表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
51/65

51 把握している事実


 くすっ。

 と、管理官が吹き出した。


 「へ?」

 「似てるね。その目。お兄さんと」

 「ハルのこと、知ってるんですか?」

 「僕は、警邏官全員の情報を管理してるからね」


 あ……。



 警邏官って言ってくれた。犯罪者じゃなく。


 

「この部屋の、僕の後ろにある本は、全て、警邏官一人一人について書いてある本なんだ」

 「え、これ全部?」


 キリンが驚きの声を上げる。


 「そうだよ。君たちのも、今作ってるところ。」


 管理官は、右手と左手に二冊の本を持ってニコニコとしている。


 「ああ、そうだ。コテツ君。君のお父さんの本もあるよ」


 「え!親父の?!」

 

 まじか!

 行方不明になったままの、親父。


 「そうだ、実はね、君に言わなきゃと思ってたんだけど。」


 え? 何ですか?


 「僕、君の叔父に当たるんだよね。」

 「ええええ?!」 

 「うそ?」


 「本当だよ。君が産まれたときに、君の家に遊びに行ったこともあるよ。」


 信じられない……。

 うちって、そんな家系だったのか?

 初めて聞いたけど……。

 「信じられないって顔してるね」


 管理官はニコニコしている。


 「いや……父親は小さい頃に亡くなったし、母親からもそんな話聞いたこと無かったから……」

 「だろうね。もし聞いてたらびっくりするよ」

 ?


 「僕は君の叔父なんかじゃないからね」

 

 は?


 「嘘付いたんだけど、分からなかったの?」

 「ちょ……ちょっと……。分かるわけないですよ!そんなの……この部屋では嘘付いちゃだめって聞いてたし。」


 「あはは。その通り。その席に座っている人は、嘘をついちゃだめだよ。僕は、事実確認の審問のために、警邏官で一人だけ、事実と異なることを話すことが許されているけどね」


 事実と異なることって……。


 大人って感じ。

 ぼそっとキリンがつぶやいた。


 「さて、コテツ君。君の能力は、あらゆる嘘を見抜けるようなものではないようだね」


 あ、確かに。


 「でも、本当のことだと思うことは、そう感じる、ということなんだね」


 「……はい……」


 管理官は、天井に目を向けて、何かをつぶやいた後、目を閉じ、ふむ、と何かに納得したような声を出した。


 「見分ける力、とでも言うんですかね」

 「え?」


 「いえ、分かりました。少し理解しました。素晴らしい。未だに記録にないノードが現れるとはね。きっと今後、研究所がちょくちょく調べに来ると思うけど、相手してやってね。それじゃ、コテツ君はこれでおしまい」


 管理官が、右手側の本を閉じ、左手側の本を手に取った。


 「キリンさん」


 「は、はい!」


 「出身地と両親、兄妹の名前を教えてください」


 キリンが硬直した。


 出身地……。

 まさか……。


 「どうしました?」


 管理官が首を傾げる。

 「私は……」


 キリンは少しうつむき、そして、意を決したように前を向いた。


 「私の出身は、スクトゥムティアの首都アデル。両親は……」


 「把握している事実と異なります」


 管理官の澄んだ声が、部屋に、槍のように響いた。


 「もう一度だけ、問います。出身地と両親、兄弟姉妹の名前を教えてください。いないならその旨答えてください。なお、それがこちらの把握している事実と異なる場合、あなたの警邏官免許は剥奪し、収監の上調査を行います」


 氷の様な目をして、言い放つ管理官。

 なんだってんだよ、そんな一方的に。


 「どうしてそこまで……その本が間違ってるかもしれないだろ!」

 「この本に間違いはありません」


 「絶対に間違いがないものなんて、あるもんか!」


 「この本は、虚偽を拒否します。もしそれが虚偽であれば書き込めない。ここに書いてあることは、王都の調査官が、あらゆる手段で集めた真実を、私が直接書き込んでいるもの。集めた情報で書き込めなかったものは、再調査をして真偽を確かめているのです」


 「……!」

 何だよ、それ……。

 キリンは、肩を震わせて、俯いている。


 ?

 何だ?

 キリンの周りに、うっすらと、黒い影が見える。


 「……私は……私の出身地は……」

 影が少しずつ形を取り始める。

 あれは……黒い蛇?


 「おい!キリン!」


 管理官もキリンも、気にしていない。

 俺にしか見えてない?


 全身に鳥肌が立つ。

 駄目だ。 


 言わせちゃ駄目だ。

 キリンの瞳に陰が落ちる。


 「キリン!止めろ!」

 「!」


 俺はキリンの肩を掴んで、叫んだ。

 キリンの目に光が戻る。


 「嘘を付いちゃ駄目だ!」


 キリンが俺を見つめた。


 「お前の出身地はどこだ?」


 キリンの赤交じりのオレンジ色をした瞳から、一筋涙が流れ、それからキリンははっきりと言った。


 「……スクトゥムティアの首都よ。……決まってるじゃない。」


 俺は管理官の机の前に走り、机に両手を付いた。 


 「管理官!」


 俺が叫んだその時。

 俺の右手をアリアステルが。

 俺の左手をハルモニアが。


 瞬時に掴み、俺は管理官の机に、両腕を捕まれたまま押しつけられた。


 「大丈夫だよ、アリアステル、ハルモニア。この子は、何かを僕に伝えたいみたいだ」


 アリアステルとハルモニアが少しだけ力を緩め、俺はやっと声を出せるようになった。


 「……キリンは……キリンの出身地は、スクトゥムティアだ!」


 「それは、事実と異なるんだ。事実を変えることはできないよ。何故そんな嘘をつく?」


 「キリンは……奪われてるんだ! 故郷も! 両親も! 俺はあいつと、それを奪い返す!」

 

「それが、君の能力で見分けたこと? だとしたらそれは、事実と異なる。すると、君の能力自体、書き直す必要があるね」


 管理官は、ペンを手に取った。

 

 考えろ。


 キリンが泣いてる。

 キリンを泣かせるなよ。この野郎。

 

 嫌なんだよ、こいつに泣かれるの。

 

 あらゆる可能性を、考えろ……。考えろ……。

 !


 俺の本が光って見える。……そうだ、俺の言っていることが正しいなら。

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ