40 弾丸
「来る!!」
コテツが叫んだ。
森の木々をなぎ倒しながら、それは私たちの前に突如降り立った。
「わっ!」
地面が揺れ、私は膝をついた。
竜族特有の、ごわついた岩のような黒い肌。
激しい憎しみの目で私たちを睨みつけているのは、私たちを尻尾で吹き飛ばした黒い大きな竜。
私はとっさにスリングショットを構え、竜の眉間をめがけて石を放った。
が、その大きさからは想像できないほど俊敏な動きで、黒い竜は石をかわし、私には目もくれず、コテツに向かって突進する。
「コテツ!!!!!」
***
でけぇくせに速い!
獰猛な牙が、顎が、俺の頭を目掛けて一直線に、大砲の様に突っ込んでくる。
顎の部分に光が見える、でも、なんだ?
中型の竜を倒した時ほど、竜の動きはゆっくりとは見えない。
これじゃ、カウンターをとるのは、正直きつい。
横に飛んで、黒い竜の突撃をかわす。
さっきまで俺が居た空間を、周りの木の枝ごと、竜の牙がかみ砕く。
クッキーのようだ。
「!」
視界が反転する。
バランスを失って、藪の中に、仰向けに倒れこむ。
右足が蔦に絡まっている。
背筋が凍った。
雷のような衝撃とともに、俺の顔の右脇に、竜の巨大な前足が振り下ろされた。
竜が巨大な口を開ける。俺を食おうと。
軌道も、弱点も見える。
え?
でも、動けないんじゃ。
何も間に合わない。
死ぬ?
いや。
右手にわき上がるイメージ。
光。
それをたぐり寄せようとした時。
キリンの叫び声が聞こえた気がした。
***
嫌だ!
嫌!
コテツを、殺さないで!
コテツを奪わないで!!!
中空に伸ばした左手が、何かを掴んだ。
何か、強い、小さな力の固まりを。
私は、それを掴んで、右手の人差し指と中指の間に挟んだ。
導かれるように。
これは、撃ち出すことが、できる。
私は、導かれるままに。
右手の人指し指と中指で挟んだそれを竜に向けた。
私は、これの名前を、知ってる。
その力を解放するために、呼びかけた。
「弾丸!!!」
指先が、その刹那、ずっしりと重くなり、その重みを竜めがけて解き放った。
コテツに迫っていた竜の頭部が、何かに殴られたように弾かれ、巨体ごと、大木をなぎ倒しながら吹き飛ばされた。
甲高い叫び声を上げながら、黒い竜は森の中に崩れ落ちた。
「……キリン……?」
少し驚いたような、でも、嬉しそうな顔で、コテツが私を見ていた。
私は、うなずいた。
どんな顔して良いか分からなかったけど。
「……私も、はずれみたい」
開いた両手に目を落とした。
銃……みたいな力なのかな?
科学の国、スコラスティアで実用化されたと聞いたけど。火薬で鉛玉を飛ばす武器。
さっき、私は、何か強い力の固まりを撃ち出した。
何なのかは分からないけど。
「キリン?!」
あれっ?
私は、ぺたんと地面に座り込んでいた。
腕と足に力が入らない。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん……何か身体が重い、みたい……」
身体がしびれる感じがする。
授業で、ノードを共同行使し過ぎた時に感じたものとも違う。より身体的な疲労が混ざっている。
さっき、あの強い力を撃ち出した時、身体にも波のような衝撃が走った。
あれのせいなのかな……。
これはちょっと、きついかも……。
「……?」
「何か……聞こえない?」
「これは……」
コテツの顔に緊張が走る。
かすかに地面が揺れている。
地鳴りのような音が少しずつ、大きくなってきている。
「……そりゃないぜ……」
「な、なに……?」
「5……いや、10……もっとか……」
嘘でしょ……そんな……。
「仲間を呼びやがった……くそ……。キリン、動けるか?」
「……ごめん……」
駄目だ、立てない。
「先に、逃げて」
このままじゃ、二人とも死ぬ。
コテツだけでも。
「…何を言ってんだ!」
コテツが、私の前に背を向けてしゃがみ込んだ。
「?」
「早く乗れ、走って逃げる」
「む、無理よ! 私結構重いし……」
「何馬鹿なこと言ってんだ! 早く!」
コテツの剣幕に、私は慌ててコテツにおぶさった。
ずしりと体重がかかったはずなのに。
コテツはひょいと立ち上がると、一目散に森の方へ駆けだした。
「……力持ち……!」
「まだフォーチュナムが効いてる。それに、ノードのおかげか、身体能力が全体に上がってる。ちょっとやそっと重くたって、大丈夫だ」
「え?! ど、どういう意味よ! そこまで重くないでしょ!」
「あーもう、訳わかんねぇな……」
コテツが、足を止めた。
「?」
強い緊張が伝わってくる。
「……まじかよ……」
地鳴りの音が、強くなっている。
「……コテツ……」
「囲まれてる」
森に、甲高い、竜の叫び声が響きわたった。
私たちの四方八方から。
10匹どころじゃない。
小さいのから、大型の個体まで。
怒りで我を忘れた竜達が、私たちを取り囲んで睨みつけていた。
「進もう、道はある」
コテツがつぶやいた。
「前を向こう。方法はある」
自然と続きが口をついて出た。
それは、警邏官の誓いの最後に書いてある散文。
「「持てうる力を尽くすなら」」
影は消え去り、
「教科書、ちゃんと読んでたのね」
死ぬかも知れない、とは思わなかった。
何故だろう。コテツと一緒なら。
「さっきの、あと一発なら撃てるかも」
私はコテツの背中から降りた。
地面に降りただけで、身体に痛みが走ったけど、目を強くつぶってこらえる。
「多分、右手に大きいのが数体。左と前と後ろは小さいのが……なんかたくさんいる」
「そんなのも分かるの?」
「ぱっと見た感じ、そんな気がした。多分合ってる」
「どっち?」
「強いのは、右だ。が、数は少ない」
そっか。
私は、ゆっくり息を吸い込んだ。
「これね、多分、もっと強く撃てると思う」
私は、左手を握りしめた。
そう、この力は、さっきよりももっと強く撃てる。
「限界があるだろ?」
「強いのなら、あと1発か2発、だと思う」
「そうか……俺は、まだ結構動けるから……」 コテツが深く息を吸い込んだ。
「ここまで来たんだ。一緒に、無事に帰らなきゃ意味がない。「ノード」を発現したんだ。ここを切り抜けりゃ、先生か試験官が迎えに来るはずだ。」
右手に、巨大な3頭の竜の姿が見えた。
「真ん中の、赤くて一番でかい奴。あれがボスだ。群れなら、ボスを倒せば逃げていくはず。二人で、あれを狙おう」
地鳴りが、一層激しくなった。
「っと……」
少しよろけて、左手でコテツの右腕を掴んだ。
その時。
力が、回復した?
ううん、違う。コテツから力が流れ込んでくるような感じがした。
「何だ?」
コテツが、コテツの左手を見つめてる。
「これ……」
コテツが左手を握る。
ぼんやり、球体が光っている。
私には分かる。
「コテツ! それを握って、閉じ込めて、固めて! 私に投げて」
コテツが私の目を見て、頷いた。
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次回で試験編がおしまいです!
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