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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
35/65

35 記憶の底の極彩色

エピソード13、14辺りとリンクしてますので、もしよろしければ合わせてご覧ください、、、!


 「スパナ君、あなたも沢山本を読んでたわよね? 覚えていたら教えて! スクトゥムティアの系譜を書いた本、皇位について書いた本があったはず……どこかにあったの! でも、でも……どこにあったか、どこのページか、思い出せないの!」


 ソラさんとキリンさんは、自分と同じで、いつもクラスで、誰とも話さず本を読んでいた。なので、そうしていても良いんだと思えて、正直、ありがたい存在だった。

 いつも静かなソラさんの、取り乱した姿、その時の表情も、髪の動きの一つ一つも、詳細に覚えている。


 「地下書庫3ーBの7、「7つなぎの国の系譜についての研究」、327ページ、18行目」


 突然のことにびっくりしていたので、反射的に、そう言ってしまい、しまったと思った。


 こんなの、気持ち悪いに決まってる。


 でも、ソラさんの反応は予想外だった。


 「すごい! 嘘でしょ?! ありがとう……ごめん! お礼するから、一緒に来て!」


 それから、自分はその本を取りに行き、キリンさんのところに持って行った。


 その記述は、本当にあっさりしたもので、「スクトゥムティアの皇位継承権は、執筆日現在で第五位まで有ることを確認している」というものだった。


 ひどく古い本で、なんならカバーも付け間違えていて、雑に扱われていた本のようだった。さしたる価値のある記述とは思えなかった。

 でも、その場にいた、コテツ君も、キリンさんも、ドレイク君も、みんなが凄く喜んでいて。

 

何でそんなに喜ばれているのかは分からなかったけど。


 自分の記憶力で喜ばれたのは、これが最初だった。


 それから、みんなは、良く調べ物や、分からないことを自分に聞きに来た。


 最初は、便利な奴だと思ったのだと思っていた。


 でも、あの日。山登りの班を自分たちで作れ、というのがもう本当に嫌で、やっぱり辞めようと、時計をいじっていた日。


 コテツ君が、この先必ず、自分と班を組むと言った日。彼が、それを本気で言っていて、本当にそうするつもりだと分かった時。自分の中では、辞める理由が薄れてしまった。


 それから、コテツ君は、本当にそうし続けてくれた。

 

 自分はもう、一人になる不安を感じる必要はなかった。

 

 それどころか、コテツ君が言ったとおり、キリンさんや、ソラさんや、ドレイク君が、いつもそこにいた。

 

 他人って、案外悪くない。

 そう思った時。


 

 改めて、自分は知りたくなった。



 なぜ、母は、自分を捨てたのか。

 あの日、最後に何を話したのか。

 その心を、知りたいと、思った。 



***


 横に飛んで、地面を転がる。

 竜の右腕が迫る。

 自分の身体能力じゃ、かわせない。

 

 でも、即死は、ダメだ。


 産まれてきた理由も知らずに。

 死んでたまるものか。


 それに……。

 これが終わったら、コテツ君達と、またシチューを食べたいじゃないか。


 自分程度が受かるなら。


 彼らが受かるのは、当然さ。


 爪の振り下ろしの角度。


 もう少しだけ、身体を、よじれ。


 内蔵は避けろ、突き刺さらないように。


 自分のわき腹を貫通して、竜の爪が地面に突き刺さる。

  

 肉を、削られた。肋骨もいったか。

 

 だが、今だ。


 右手の注射器を、竜の右腕に突き刺し、麻痺毒を注入する。

 

 一瞬硬直した竜が、けたたましい叫び声を上げて後ずさる。


 怒りの形相。


 だめだ、毒が回るには、あの巨体じゃ、しばらくかかる。それに、そもそも、あの程度じゃ、足りない。

 

 竜が咆哮した。


 

 やめてくれ。


 駄目だ。


 まだ、まだ死ねない。


 まだ……まだ!


 竜の牙が、目の前に迫った。

 

 ***


 周囲の草花の色が、木の実の色が、樹皮の色が、変わった。

 

 黄色、青、赤、紫、橙。


 極彩色の世界。


 一つ一つが、眠りを誘う薬であり、麻痺をさせる毒であり、爆発する火薬であり、火を消し去る消火剤であり、物を溶かす溶剤であり、物を固める凝固剤であり……。


 ここは、天然の、薬品倉庫。


 自分の知識だけでは、知り得なかった、無数の化学物質。


 わき腹をえぐられたのに、身体が、軽い。

 折れた左手の指も、感覚が戻ってくる。

 

 後ろに飛んだ。


 ガチン、と竜の牙が、中空を噛んだ。


 驚いた表情の竜を後目に、赤に見える木の実と黄色に見える草を拾う。円を描くように竜の周りを走りながら、木の実を握りつぶし、草の切れ目にその汁を流し込んで、注射器に装填した。

 

 迫り来る竜の牙を大きくかわす。

 

 竜の肩の辺りに注射器を差し込み、全力で液体を注入する。

 

 針が折れた。


 竜が、自分を睨んだ後、2度痙攣して、地面に横たわった。


 巨体を一瞬で行動不能にする、超絶的な速攻麻痺毒。

 こんな組み合わせがあるなんて。

 

 「!」

 ひどい頭痛がした。


 意識が遠のく。倒れかけた自分を、柔らかな腕が抱きとめた。

 

 「あなたは、調合・分析する力(ミストゥーラ)ね。スパナ」

 聞き馴染みのある、ララ先生の声。

 

 「この試験、調合・分析する力は、不利だと思ってるの。必ずしも、戦闘向きじゃないから。だから、ノードが覚醒したら、すぐ助けに来ることにしてるんだけど、必要なかったわね」

 

 ああ、そうか。

 これが、自分のノードか。

 良かった。

 この力を望んでいた。

 

 「あなたは、もっと自分に自信を持っていい。自分で、限界を決めてはだめよ。その力で、竜を撃退したのは、数年ぶりなんだから。おめでとう、歓迎するわ。スパナ」


 自分が受かったなら……。


 「みんなは……」


 「ソラとドレイクは、合格したわ」


 え……。

 それじゃ……。

 コテツ君と、キリンさん……は……。

読んでいただいてありがとうございます!

投稿頻度を上げています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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