46 掛け合わせる
良い発想だったけどな。
背中が分厚い鉄の壁だったらな。
最初に馬車の壁は吹っ飛ばしたじゃねえか。
思いこんだら、負けなんだよ。「あらゆる可能性を想定したか?」だろ?
と……崖に落っこっちまうな。
どれ、拾ってやるか……。
ん?
……何だよ。ララ。
ずいぶん多いじゃねぇか。
4人も来るか? 普通。
……。
え?
何だ、あの動き? 速すぎる。
新人だろ?
9速近く出てる?
コテツ・インバクタス。
あいつは「速く動く力」じゃなかったはず。
どうなってる?
***
目の前に、崖。
落ちる。死ぬ。
そう思った私の左手を。
コテツの右手が掴んだ。
「両手で掴め!」
コテツが、私を引っ張り上げる。
崖の縁に、私は横たわった。
「……コテツ……」
「悪ぃ、遅くなった」
「何で……」
どうして、来てくれたの?
「駄目……駄目よ。私、この追試、一人でやらなきゃ……アリアステルを、一人で倒さなきゃ……私を手伝ったら、コテツも不合格になっちゃう。だから……」
「お前さ、何だかんだ俺より無茶ばっかりだよな」
「何よ……。どういう意味……」
「教師級に、一人で勝てるわけねーじゃん」
「そんなこと……言われなくたって……」
だって、私は……一人でも……。
「キリン一人取り返せないようじゃ、この先、何にもできねーだろ」
コテツが笑った。
「みんなでやろーぜ。何か、いつも通り、ぞろぞろ付いてきたからよ」
顔を上げた先に。
ソラ、ドレイク、スパナが居た。
「な、泣くな!」
「泣いてない! 砂埃のせい!」
私は目をこすった。
***
「じゃ、お前等も追試を受けるってことでいいんだな? 俺に手錠をかけたら、キリンは合格。全員手錠をかけられて全滅したら、全員まとめて不合格、だ。少なくとも、お前等4人にはなんのメリットもないぜ」
アリアステルが、ボコボコに破壊された馬車の上に立って、俺たちを見下ろしている。
「そんなの……」
言い掛けた俺を遮るように、刀に手をかけたドレイクが叫ぶ。
「キリンさんを傷つけたな!!! 地獄に落ちろ!!!」
え、ちょっと……。
ドレイクが加速して、馬車の上のアリアステルめがけて飛ぶ。
一気に間合いを詰めたドレイクの、凄まじい速度の居合い抜きは……空を切った。
「?!」
「良いぜ、不意打ちは、「速く動く力」の有効な使い方だ。」
空中で盛大な空振りをしたドレイクが、突如現れたアリアステルに吹き飛ばされ、俺の前に仰向けに倒れる。
……つーかさ、お前……。
「……一人じゃ無理だっつーの……キリンかお前は…」
「ちょっと! どういう意味?! 一緒にしないでよ!」
ブーブー言うキリンの足下で、ドレイクがピクピクと手を動かしている。
キリンの一言がトドメを刺したのか……。
大体、同じ能力の上位互換に、いきなり突っ込むか? 普通。
ん?
ああ、そういうことか。なるほど。
「4人でやるぞ。」
ソラとスパナが頷く。
「私、残りの弾、一発しかないわ。」
俺の脇でキリンがつぶやく。
「分かった。」
使いどころを見極めなければ。
「全員、同じ目に遭う覚悟は出来たか? いくぜ」
ニヤリと笑ったアリアステルが。
消えた。
砂埃と、壁を叩きつける音が響く。
響きわたる音と、風の流れが、一筋の光になって、視界に映る。
俺は瞬時に振り向き、甲手が仕込まれた警邏官服の両腕をクロスさせ、衝撃に備える。
「っ!!」
分かっていて、なお吹き飛ばされた。
何とか空中でバランスを取り、転倒を避ける。
速い。
めちゃくちゃだ。捕まえようがない。
だが。
「ソラ!右斜め上だ!」
「えいっ!」
ソラが中空に向けて手をかざし、電撃を放つ。
「!」
驚いた顔でつまずいたような姿勢のアリアステルが、中空から姿を現す。
「スパナ!前方7・5歩位!」
「はいっ!」
アリアステルが落下する地点を狙ってスパナが液体の入った瓶を投げつけ、飛び散った液体が、ちょうど着地したアリアステルの足にまとわりつく。
「何だこりゃ……!」
スパナの調合した、接着剤が、アリアステルの足を地面に固定する。
勝機!
俺は即座にアリアステルとの間合いを詰める。
鳩尾のあたりに、光が見える。
アリアステルが腰から抜いた小刀をなぎ払うように振るう。
それを屈んでかわし……。
取った!
アリアステルの鳩尾めがけて掌底をたたき込む。
ずしりとした手応えが…。
ない。
アリアステルが消えた。
「コテツ!!」
キリンの叫び声。
影が日光を遮る。
上!
見上げた俺の頭めがけて小刀が振り下ろされる。
「このっ!! 弾丸!」
アリアステルが小刀を盾の様に使いながら、何かに弾き飛ばされた。
キリンの空気弾。
空中で一回転し、姿勢を整えたアリアステルは、裸足のまま、馬車の上に立ってこっちを見下ろしている。
警邏官靴を脱いで、粘着材から逃れたのだ。
「お前、俺の動きが見えてる……いや、予測してるのか?」
アリアステルの顔に、笑みはなかった。
「まあね。」
方向だけだけど。
速すぎる。
「にわかには、信じがたいが。なるほど、ハルの弟か。普通じゃねぇな」
「兄貴を知ってんのか」
「さぁな。靴も駄目にされて、俺は今、すげー機嫌が悪ぃんだ。もう、手加減しねぇぞ」
アリアステルが、すっと、組んでいた腕を下ろした。
「「ノード」、は強化できる。掛け合わせることで、な」
アリアステルの雰囲気が変わった。
「行くぜ、新米ども!」
アリアステルが再び視界から消えた。
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