ためらいが無いのね」

 「は?」

 「!!」

 ガタンと激しく船体が揺れた。更に船体の落下の角度が増した。

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