48 納得がいかない
あれは、入学試験の時だった。
実技の最後。
それぞれ、自分の得意なことを先生に見せる自由課題。
僕は、手錠を空に投げ、刀の居合い抜きで鎖の部分だけを断ち切った。
何万回、何十万回と繰り返してきた型。
それに加えて、目の良さは
実技は総合一位だったと聞いている。それはそうだろうと思った。
刀を振るった回数は、世界中の8歳を集めて来ても、僕にかなう子供はいないだろう、と当時は思っていた。
ただ、組手だけ。自分は組手だけ、2位だったそうだ。
自分の次に自由課題をやった生徒は、ずっと気になっていた。
丸腰で、少し厚めの木の板を二枚立てて、すっとその前に立ち、構えると、身体全体を捻るような姿勢から、一気に掌底を撃ち込んだ。
一見、木の板は何ら変化が無いように見えた。
型を見せただけ?
力不足?
そのどちらでも無かった。程なくして、二枚の木の板の内、叩かれた方ではなく、その後ろの方に、亀裂が入って、倒れた。
叩きつけた打撃が、奥に突き抜けていったのか。
そんな技術があるのかと、驚いた。それがコテツだったのだと認識したのは、しばらく先の話だ。
そして、僕はその次の女の子に、目も心も奪われた。
50歩以上離れた場所に、空き缶を3つ並べ、その空き缶に小さな赤い木の実を乗せていた。
金色の艶やかな髪の毛が春の日差しに輝き、意志の強そうな赤いルビーの瞳、でもどこか寂しげな色をしたその瞳が、的を真っ直ぐに見つめていた。
スリングショットから撃ち放たれた小石は、全て、空き缶の上の木の実を撃ち抜いた。
その全ての瞬間が美しく、僕は時間が止まったかのような錯覚に陥った。
それから、僕はずっと、キリンさんの姿を追うようになった。
1年生の夏休みに、キリンさんが帰らないのを知って、何とか話すきっかけを掴もうと思っていたのだが。
ふと寄宿舎を見上げると、コテツがキリンさんと話している。しかも、キリンさんは泣いていた。
何ということだ。早く助けねば。
その時は、コテツがキリンさんに嫌がらせでもしてるのだと、本気で思っていた。
ただ、結局それは全く違った。むしろ逆だった。
キリンさんは、お前と居ると良く笑う。
お前と居ると、よく騒ぐ。寂しそうな顔が和らぐ。
お前は馬鹿でがさつだから、これっぽっちも気付いていないだろうし、全然見抜けていないだろうけど。
僕は良く知っている。
僕は眼が良いんだ。
だが、アルベスタ家の家訓「挑まずして負けを認めるべからず」だ。
僕は、お前に勝つ。
そして、キリンさんにも振り向いてもらう。
正直、どんな方法があるのかは分からない。
キリンさんがお前に惹かれてることしか、僕には分からない。
でも、僕は自分にできることをやるだけだ。
僕はお前には負けない。
お前には絶対負けてない。
全力のお前に勝つ。
他の方法を知らないから。
だから、コテツ。
お前が僕以外の誰かに負けるなんて、我慢ならない。
お前が誰よりも強くて、最高になる男じゃなきゃ、困る。
そうじゃなきゃ、納得がいかない。
そんなのは、絶対に納得がいかないんだ。
コテツ。
***
目を開けると、窓際のきらきらと輝くガラス細工が、差し込む陽光をあっちこっちに散らかしていた。
幻想的な光景。
死んだ?
いや、仮にも王都の警邏官で、試験官長を務めるアリアステルが俺たちを殺すはずがない。
「あ、起きた」
その声は……。
「ララ先生?」
「お疲れさま」
ララ先生が手を振っている。
「ここは……」
「王都の客室だそうだ」
声の方に振り向くと、ドレイク、ソラ、スパナが、豪華な装飾が施された、巨大なソファに少し間隔を開けながら座っている。
「もー、ほとんど勝ってたのにねぇ……アリアステルがずるして、復活キノコのフォーチュナムまで使って……まったく」
ああ、そうだったのか。
手応えがあったのに、あの瞬間。
どうやったか知らないが、持ってて、食べたんだ。フォーチュナムを。
あらゆる状況を想定しろ、か。
ちくしょう。
負けちまったってことか?
「コテツ君?」
キリンに会わせる顔がない。
いや、みんなも⋯⋯。
「身体痛む? アリアステルがやりすぎたから……」
「俺が負けたせいで……」
「へ?あ……そっか、ごめん……それなんだけど……」
その時、ドン、と扉を激しく開ける音が響いた。
読んでいただいてありがとうございます!
もしよければ評価★★★★★・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!




