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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
48/64

48 納得がいかない

あれは、入学試験の時だった。

 実技の最後。

 それぞれ、自分の得意なことを先生に見せる自由課題。

 

 僕は、手錠を空に投げ、刀の居合い抜きで鎖の部分だけを断ち切った。


 何万回、何十万回と繰り返してきた型。

 それに加えて、目の良さは


 実技は総合一位だったと聞いている。それはそうだろうと思った。


 刀を振るった回数は、世界中の8歳を集めて来ても、僕にかなう子供はいないだろう、と当時は思っていた。


 ただ、組手だけ。自分は組手だけ、2位だったそうだ。


 自分の次に自由課題をやった生徒は、ずっと気になっていた。


 丸腰で、少し厚めの木の板を二枚立てて、すっとその前に立ち、構えると、身体全体を捻るような姿勢から、一気に掌底を撃ち込んだ。

 一見、木の板は何ら変化が無いように見えた。

 

 型を見せただけ?

 力不足?

 

 そのどちらでも無かった。程なくして、二枚の木の板の内、叩かれた方ではなく、その後ろの方に、亀裂が入って、倒れた。

 

 叩きつけた打撃が、奥に突き抜けていったのか。

 そんな技術があるのかと、驚いた。それがコテツだったのだと認識したのは、しばらく先の話だ。

 

 そして、僕はその次の女の子に、目も心も奪われた。

 

 50歩以上離れた場所に、空き缶を3つ並べ、その空き缶に小さな赤い木の実を乗せていた。

 

 金色の艶やかな髪の毛が春の日差しに輝き、意志の強そうな赤いルビーの瞳、でもどこか寂しげな色をしたその瞳が、的を真っ直ぐに見つめていた。

 

 スリングショットから撃ち放たれた小石は、全て、空き缶の上の木の実を撃ち抜いた。


 その全ての瞬間が美しく、僕は時間が止まったかのような錯覚に陥った。


 それから、僕はずっと、キリンさんの姿を追うようになった。


 1年生の夏休みに、キリンさんが帰らないのを知って、何とか話すきっかけを掴もうと思っていたのだが。


 ふと寄宿舎を見上げると、コテツがキリンさんと話している。しかも、キリンさんは泣いていた。


 何ということだ。早く助けねば。


 その時は、コテツがキリンさんに嫌がらせでもしてるのだと、本気で思っていた。


 ただ、結局それは全く違った。むしろ逆だった。


 キリンさんは、お前と居ると良く笑う。


 お前と居ると、よく騒ぐ。寂しそうな顔が和らぐ。

 お前は馬鹿でがさつだから、これっぽっちも気付いていないだろうし、全然見抜けていないだろうけど。


 僕は良く知っている。

 僕は眼が良いんだ。

 

 だが、アルベスタ家の家訓「挑まずして負けを認めるべからず」だ。

 

 僕は、お前に勝つ。

 

 そして、キリンさんにも振り向いてもらう。

 

 正直、どんな方法があるのかは分からない。

キリンさんがお前に惹かれてることしか、僕には分からない。


 でも、僕は自分にできることをやるだけだ。


 僕はお前には負けない。

 お前には絶対負けてない。


 全力のお前に勝つ。

 他の方法を知らないから。

 だから、コテツ。


 お前が僕以外の誰かに負けるなんて、我慢ならない。


 お前が誰よりも強くて、最高になる男じゃなきゃ、困る。

 そうじゃなきゃ、納得がいかない。


 そんなのは、絶対に納得がいかないんだ。

 コテツ。

 

 ***

 

 目を開けると、窓際のきらきらと輝くガラス細工が、差し込む陽光をあっちこっちに散らかしていた。


 幻想的な光景。

 死んだ?


 いや、仮にも王都の警邏官で、試験官長を務めるアリアステルが俺たちを殺すはずがない。


 「あ、起きた」

 その声は……。


 「ララ先生?」


 「お疲れさま」

 ララ先生が手を振っている。


 「ここは……」


 「王都の客室だそうだ」


 声の方に振り向くと、ドレイク、ソラ、スパナが、豪華な装飾が施された、巨大なソファに少し間隔を開けながら座っている。


 「もー、ほとんど勝ってたのにねぇ……アリアステルがずるして、復活キノコのフォーチュナムまで使って……まったく」


 ああ、そうだったのか。

 手応えがあったのに、あの瞬間。


 どうやったか知らないが、持ってて、食べたんだ。フォーチュナムを。

 あらゆる状況を想定しろ、か。


 ちくしょう。

 負けちまったってことか?


 「コテツ君?」


 キリンに会わせる顔がない。

 いや、みんなも⋯⋯。


 「身体痛む? アリアステルがやりすぎたから……」

 「俺が負けたせいで……」 


 「へ?あ……そっか、ごめん……それなんだけど……」

 その時、ドン、と扉を激しく開ける音が響いた。

読んでいただいてありがとうございます!

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