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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
62/65

62 雨上がりは旅路の始まり

 「にげていったどろぼうは、もっとたくさんのうそをつきました。たくさんの、たくさんのうそをえいようにして、大きくなったどろぼうは、おおきなくちをあけて、みんなをたべてしまいました。ばくばく、ばくばく、ばくばく」


 背筋を、冷たい汗が伝った。


 「……それで?」 


 嫌な予感を振り払うように、管理官に尋ねた。

 「これで、この本はおしまいです。」

 

 ぱたん、と管理官は本を閉じた。

 

 「もし、この話に沿ったことが、実際に起きているとしたら、私たちは、知らぬ間に、危機に瀕しているのかも知れません。ゆっくりと、じわじわと。ぬるま湯でゆでられた蛙のように」

 

 「実際、熱くなったら途中で気付くらしいよ、ユー兄」

 

 あ、間違った。

 管理官がどさっと、本を落とす。


 「……王都では……絶対に、その呼び方をするなと」


 むかっ。


 「だって、そっちが昔の話とかするから」

 

 「成り行き上、過去に触れないわけにはいかないでしょう。お互い立場があるのです。いかなる場面でも謹んでいただきたい」


 「あーあ、昔はララちゃんララちゃんって可愛がってくれてたのになぁ~。変わっちゃったなぁ。ユリウスお兄ちゃん」


 管理官が硬直した。

 あ、後ろ向いた。

 顔、少し赤くなってんじゃないかしら。

 

 …イツノハナシダ、ヘンナコト、イウナ…


 あ「変なこと言うな」って言った。

 勝った気がする。

 

 管理官がため息をついた。


「もう一つ」

 「?」


 「ここにあった、古い本に書かれたノードのことを思い出しました」

 「古い本?」


 「本当に存在したのかどうか、今では分からない力が、いくつかあります。その中でも、最も、架空に近い、と思っていたものなのですが」

 珍しい。管理官が、架空だなんて。


 「ララの好きそうな力ですよ」

 どういうこと?


 「王家の血を引く、女性のアレステリア人が、専属契約を結んだ男性のアレステリア人と、お互いに想い合っている場合に発現することがあるノード、その名を「全能」(オムニス)」


 「全能?」

 「その女性が危機に瀕したとき、その男性は、あらゆるノードを、無限の出力で、無制限に行使するというものです」


 「………またまた、そんな……」

 「私もそう思ってました。ですが」


 あ。


 「そうですね。その力を仮定すれば、説明がつくことがいくつかあります」

 それは……。

 「素敵な力ね。憧れちゃうわ」


***


 「コテツ! まだ?!」

 「まったく……のっけから足を引っ張りやがって……」

 「時間って大事ですよー??」

 「コテツ君……」


 うるさいなぁ……。

 「もうちょっとだけ待ってくれ!」


 俺は、部屋の窓から下にいる4人に声をかけた。 


 「あーもう、本当に……ちょっと私、見てくるわ」

 

 キリンの声がしたような気がした。

 俺は、荷物と部屋の最終チェックをしていた。

 また、次の警邏官候補が、この部屋を使うんだろう。


 面倒見てやってくれよな。

 今までありがとう。


 部屋のドアをゆっくり閉め、鍵をかけ、寄宿舎の玄関に向かう階段を下りる。


 「コテツ!」

 玄関の方からキリンの声が響いた。


 「分かったってば……とっ」


 慌てたせいで、階段を降りきったところで少しバランスを崩した。


 右手に握っていた部屋の鍵がするりと、手からこぼれてしまう。


 その刹那、キリンが、左手で鍵をキャッチした。

 

 初めて会った日、キリンが落としたイヤリングを、俺の手が掴んだように。


 「まったく、遅いわよ!」

 「ちょっとは待てないもんかね」 


 俺はため息をついた。


 開け放たれた玄関から、キリン越しに、宿舎の庭の花々が輝いている。


 その耳に、赤いルビーのイヤリングが揺れる。


 昨日の大雨の後、そこかしこにある水たまりは、夏の太陽の光を、美しい木々の緑を、向日葵の黄金色を、勢いよく反射していた。




 「何かを待つのは、もうお終いよ。何もかも、自分で捕まえに行くの」




 駆け寄って来たキリンは、そう笑って、俺の右手を引いた。

 


 ああ、そうか。

 そうだな。そのとおりだ。

 


 雨上がりの夏の青空は、どこまでも広く、遠くまで続いていた。

読んでいただいてありがとうございます!




(以下、後書き。そのうち消すかも??)

 全然、現実と離れたファンタジーで、夜寝る前にそっと読めるような雰囲気のもの、と思いながら最初は書き出したのですが、中盤くらいから主人公達がだいぶ騒いでくれたので、最初の静かな感じはどこかに行っちゃいました。

 小さい時、に限らず、待っていて、誰かがどうにかしてくれることを期待する気持ちって、多かれ少なかれ、事の大小はあれ、持ってしまいがちな気がします。そうやって勝手に期待しておいて、思い通りにならないと裏切られた気持ちになる。

 産まれた当初は、あれこれ与えられないと生きていけない人間の宿命的な性質かも知れないなぁ、なんて考えた時、そういう気持ちを多かれ少なかれ引きずったまま大きくなるものかも知れない、と思いつつ、それって結局幼い自己中心性でもあって、それが日常生活の息苦しさの源泉なのかも知れない、と思うことがしばしばあったのですが。


 キリンの最後のセリフは、それをバッサリ切り捨ててくれたように思います。

 まぁそれでもまた期待しちゃうのも人間ですかね。そういう行ったり来たりが案外大事、なのかなぁ。


 これで第一部は完結となります。また少ししたら、旅の続きを書いて行けたらと思います⚪︎なにぶん、解決してない事は山ほどあるわけなので。。。


という事で、もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


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