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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
54/64

54 最初の仕事

 「ど、どうしたの?」

 「後ろを見ろ!」


 キリンの影から、あの黒い蛇のような影が飛び出していく。


 「後ろって……何も……!」


 多分、今まで俺にだけ見えていた、この黒い影。


 俺の見分ける力を通じて、キリンにも見えている。


 「何……これ……」

 「こいつ、管理官と話してる時もお前の後ろに出てきてたぞ」

 「何で教えてくんないの?!」

 「いや、みんな見えてないみたいだったから、自信なくて……」

 「何でそんなとこだけ自信なくすのよ!」

 「そりゃ、自分にしか見えないんじゃ、信じてもらえないだろうし……」

 「うっ、その気持ちは分かる……」


 しかし、何で今こいつは出てきたんだ?


 そもそも何なんだこいつ。


 ただ、キリンにとってよくないもの、それだけは分かる。


 黒い蛇のような影は、じっと俺たちを見つめている。


 「!」


 ゆらゆらと揺れたかと思った刹那、キリンの影から勢いよく飛び出し、テラスを越えて夜の闇に消えていった。


 「何だ……」

 「消えた……」

 キリンは俺の腕を強く握りしめるようにして、ひっついていた。


 石鹸と、何かの花のような、良い匂いがする。お風呂に入った後なんだろう。

 何か落ち着かないけど、キリンが結構な力で俺の腕を掴み続けている……。


 「な、何にせよ、多分、何か良かったんじゃないか?あれ、相当良くないものだった気がするぞ? それが居なくなったんだから……」


 「そ、そうだね……。でも気持ち悪いから、今度ソラにでも聞いてみようかな……」


 「あら?コテツ君……? と……」


 背中の方から、ララ先生の声がした。

 振り向くと、赤くなったララ先生が硬直していた。


 「あ、あ、ち、違うの。ごめんなさい、間が悪くて……ちょっと明日の出発時間を伝えようと思って……ま、また来るから! その……試験も終わったし、そういうの、自由だから! むしろ応援してるくらいだから!」


 「ラ……ララ先生!? 違うの!」

 「ぐえっ!」


 いきなりキリンに突き飛ばされ、テラスから落っこちそうになる。


 「だだだ、大丈夫。私、コテツ君しか見てないわ。管理官にも黙っておく……あの人、知ったこと何でも本に書いちゃうから……」


 「ち、違うの! コテツが、蛇が居るって、それでぐいっと引っ張って……」


 「なっ…! コテツ君、急に強引なのは駄目よ! 強引さが必要な時もなくはないけど! でも、なんかちょっと駄目よ! あっ! しかも私の昔の服を着たキリンさんに……な、何か侵襲感……管理官に報告……」


 「何を黙って、何を報告するんですか?」

 「ひっ! きゃあああ!!」


 ララ先生が振り向いて叫び声をあげた。

 

 審理管理官のユリウスとアリアステル、ハルモニアがそこに立っていた。


 「ど、どうしてこのようなところに……」


 「王都の警報が鳴りました。未確認の特殊な能力反応があり、警備隊に追わせていますが、その出現元がこの辺りだったのです。」

 「え……」

 「そして、一番反応が強いのが……申し訳ないが、キリン、君だ」


 ハルモニアさんが静かに言った。


 手には、何か水晶玉のような物を持っている。 それを見つめながら、ハルモニアさんが、氷のような視線でキリンを見つめた。


 「何度も申し訳ないが、やはりキリンさんについて、もう少し調べる必要があります。何か心当たりはありますか?」


 ***


 私たちは、さっき見た黒い蛇のような影のことを話した。ただ、それが何なのか、全く心当たりはないことも。


 管理官はテラスのベンチに腰掛けて、腕組みをしながら天井の方を見つめた。


 「私はまだ、キリンさんがこの間話してくれた生い立ちの話を信じたわけではありません。あまりにも、キリンさんの本に書かれていることとかけ離れているので、正直、荒唐無稽だと思っています。コテツ君の話との整合性が取れないので、判断保留にしているだけです。そこは、これから、キリンさんが証明してくれることを信じています」


 管理官が天井を見つめたまま言った。


 「なので、ここからは推測です。私は推測は好きではありませんが今は仕方がありません。仮にキリンさんの話が真実と仮定した場合、キリンさんには、何らかの、呪いの類の魔術がかけられていた可能性があります」


 「「呪い?」」


 コテツと私は、同時に声を上げ、顔を見合わせた。


 「そうです。アレステリアの外の国では、魔術が発達した国もあります。ひと一人の生い立ちを塗り替えるなど、考えられませんが、何らかの呪いを用いているならば、多少の可能性があります」


 「私は、ずっと呪われていたってことですか?」


 でも、確かにそう言われてみれば、これは呪いのようなものだったのかも知れない。

 ある日を境に、自分の記憶と全く違う環境に放り出されて、誰も自分のことを知らない世界になるなんて。


 「そうですね。ただ、その黒い蛇が消えた、ということは、まとわりついていた呪いの一部が消えた可能性があります。それは良いことかも知れないですね」


 管理官がふっと笑った。


 「管理官、よろしいのですか?キリンが、他国のスパイの可能性は捨てきれないと思いますが?」


 アリアステルさんが、意地悪そうな目で私を見つめてくる。


 「なっ! 試験官長!」


 何でそんなこと言うのよ!


 食ってかかろうと思った私のワンピースの裾を、後ろからコテツが引っ張る。振り返ると、首を振って「止めとけ」とぼそっと言う。


 管理官が苦笑した。


 「まぁ、違うでしょうねぇ。」

 「ちょっと、それは無いかもしれないですね」

 ララ先生が管理官に同意を示す。


 ハルモニアさんまで、若干笑っているように見える。

 え、何よ……!

 「まぁ、スパイがこんなにギャーギャー騒がないか……」

 「もっと感情的に冷静よね……スパイって」 

「先生、管理官、キリンはスパイには向いてないと思います」


 「ちょっと! コテツ!どういう意味?」

 「これはそのまんまの意味だろ!」

 何なのよ、みんなで……。


 まぁ、信用されてるってこと?


 「まぁ、真面目な話、コテツ君の力に引っかからないなら、そこは大丈夫でしょう。コテツ君の力は、多分、悪意や敵意に反応してる、私はそう考えていますから」

 ユリウス管理官は、確信を持った表情でそう言った。


 コテツもキョトンとした顔をしている。


 「とりあえず、ララさんも警備隊とともに、その黒い蛇を追ってください。仮にキリンさんにかけられた呪いが抜けたということであれば、この近くに呪いをかけた本人が居る可能性があります。何らかの理由で、呪いを回収した可能性がありますからね」


 「回収?」


 「「ノード」と同じで、魔術もかけ続けるにはコストがかかります。何らかの理由で、かけ続けるコストが見合わなくなったのかも知れませんね。推測ですが」


 管理官が私たちに背を向けた。


 「コテツ君は、1階のホールで、キリンさんの側に居てください。それから、ソラさん、ドレイク君、スパナ君もそこに集まっているように伝えてください。すみません、今夜に限って、国王の護衛で警備隊の一部が出払っているので、念のためのキリンさんの護衛はとりあえずみなさんで」

 「私の護衛ですか?」

 「呪者が、撤退したふりをして、戻ってくる可能性がありますから」

 

 なるほど……。 


 「何かあれば応援を送りますが、新人とは言え、本人含めて警邏官5人は、それなりの戦力ですよ」


 管理官が背中を向けたまま、顔だけ振り向いた。


 「警邏官の最初の仕事ですね」


 

読んでいただいてありがとうございます!

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