45 仲間でもいれば
右と、左。
ほぼ同時に、壁に何かが叩きつけられる音がした。
その音は上下左右、高度を変えながら移動していく。
速く動くだけじゃない、縦の動き。
一体どうやって?
音が近づいてくる。ここに居ちゃ駄目だ。
背筋を冷たい汗が伝う。
私は、単なる勘で斜めに飛び退く。
背後で、さっきまで私が居た場所に、何かが弾ける音が響く。
「良いぜ!持ちこたえるなぁ!」
私は振り向かずに全力で馬車の方に走る。
左手に、弾丸を固めながら。
アリアステルの姿は見えない。その代わり、あっちこっちの壁を蹴り飛ばす音が響く。
「速く動く力」と、何かもう一つ別の力を使って、壁から壁へすさまじい早さで移動をし続けてる。
高速で左右に動かれたら、弾を当てるどころじゃない。
嫌な予感がして、私は右に飛んだ。
「何だお前? まぐれじゃないのか?」
さっき私が走っていた辺りの地面を、アリアステルが激しく蹴り、砂埃が上がる。
見えた。
堅い地面を蹴った衝撃で、アリアステルの動きが止まった。
「弾丸!!!」
私は、左手に閉じこめた「空気の弾」を右手に移し、アリアステルの足下辺りに撃ち込んだ。
「うおっ!」
空気弾は、アリアステルの周囲の地面に着弾し、地面を削り、激しく砂埃を上げる。
「……なるほど、有名な、「希な力」の一つ。「閉じ込める力」。空気を極小まで閉じ込め、凝縮してるんだっけ? 上級研修で習ったぜ。実弾を向けられたのは初めてだが……。厄介な力だな」
そんな研修あるの?
こっちは能力がばれてて、向こうのは分からない。
不利にも程がある。
私は馬車の裏手に逃げ込み、再び左手に空気を固め始める。
あと、4発。
馬車を背にしている、この状態は良い。
上、左、右、前。
見えなくても、4方向に絞れる。
……。
こんな時、コテツが居たら。
どの方向から来るか、見分けるに違いないのに。
ふと、離れた場所にアリアステルが姿を現した。
「一人じゃ、勝てないだろ。仲間でもいりゃいいのにな。良いこと教えてやろうか?」
「良いこと?」
「合格した他の生徒たちに、教師がお前のことを話してる。お前を俺から引き離して、審議権を行使すれば、王都と話し合えるかもってな」
え……。
「そうだ。そんなことして、不適切な審議権行使と言われりゃ、免許剥奪だ。だから、もし、そんなことしようとする生徒がここに来たら、そいつもこの追試に加えてやるよ」
「それって……」
「一蓮托生だろ? 審議権なんてまどろっこしいことは無用だ。何人がかりでも、俺に勝てりゃ、合格にしてやるよ」
なんてこと……。
「ま、自分の合格をドブに捨てるような馬鹿な真似、する奴がいるとは思えないけど、な」
アリアステルが地面を、崖の岩肌を蹴り飛ばす音の間隔がどんどん短くなっていく。
加速してるんだ。
間断無いその音は、まるで豪雨のよう。
アリアステルの言葉は、本当かどうか分からない。
助けが来るかも知れない、そんな甘い考えを引き出す罠のようにも思えた。
弱いな、私は。
期待してしまった。
こんなんじゃ、だめだ。
それに、自分のことにみんなを巻き込むなんて。
やらなきゃ。一人で。
もう、私は昔の私じゃない。
雨の中、待ってたって、何も変わらない。
一人で、戦うんだ。
自分の力で、みんなのところに帰る。
上は、ない。
もし外したら隙ができる。2回同じ隙は見せないはず。
それなら、残り3方向。
全部撃ち抜く。
私は、空気を次々に、別々に閉じこめる。
左手が鉛のように重くなる。
「良い判断だ。相手の技の特性と、自分の力の特性。考えて、考えて、考え抜け」
壁を弾く音が響き始める。音と音の間隔がどんどん狭くなる。アリアステルの速度が、衝突の威力が上がっていく。
音が近づいてくる。
来る!
「当たれぇぇ!!」
私は、装填した3つの空気の弾を、右・左・前に連続で解き放った。
その瞬間、私は背中に、猛牛に突っ込まれたような衝撃を受け、宙を舞った。
嘘……何で……!
吹き飛ばされた先は、崖。
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