38 幸運と偽り
「気付かれた?!」
竜だ。あの、デカいのが迫っている。
俺は身体を起こして身構えようとして、よろけた。
さっきまでの身軽さが嘘のように、異様に、身体が重い。
この感じは……最初の試験で、スザク先生とやりあった後と同じ。
「コテツ!」
そんな心配そうな顔すんなよ。
「さっき、中型の奴を一匹倒した。顎のあたりに弱点がある。そこを突く」
「え? 倒した?」
驚いてキリンが目を見開く。
「……さっきの……コテツの力を使ったのね」
夕闇の中、キリンの瞳が橙色に光る。
安堵と喜びが入り交じった、心底嬉しそうな笑顔。
「いや、さっきのとはちょっと違ったんだけど……でも……」
さっき、間違いなく、自分に宿ったのは、早く動く力。
そして、何なのかは分からないけど、キリンを襲っていた黒い影を追い払ったのは……。
俺のノードだった。
「おめでとう。悔しいけど、先、越されちゃった」
全く悔しそうじゃない顔で笑った後、キリンが顔をしかめた。
崖から落ちて、身体をあちこち痛めてる。
さっきの黒い影に襲われた影響もあるかもしれない。
動けはするようだが、かなりきつそうだ。
あれが何だったのか、さっき、キリンの過去が見えたのが、なぜだったのか。
地鳴りが近づいてくる。
ここを切り抜けて、調べなきゃいけないことが、山ほどある。
せめて、戦うか逃げるか。その力を回復できれば……。
ふと、目の端に、また穏やかな光が見えた。
「コテツ?」
急に藪の方に向かった俺を、キリンはいぶかしげな目で見ている。
俺は、藪をかき分けると、その奥で光っていたものを2本、光ってないものを1本、地面から抜き取った。
「それ……まさか、フォーチュナム?」
キノコを持ち帰ってきた俺を、キリンが困惑した顔で見つめている。
フォーチュナム。別名「運試し」。
アレステリアの、限られた場所にだけ自生する、キノコ。
栄養分が凝縮されている上、少しの間、身体の機能も大きく向上すると言われている、奇跡の食料。
アレステリアの言い伝えでも、これを食べて竜を撃った若者の話があり、特に男子はその話が大好きだ。
でも、大きな問題がある。
フォーチュナムは、フォーチュナムモドキと区別が付かない。
モドキの方は毒キノコ。
というか、その後の研究で分かったのは、どちらも同じキノコで、人に対してランダムに毒性を持つタイプと、ごく一部、毒性を全く発揮しないタイプに分かれるらしい。
しかも、毒性を発揮するタイプは、食べても大丈夫な部分もあれば、駄目な部分もある。だから、大丈夫だと思って食べ進んだら、毒に当たるなんてことも。
毒性を発揮しないタイプは、まさに奇跡の食料で、空腹も、傷の痛みも取り、確かに一時的な身体の機能向上が見られ、副作用もないという。
結論として、外見上でこの二つのタイプを見分ける方法はないとのことだった。
貴重な成分。それゆえ、乱獲され、根絶やしにされないため、このキノコが編み出した、天然の嘘・偽り、まやかし。
昔、戦争の時に兵士に最後の手段として配られていたという話がある。追いつめられ、死にかけた兵士が、最後に口にする。
死ぬ前に一か八かで食べる。上手く行けば、体力を回復して、目の前の敵を倒す、逃げ帰る力を、失敗すれば、毒で、頭からつま先まで全身がしびれて3日ほど動けなくなる。
致死性はないが、追いつめられた状態で毒が回れば、当然致命的だ。
現代にあっては、食べられるタイプかどうかは、王都の、物質分析専門の警邏官が、時間をかけて選別する必要があると教えられた。
「それは駄目よ、コテツ。ほんとに自殺行為だわ。授業でもならったでしょ?ほとんどがモドキ。見分ける方法もない。ここでそんなギャンブルはできないわ」
「キリン、大丈夫だ。これは偽物で、この2本は本物だ」
俺は確信を持ってそう言った。
「コテツ……!」
ひょいと、フォーチュナムを一本ほおばった。
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