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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
44/64

44 追試

 手錠を掛けられ、手錠の紐を馬車の座席にくくりつけられた状態で、私は拘束されていた。

 

 「大きくなったもんだな。ミリアム卿のところに居たときは、ガキもガキだったのに」


 「覚えてるんですね」


 「目つきが悪かったからな」


 「あの時はありがとうございました。ワイバーンを退治してくれて」


 「ミリアム卿に頼まれたら、仕方ないさ。あのばあさんに嫌われたら、大変だからな」


 「……」


 こんな人だったっけ。

 もっと紳士的な警邏官だと思っていた。


 「なんか、変わりましたね」

 「俺と会ったのなんて一瞬だろ? ま、話してみたら印象が違うって、よく言われるな。俺は、偉い人の前じゃ、上品に振る舞うからな」


 そういうタイプ、か。

 警邏官にも、色んな人がいる。

 不意に、馬車が止まった。

 アリアステルが、前部座席から、後ろを振り向く。


 「!」


 身体が座席から浮かび上がり、何かに引っ張られ、馬車の外に放り出された。


 手錠をしたままで受け身も取れない。明るい日差しの中、身体をよじりながら、せめて右肩から半身で接地して衝撃を吸収しようと思ったが、地面にぶつかる瞬間、何かが身体を上に引っ張り、ゆっくりと地面に横たえられた。


 影が視界を遮る。

 アリアステルの警邏官靴が近づいてきた。


 「お前、なんで警邏官になりてぇんだ? 身入りは悪くねぇが、危険ばっかりだぜ。それより王都の事務官にならねぇか? 良い仕事だと思うぜ」


 アリアステルは、私の前にしゃがんでそう言った。にやにやしながら、低い声で。

  

 ……馬鹿にして。

 

 私は、全力で睨みつけた。


 「私は。警邏官に、ならないと、いけないの」


 「そんなに睨むなよ……理由は何なんだ?」


 「絶対に捕まえなきゃいけない奴が、2人いる」


 「誰だよ」


 「一人は、私の大切なものを全部奪った奴。そいつから、全部、取り返すため」

 アリアステルの顔から笑みが消えた。


 「もう一人は、ハル。ハル・インバクタス」


 アリアステルが首を傾げた。


 「何だ、金か? 史上最高額の懸賞金だからな」


 「そうなの?」


 「何だ、違うのか? 金でもなけりゃ、何で追う?」


 「約束だから」


 「約束?」


 「コテツと約束したの! 捕まえるのを手伝うって」

 アリアステルが、吹き出した。


 「それだけ?」

 「それだけって何? 私はコテツと約束したの! だからあいつと一緒に、捕まえに行かなきゃいけないの!」


 とにかく、どんどん腹が立ってきて、声ばかり大きくなっていく。


 アリアステルが、じっと私の目を見た。


 「何よ……」

 「良いぜ、自分のためだけじゃないってことだな。それは悪くねぇ。だが」


 アリアステルが手錠の鍵を手に持った。


 「口だけなら何とでも言える。そうだろ? だから、それが本当か、確かめてやるよ」


 ガチャン、と、私に掛けた手錠を瞬時に外す


 「選べ。警邏官になるのをあきらめるなら、王都で上級事務官に採用してやる。悪いことしなけりゃ、一生安泰だ」 

 「は?」


 「それを捨てて、警邏官になりたいなら、俺と戦え。俺に手錠をかけることができたら、見込みありだ。お前を警邏官にしてやる」


 アリアステルがにやりと笑う。


 「追試って奴だ」

 追試……ですって?


 「何の権限があって!」


 「俺は王都の試験官長だぞ? お前等の合否の最終決定は、俺がこれから提出する書類次第だ」


 そんなデタラメな。 


 「その代わり、もしお前が、手錠を掛けられたら、お前の負け。その時は単なる退学。無資格で全てを失って……」


 「そんなの戦うに決まってるでしょ!」


 「お、おいおい、ちょっとしゃべらせろ。お前、俺は「教師」達と同格だぜ? 勝ち目ねーだろ?」


 「私は! 警邏官に、ならなきゃ、いけないの!!」


 手錠を持って構える。


 「威勢が良い奴だ、嫌いじゃねぇが……」


 アリアステルがにやりと笑い…。

 消えた、と思った瞬間。

 私はとっさに両手をクロスさせて身体を守る。


 「!!!」

 視界に空が広がる。

 馬車の薄い木製の壁を突き破って、私は吹き飛ばされ、放り出された。


 「っ……!」

 衝撃を相殺しないと。


 右手から出力を抑えた衝撃弾を放ち、空中で反動を得るて、ふわりと着地した。


 「もう自分のノードを使いこなしてるのか? 結構良いセンスしてるじゃねぇか!」


 馬車の上にすらりと立ったアリアステルが、私を見下ろしている。


 大切なのは、現状の把握。

 アリアステルに注意を払ったまま、周囲を見渡す。


 狭い、山の中の崖の合間に作られた道。

 

 両脇を、学校の3階ほどの高さがある壁のような岩肌が囲い、馬車の走る道だけはかつて舗装された跡がある。


 この狭さは、的を絞るには悪くない。


 アリアステルは、馬車の上に立って両手を組んで、私を見下ろし続けている。


 「だが、長く遊ぶつもりはねぇ。次で終わりにしようか」


 アリアステルの「ノード」は……どう考えても「早く動く力」。

 でもそれだけじゃない。


 学校の講堂で、そしてさっき馬車の中で、私を引っ張った力。

 あれは何? それにどう使ってるのか、まったく分からない。


 十分な力で撃てる弾は、あと5発くらい。


 体術じゃ勝てない。


 弾丸を当てて、意識を飛ばしている内に手錠を掛ける。


 やることはシンプルだ。でも、どう実現するか。


 「いいぜ。相手の能力を把握することが、勝ち筋を見いだす第一歩。基本だからな」


 評判通り、優秀じゃねぇか。

 アリアステルが笑った。


 「やっぱり気が変わった。条件を追加してやる。降参したら、王都で雇ってやる。ハルはともかく、お前の言ってる、もう一人の捕まえたい奴も、警邏官のターゲットに加えてやる。何も自分でやる必要はないんだろ? お前より強い警邏官はたくさんいる」


 口元と対照に、アリアステルの目は笑っていなかった。


 甘い言葉だ。

 やらなくていい、人に任せればいい。


 良い取引だ。生活も保障されて、国が自分の望みのために力を貸してくれると。

 

 そんなの、駄目に決まってる。

 

 頭が悪い判断なのは、分かってる。

 

 でも、それじゃ、コテツに嘘をつくのと一緒。


 「だから! 私は! コテツと約束したって言ってるでしょ!」 

 

 アリアステルの口元からも笑みが消えた。

 

 「教師達と、本気で戦ったこと、ないだろ? あいつらが、どんぐらい手加減してくれてたか、せめて最後に思い知れ」


 アリアステルが消えた。

 

読んでいただいてありがとうございます!

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