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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
40/64

40 弾丸

 「来る!!」


 コテツが叫んだ。

 森の木々をなぎ倒しながら、それは私たちの前に突如降り立った。


 「わっ!」


 地面が揺れ、私は膝をついた。


 竜族特有の、ごわついた岩のような黒い肌。 

 激しい憎しみの目で私たちを睨みつけているのは、私たちを尻尾で吹き飛ばした黒い大きな竜。

 私はとっさにスリングショットを構え、竜の眉間をめがけて石を放った。


 が、その大きさからは想像できないほど俊敏な動きで、黒い竜は石をかわし、私には目もくれず、コテツに向かって突進する。


 「コテツ!!!!!」

 

***


 でけぇくせに速い!

 獰猛な牙が、顎が、俺の頭を目掛けて一直線に、大砲の様に突っ込んでくる。

 

 顎の部分に光が見える、でも、なんだ? 


 中型の竜を倒した時ほど、竜の動きはゆっくりとは見えない。


 これじゃ、カウンターをとるのは、正直きつい。


 横に飛んで、黒い竜の突撃をかわす。


 さっきまで俺が居た空間を、周りの木の枝ごと、竜の牙がかみ砕く。

 クッキーのようだ。


 「!」


 視界が反転する。

 バランスを失って、藪の中に、仰向けに倒れこむ。


 右足が蔦に絡まっている。

 背筋が凍った。


 雷のような衝撃とともに、俺の顔の右脇に、竜の巨大な前足が振り下ろされた。


 竜が巨大な口を開ける。俺を食おうと。


 軌道も、弱点も見える。

 

 え?


 でも、動けないんじゃ。


 何も間に合わない。


 死ぬ?


 いや。


 右手にわき上がるイメージ。

 光。 


 それをたぐり寄せようとした時。

 

 キリンの叫び声が聞こえた気がした。


 ***

 

 嫌だ!


 嫌!

 

 コテツを、殺さないで!

 コテツを奪わないで!!!

 

 中空に伸ばした左手が、何かを掴んだ。


 何か、強い、小さな力の固まりを。

 

 私は、それを掴んで、右手の人差し指と中指の間に挟んだ。


 導かれるように。


 これは、撃ち出すことが、できる。

 

 私は、導かれるままに。


 右手の人指し指と中指で挟んだそれを竜に向けた。


 私は、これの名前を、知ってる。 

 その力を解放するために、呼びかけた。


 「弾丸(デレオ)!!!」


 指先が、その刹那、ずっしりと重くなり、その重みを竜めがけて解き放った。


 コテツに迫っていた竜の頭部が、何かに殴られたように弾かれ、巨体ごと、大木をなぎ倒しながら吹き飛ばされた。


 甲高い叫び声を上げながら、黒い竜は森の中に崩れ落ちた。


 「……キリン……?」


 少し驚いたような、でも、嬉しそうな顔で、コテツが私を見ていた。


 私は、うなずいた。


 どんな顔して良いか分からなかったけど。


 「……私も、はずれみたい」


 

 開いた両手に目を落とした。

 銃……みたいな力なのかな?


 科学の国、スコラスティアで実用化されたと聞いたけど。火薬で鉛玉を飛ばす武器。

 

 さっき、私は、何か強い力の固まりを撃ち出した。

 何なのかは分からないけど。

 

 「キリン?!」

 あれっ?


 私は、ぺたんと地面に座り込んでいた。

 腕と足に力が入らない。


 「おい、大丈夫か?」

 「う、うん……何か身体が重い、みたい……」

 身体がしびれる感じがする。

 授業で、ノードを共同行使し過ぎた時に感じたものとも違う。より身体的な疲労が混ざっている。


 さっき、あの強い力を撃ち出した時、身体にも波のような衝撃が走った。

 あれのせいなのかな……。


 これはちょっと、きついかも……。

 「……?」

 「何か……聞こえない?」

 「これは……」

 コテツの顔に緊張が走る。

 かすかに地面が揺れている。

 地鳴りのような音が少しずつ、大きくなってきている。

 「……そりゃないぜ……」

 「な、なに……?」

 「5……いや、10……もっとか……」

 嘘でしょ……そんな……。

 「仲間を呼びやがった……くそ……。キリン、動けるか?」

 「……ごめん……」

 駄目だ、立てない。

 「先に、逃げて」

 このままじゃ、二人とも死ぬ。

 コテツだけでも。

 「…何を言ってんだ!」

 コテツが、私の前に背を向けてしゃがみ込んだ。

 「?」

 「早く乗れ、走って逃げる」

 「む、無理よ! 私結構重いし……」

 「何馬鹿なこと言ってんだ! 早く!」

 コテツの剣幕に、私は慌ててコテツにおぶさった。

 ずしりと体重がかかったはずなのに。

 コテツはひょいと立ち上がると、一目散に森の方へ駆けだした。

 「……力持ち……!」

 「まだフォーチュナムが効いてる。それに、ノードのおかげか、身体能力が全体に上がってる。ちょっとやそっと重くたって、大丈夫だ」

 「え?! ど、どういう意味よ! そこまで重くないでしょ!」

 「あーもう、訳わかんねぇな……」 

コテツが、足を止めた。

 「?」

 強い緊張が伝わってくる。

 「……まじかよ……」

 地鳴りの音が、強くなっている。

 「……コテツ……」

 「囲まれてる」

 森に、甲高い、竜の叫び声が響きわたった。

 私たちの四方八方から。

 10匹どころじゃない。

 小さいのから、大型の個体まで。 

 怒りで我を忘れた竜達が、私たちを取り囲んで睨みつけていた。


 「進もう、道はある」


 コテツがつぶやいた。


 「前を向こう。方法はある」


 自然と続きが口をついて出た。


 それは、警邏官の誓いの最後に書いてある散文。


 「「持てうる力を尽くすなら」」


 影は消え去り、

 「教科書、ちゃんと読んでたのね」


 死ぬかも知れない、とは思わなかった。 

 何故だろう。コテツと一緒なら。


 「さっきの、あと一発なら撃てるかも」

 私はコテツの背中から降りた。

 地面に降りただけで、身体に痛みが走ったけど、目を強くつぶってこらえる。

 

「多分、右手に大きいのが数体。左と前と後ろは小さいのが……なんかたくさんいる」

 「そんなのも分かるの?」

 「ぱっと見た感じ、そんな気がした。多分合ってる」

 「どっち?」

 「強いのは、右だ。が、数は少ない」

 そっか。

 私は、ゆっくり息を吸い込んだ。

 「これね、多分、もっと強く撃てると思う」

 私は、左手を握りしめた。 

 そう、この力は、さっきよりももっと強く撃てる。

 「限界があるだろ?」

 「強いのなら、あと1発か2発、だと思う」

 「そうか……俺は、まだ結構動けるから……」 コテツが深く息を吸い込んだ。

 「ここまで来たんだ。一緒に、無事に帰らなきゃ意味がない。「ノード」を発現したんだ。ここを切り抜けりゃ、先生か試験官が迎えに来るはずだ。」

 右手に、巨大な3頭の竜の姿が見えた。

 「真ん中の、赤くて一番でかい奴。あれがボスだ。群れなら、ボスを倒せば逃げていくはず。二人で、あれを狙おう」

 地鳴りが、一層激しくなった。

 「っと……」


 少しよろけて、左手でコテツの右腕を掴んだ。

 その時。


 力が、回復した? 

 ううん、違う。コテツから力が流れ込んでくるような感じがした。

 

「何だ?」


 コテツが、コテツの左手を見つめてる。

 「これ……」

 コテツが左手を握る。

 ぼんやり、球体が光っている。

 私には分かる。


 「コテツ! それを握って、閉じ込めて、固めて! 私に投げて」

 コテツが私の目を見て、頷いた。


読んでいただいてありがとうございます!


次回で試験編がおしまいです!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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