60 パンとシチュー
目を開けると、バラやガーベラ、後はよく知らないが、たくさんの綺麗な花が目に入った。
え、俺、死んだ?
いや、何か前もこんなことあったな。アリアステルに負けた後。
右手がなにやら圧迫されている。感触があるってことは、死んでない、か。
俺はベットに横たわっていた。
そして、俺の右の手のひらを圧迫してるのは、俺に被さるように寝ている金色の髪の毛から伸びた、左手だった。
キリンじゃねーか。
どういう状態?
体がひどくだるい。
キリンが重い。
俺は、少し身を起こし、空いている方の左手を何とか伸ばして、自分の腹の上あたりにあるキリンの頭をぽんぽんと叩いた。
「はい……シチューと……パン……」
食事してんの? 夢の中で?
俺はため息をついた。
まぁ、とりあえず、死なずに済んだみたいだ。確かにお腹が空いてる。
シチューとパンが食べたいかも。
……。
ああ、そうか。
こいつ、俺のことを心配して。
ずっとここに居たのか。
服装も、最後に見たときのまんま。
ゴーレムの起こした爆風で汚れた後がついたまま。
いや、何かそれ以上に、土やら砂やらところどこに染み着いている。
外はだいぶ明るい。
もう昼を過ぎている?
「……ん……」
もぞもぞと、体を動かしていたので、気付いたのか。
キリンがうっすらと目を開けた。
「おはよう」
俺が声をかけると、キリンはびくっとして、レディッシュオレンジの瞳を、大きく見開いた。
「ぐえっ!」
急に体当たりをされて押し倒されたので、変な声が出た。
「うわぁあああぁぁっぁああああ!」
「ち、ちょっと……落ち着け!」
涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃだ……。
「いきてたぁ……!」
重い、苦しい、死ぬ……。
「わ、分かった…分かったから落ち着け…。」
何とか、この状態を切り抜ければ…。
「そ、そんなに心配な状態だったのか?」
泣き腫らした瞳のキリンが目をつり上げる。
怖い……。
「そうよ! 脈もなくなるし、瞳孔も開いてるし……。本当にぎりぎりだったんだから!」
げ、まじで?
そう言うと、その時のことを思い出したのか、またキリンが涙ぐみ始め、俺にまたがったまま、俺のパジャマの襟首に添えた両手に力を込める
苦しい……。
……ま、まじで……俺、今が一番ピンチ何じゃねぇのか?
くそ、こんな時は……キリンの力を利用して……。
あ、なんか光の道が見えた気がする!
いや、錯覚か……こいつには何で俺のノードは発動しないんだ……。
俺は押しつけられているキリンの腕の力を少しずらすと、くるりと体を入れ替えるように身を起こす。
「わっ!」
さっきまで俺の寝ていたベッドに突っ伏すキリン。
よし、形勢が完全に逆転したぞ!
キリンが仰向けになり、俺はキリンの顔を間に挟む感じで、枕の脇に両手をついた。
「と、とりあえず、まずは落ち着いて、状況を教えてくれ……」
ん、何か、キリンが、さっきまでとはまた違った微妙な顔をして、こっちを見上げている。
「ち……ちょっと……」
何か、顔が一層赤くないか? 大丈夫か?
「コテツ君! 起き……!きゃあああああ!」
ララ先生の叫び声が響き渡る。
「だ、駄目よ!ここは王都の看護室……!げ、元気になったからって! 昼間から! いきなり!生徒同士で! そ、そんな……」
「せ、先生! 違うんです! 全くもって違うんです!」
「がっ!」
キリンが俺をけっ飛ばした。
だから、いつも何なの、これ。
***
ララ先生は、とりあえず、俺が起きたことをみんなに報告に行き、薬湯を煎れたポットを運んで戻ってきた。
ララ先生が煎れてくれた薬湯を飲みながら、ようやく落ち着いて話を聞くことができた。
キリンは何だか分からないが、赤くなったまま拗ね続けている。
本当に、忙しい奴……。
あのゴーレムをキリンが打ち抜いた後。
全く覚えてないが、キリンを襲った黒い影を俺が吹き飛ばしたそうな。
俺はそのまま床に倒れ込んで、意識を失ったらしい。
その後、キリンが崩れ落ちたゴーレムの砂の山に飛び込み、必死でかき分け始め、それをみんなが手伝ってくれたこと。
キリンが試験管を見つけたけど、試験管は割れてしまっていたこと。
管理官がホールの前に作られた迷路に穴を開けて、何とかララ先生、アリアステル、ハルモニアを順に送り込んでくれたこと。
ゴーレムが崩れ落ちたことで、ホールの入り口を塞いでいた迷路が消えたこと。
駆けつけた管理官と医療班が、砂に染み着いていた成分を分析し、スパナが持っていた薬品と王都の薬草で解毒剤を打ってくれたこと。
それでも、解毒剤を打った時には、俺は脈もなく、瞳孔も開いていたこと。
正直、息を吹き返すかどうかは、俺の体力次第だったそうで。
その後は、キリンが朝まで、俺の手を掴んでくっついていたってことで、やっと、寝ていた間のことが全部つながった。
「キリンさんに感謝ね。ほんと、もう少し遅かったら、危なかったかも。数秒とか、そういう単位だったかも。すごい勢いで砂の山をかき分けてくれたから……」
ああ、そうか。
よく見ると、キリンは指先に何カ所も包帯を巻いている。
試験管を探して、怪我をしたのか。
その手先をみると、キリンは俺を睨みつけて、ぷいと明後日の方向を向いた。
何だよ、全く。
でも、まぁ、お陰で助かったのか。
助けられちゃったな。
「ありがとな」
キリンは、びっくりしたような顔をする。
「お互い様だから」
キリンはそっぽを向いたまま薬湯をすすった。 ドアをノックする音が響く。
「ララ先生、管理官がお呼びです!」
ソラが看護室のドアを開け、俺の顔を見ると「コテツ君! 良かった……。キリンちゃん、良かったね! ……スパナ君も……そうそう、ドレイク君まで心配してたんだから……」
「え、あいつが」
「「俺はまだ、あいつと決着を付けてない。だから、死ぬはずない。」とか、ぶつぶつ言いながら、ずっとうろうろしてたよ。うるさいから、途中からみんなで色々作業をさせてたけど」
あいつが心配するくらい、ほんとに死にそうだったんだな、俺。
見分ける力も、状態が悪いと、かわせるものもかわせない。反省しなきゃな……。
「えーと、じゃあ、キリンさん、コテツ君のこと、お願いね。なんかもう元気? みたいだし、食事は取れそうだったら、1階の食堂でもらえるよう、話をしてあるから」
ララ先生はそう言ってぎこちなく席を立つと、扉のところで立ち止まり振り返る。
「あ、あと……だ、駄目よコテツ君。本当に、ちゃ、ちゃんと安静にしてないと……。キ、キリンさんも、その辺は気を付けて……何かあったら……あ、いや、その、状況にもよるかも知れないから、呼ばなくても良いけど、困ったら、すぐ呼んでね」
「な、何かあったんですか? まさか、まだあの黒い奴が……」
ソラが不審そうな顔をする。
「いえ、黒い奴はいないんだけど…必ずしもキリンさんが安全かというと……」
「せ、先生! 何か色々誤解ですから! 管理官待ってますから行ってください!」
キリンが真っ赤な顔で先生とソラを追い出した。
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