表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
58/65

58 盗んだものを全部

うるさい! 黙れ!」


 私は叫んだ。

 ありったけの力で。


 黒男が後ずさった。


 「私はもう疑わない! 絶望しない! 私はキリン! 何度でも言うわ! 私は私! キリン・アリスティア・ノノ!」

 

 ちっ。

 と、舌打ちが聞こえた。


 「じゃあ、やり方を変えよう。ここに解毒剤がある」


 黒男は、右手に試験管のようなガラス瓶を取り出した。

 中には黄色い液体が入っている。


 「これを飲めば、その毒はすぐ中和されるよ。欲しいか?」


 こいつ……何を……。


 「交換条件だ。「私はキリン・アリスティア・ノノではありません」と、心の底から言ってごらん。心を込めて、丁寧に」


 何をされているか、理解した。



 催眠だ。



 催眠をかけて、信じ込ませる。

 嘘でも、本当だと。


 そして、多分一度信じたら、もう戻れない。


 「さあ、言ってごらん。ちゃんと、心を込めて」


 こいつは……どこまで、……私を……。

 私の存在を……踏みにじろうと……。

 

 「じゃないと、死んじゃうよ? 君の、大切な、コテツ君。君のことを信じてくれる。君にとっては、彼の存在はそれだけじゃないんだろう? 淡い、可愛らしい感情だが……」

 

 「うるさい! 黙れ!」

 

 「これは失礼。余計なことを。さて、どうするのかな?」

 

 試験管を、握りしめるような仕草。


 やめて。


 コテツ。


 コテツがいなかったら、私はどうなっていただろう。

 


 コテツを失うなんて。



 「わたしは……」


 

 黒男は私をじっと見つめていた。

 その時、ぽん、と左肩を叩く感触があった。


 「何を考えてんだ、お前は」

 コテツが立ち上がって、私の隣に立っていた。

「泥棒の話なんて、聞く必要ねぇよ」


 コテツが黒男を睨みつける。


 「何をしたか、知らねぇが……。返しやがれ! キリンから盗んだもの、全部! ついでに、それもよこせ!」


 黒男がため息をついた。


 「駄目か……」


 黒男は、ひょいと試験管を摘んだ。


 「!」 

 そして、口を開けて飲み込んだ。


「その目はもう駄目だ。心が支えられてしまっている。「思いこませ」すらできない水準とは、残念だ。想定外。深刻な不良債権だ」


 黒男が、ローブの中からドレイク君の刀を取り出して、構えた。


 「キリン、君のことは殺せないけど。そうだな、こうなるとただただ、邪魔なだけだ。自由に動き回れないよう、この際、手足の自由を奪っていこうかな」


 黒男がキリンに刀を向けたその時。


 「!!」


 視界が真っ白になった。

 一局に超集中させた雷。

 こんなことができるのは……。


 「ララ先生!」

 「ごめんね! 遅くなったわ!」


 ふわふわの長い髪が、電流であちこちに逆立っている。


 「……先生……これ、死んじゃったんじゃ……」


 「それは、人間じゃないわ!」

 「?!」


 すさまじい電撃に打たれ、ローブからは煙が上がり、焦げた匂いが漂う。


 ローブがぼろぼろと崩れ、そこから現れたのは人の肌ではなく、土や岩だった。


 「ゴーレム……!」


 電撃で黒こげになったローブの燃えカスがぱらぱらと落ちる。


 「「迷い道」を抜けるとはね。いくら走ってもホールにたどり着けないよう……」


 「高出力収束雷撃!」(テラ・トルニトス)


 話途中のゴーレムに、容赦なく、馬鹿みたいな威力の電撃をたたき込む。


 ……ララ先生だけは、やっぱり怒らせないようにしよう。


 俺は改めてそう誓った。

 ゴーレムが膝をつく。

 ララ先生が荒い息をついている。


 「……頑丈過ぎるわ……」


 「出力が低すぎるぞ?」

 「調子悪いの? ララ?」


 アリアステルとハルモニアさんが、姿を現したかと思った、その瞬間。


 ゴーレムを挟み込むように、アリアステルとハルモニアさんが、凄まじい速度の蹴りをたたき込む。生身の人間が食らったら……。アリアステルの動きのキレも、俺たちを相手にした時とは全然違う。


 どれだけ手加減していたのか。


 「……!」

 「こいつ……!」

 アリアステルとハルモニアさんが、顔を強ばらせてゴーレムから離れる。


 その瞬間、ザクリ、と、柔らかい土にスコップを深々と差し込んだような音がした。


 ゴーレムの周りの床が、ぽっかりと穴を開けた。

 「……何しやがった……」

 「……削り取った……?」


 ララ先生、アリアステル、ハルモニアさんが、ゴーレムを取り囲むように並ぶ。


 「教師級の警邏官、3人を相手にするほどの力は持ってこなかったが」


 ゴーレムは、もごもごと、石と土で作られたその口を動かす。


 「良い機会だから、試してみようか」


 ゴーレムの落ちくぼんだ真っ黒な目が、一瞬、赤く光った。

 

 「「「!」」」

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ