36 嘘つき
「スパナの傷は?」
「上手に避けてたわ。人体の構造にも、あの子詳しいから。致命傷になるような血管、内蔵、そういうとこを損傷しないように」
「良かった。なら、回復も早いな」
ソラ、ドレイク、スパナ。
みな、強い意志があった。
能力は申し分なかった。
それでも、そんな生徒でも、覚醒しないことは、少なくない。
死に直面する。
死を目の前にする。
それだけでは、覚醒できない。
遺書を書き。
ひとりぼっちにされ。
手も足も出ない状況で、死を間近にして。
それでも、それを拒否する。
ぎりぎりの瞬間まで。
その意志だけが、ノードを引きずり出す。
本質的に、生き延びるための力なのだ。
その命を奪われまいと、戦うための力なのだ。
これだけは、教えてどうこうなるものじゃない。
本人の心が、最後は試される。
「コテツ君の方向で、ノードの覚醒に近い反応があったの」
「覚醒に近い?」
ララは手元の、水晶で出来たリンゴを見下ろした。
「でも、消えた。竜を倒して」
「竜を、倒した?」
馬鹿な。
ノードの覚醒なしに、そんなことあり得ない。
「ハルに匹敵するほどの、逸材の可能性があるのに」
「私たちにできることは、見守ること。死なずに済むよう、ぎりぎりを見極めること」
ララの表情が、厳しさを増した。
そう。
間に合わないこともあるのだ。
だが、ノードに熟達した警邏官が、場所を把握していて、すぐに助けられる所にいるだけで、著しく覚醒の確率が下がることもまた知られている。
本能が察知するのだろう。
自分を助ける力が近くにあると。
だから、教師は遠く離れて、見守る。
水晶がノードの覚醒を関知した瞬間に、全速力で駆けつけ、救出する。
一番つらい仕事だ。
ああ、だから、コテツ、キリン。
お前達に、祝福と加護があることを。
***
動けなくなって、どれくらいたったろう?
指先の感覚がない。
もう、疲れたな。
コテツは、どうなった?
ごめん、私をかばって。
私のせいだ。
(お前のせいだ。)
思考を、どす黒い闇が覆っていく。
私が悪い。
結局、どうにもできなかった。
(お前は何もできなかった。)
何もかも、失ったまま。
スタート地点にも立てなかった。
何か、もうよく分からないや。
何も証明できなかった。
自分が自分だって。
忘れてるのは、間違ってるのは、みんなの方だって。
(間違ってるのはお前だ。)
本当は。
私が、間違ってたのかな。
私、本当に、キリンなのかな。
嘘をついてたのは、私の方なのかも。
正しいのは、みんなの方で、間違っていたのは、私。
狂っていたのは私。
よく考えたら、そうだ。
当たり前じゃない。
世界中の、みんなが、私はキリンじゃないって言う。
私の記憶は、嘘だって言う。
なんだ、そうだ。
(やっと気付いたか)
嘘をついてたのは、私の方だ。
世界中の人が、私が嘘つきだって。
(そうだ。お前は嘘つきだ。)
その通りだ。そっちが正しいに決まってる。
(お前は、キリンじゃない。)
私は、キリンじゃない。
私なんて、いない。いない人間は、いなくなればいい。
みんなに、迷惑かけちゃったな。
嘘なんかついて。
何を泣いてるの。
泣く資格さえ、あなたにはないわ。
この嘘つき。
私は……いなければ良かった。
いなくなろう。
私は……
「キリン!!!!」
声が。
「キリン!!!!!!」
私を呼ぶ、力強い、声が。
「キリン・アリスティア・ノノ!!」
私のことを、信じている、声が。」
「ふざけんな! 目を開けろ!!」
「あきらめたら許さねぇぞ!! 起きろ!!」
コテツ。
コテツの叫び声が聞こえた。
コテツの右手が、私の左手を掴んで。
私を取り込んでいた、真っ黒な影から、私を引きずり出した。
読んでいただいてありがとうございます!
書きながら涙目の気持ち悪い作者です、、、この辺り、好きなんです、、、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




