52 それは「閉じ込める力」
「「キリンの出身地は、スクトゥムティアで間違い無い」って! 俺の本に書いてくれ!」
あ、と言って、管理官が目を見開いた。
「管理官? まさか……」
困惑した顔のハルモニアを尻目に、管理官は、俺の本にさらさらと何かを書き始めた。
それから、もう一度何かを書き始め、途中で止めた。
「これは困りました。管理官業務を始めて以来、こんなことはなかったのに」
管理官は、深々と椅子に体を沈め、天井をあおいだ。
「アリアステル、ハルモニア、下がって良いよ」
その言葉が響いた瞬間に、二人とも視界から消えた。
「コテツ君。君の言っていることは、この本に書き込める。しかし、キリンさんの本に書かれた事実と競合する」
管理官は深々とため息をついた。
「分かりました」
管理官が、俺たちの本をパタンと閉じて、立ち上がった。
「キリンさんを警邏官に登録します」
「「!」」
俺たちは顔を見合わせた。
「ただし、条件が2つあります」
「条件?」
「1つは、2年後の、資格更新の時までに、出身地を訴明する情報を持ってきてください。出自の情報は、警邏官にとって極めて重要なのです。それがなければ、更新はしません。分かりましたね?」
「2年あれば、もちろんです!」
キリンが、ようやく明るい声を放った。
「えーと……もう一つは?」
「はい、この2年間は原則としてコテツ君と一緒に行動すること」
「え?」
再び、キリンと顔を見合わせた。
「あ、それなら大丈夫です。元からその予定だったんで。な」
俺がさらっとそう言うと、なぜか若干、キリンが少し顔を赤くして、小さく、うん、と頷いていた。
***
「改めてですが、キリンさん。あなたの能力は、どのようなものですか?」
「あ、えーと。空気の塊を作って、それを撃ち出すことができるもの……だと思ってます」
管理官が本に目を落とす。
「今、あなたはそのような使い方をしていますね。」
「?」
「その力は、記録があります。」
「記録?」
「この部屋では、歴史上発現した、全ての警邏官の能力が記録されています」
管理官が、キリンの本に目を落とす。
「その力は、おそらく「閉じ込める力」の一つだと思われます。空気の塊を作る、というのは、空気をどんどん閉じこめて、圧縮しているのでしょう。そして、「閉じこめる力」の逆向き使用で閉じこめたものを解放しているのでしょう。理屈はそんなところです」
「そう……なんですか……!」
「はい。ただ、これは推察ですから、自分でいろいろ研究してみてください。そして、分かったことはまた教えてくださいね」
「あ……はい。研究してみます……。あの……」
「はい、何でしょう?」
「私が、「追試」になった詳しい理由って、教えてもらうことはできますか?」
「ええ、あなたはそれを知る権利があります。コテツ君にも聞いてもらった方が良いでしょう。」
え、俺も?
「懸賞金が掛けられていた元警邏官がいました」
懸賞金……元警邏官……。
「ファブル・アックス。彼は、コテツ君、君のお兄さん、ハル・インバクタスとチームを組んでいた、「閉じこめる力」の使い手でした」
「え?」
「そして、ハルとともに、あの事件を、スクトゥムティアで起こしました。警邏官殺し並びにスクトゥムティア国の国宝の強奪」
ハルの……仲間……。
「ですが、彼は逃亡中に、スクトゥムティアとスコラスティアの国境付近の渓谷に、身を投げました。明確に死亡が確認されているわけではありませんが、ハル・インバクタスがしばしば目撃されている一方、ファブル・アックスはその後一切の出現情報がありません。このため、彼は保留付きの死亡扱いです」
「……それが……その人が、あの事件に関与したから……」
「それも、一つの理由ではあるのですが、彼の前にもう一人、「閉じこめる力」の使い手がいました」
「もう一人」
「はい、彼は今、大監獄の中に居ます」
「え、捕まってるんですか?」
「はい。彼は、警邏官としてその力を使い、そして、人を殺害しました」
管理官の目が、鋭さを増した。
「ベルベ・グラスライン」
管理官が、引き出しから、少し古ぼけた本を一冊取り出した。
「彼は、警邏官としての活動の当初から、チーム行動を好まず、ずっと一人で任務に当たっていました。ただ、それを問題視した王都は、相棒を付けようとしましたが、彼は拒否し続けました。そして、一人で捜査に当たった事件で、彼は、命乞いをする犯人を、その力で殺害しました」
パタン、と管理官が本を閉じた。
「審理の結果、彼は終身刑となり、今も大監獄に収監されています」
管理官が、キリンの目を見つめる。
「その力は、様々な可能性を秘めた力です。使い方次第では、キリンさんは希有な力を持った、希代の警邏官になれることでしょう」
管理官の目が鋭さを増す。
「ですが、強い力は、使い方を誤れば重大な事故につながるばかりか、時に人を狂わせることもあります。力そのものに、人が飲み込まれてしまうのです」
管理官は、少し表情を緩め、手元のキリンの本に目を落とした。
「それで、その力が発現した人には、いくつか追加のテストを行うこととしたのです。その結果は、ご連絡のとおりです」
「私は……この力を正しく使います。もっとちゃんと制御できるように、努力します」
「そうですね。期待しています。そしてコテツ君をはじめ、仲間を大切にするように。コテツ君。もし、キリンさんが、力に飲み込まれそうになったときは、止めてあげてくださいね」
キリンが?
まぁ、確かに俺には乱暴だけど。
そういう奴じゃ、ないと思うけどな……。
「こいつは、乱暴だけど、悪い奴じゃないので大丈夫だと思います……けど、何かあったらぐるぐる巻きにして止めます」
「ちょっと! 乱暴って何? 止めるのも何で最初から実力行使なの?!」
「言っても聞かねーじゃん」
「あれ? 大人しいタイプと聞いていたのだけど……乱暴、言っても聞かない、と」
「か、管理官! 私の本に変なこと書かないでください! ……あれ? え? 書けるんですか?! やっぱりその本変なんじゃないですか? ていうか、乱暴なのはどっちよ! 初対面で私は8発以上蹴られたんだから!」
「そんなに蹴ってねぇって言ってんだろ! ほら、管理官が書いちゃうじゃねーか! 管理官、書かないでくださいって……」
「ん? 何? 今のところ、二人が話してることは全部書き込めるけど……どっちか、嘘付いてるの?」
「「こいつです!」」
「じゃ、二人とも虚偽報告で免許剥奪ということで」
「「!」」
「冗談です。ようこそ、新しい仲間を歓迎します。」
***
「ハルモニア」
「はい」
「キリンさんのことは、引き続き監視してください」
「分かりました。」
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