35 記憶の底の極彩色
エピソード13、14辺りとリンクしてますので、もしよろしければ合わせてご覧ください、、、!
「スパナ君、あなたも沢山本を読んでたわよね? 覚えていたら教えて! スクトゥムティアの系譜を書いた本、皇位について書いた本があったはず……どこかにあったの! でも、でも……どこにあったか、どこのページか、思い出せないの!」
ソラさんとキリンさんは、自分と同じで、いつもクラスで、誰とも話さず本を読んでいた。なので、そうしていても良いんだと思えて、正直、ありがたい存在だった。
いつも静かなソラさんの、取り乱した姿、その時の表情も、髪の動きの一つ一つも、詳細に覚えている。
「地下書庫3ーBの7、「7つなぎの国の系譜についての研究」、327ページ、18行目」
突然のことにびっくりしていたので、反射的に、そう言ってしまい、しまったと思った。
こんなの、気持ち悪いに決まってる。
でも、ソラさんの反応は予想外だった。
「すごい! 嘘でしょ?! ありがとう……ごめん! お礼するから、一緒に来て!」
それから、自分はその本を取りに行き、キリンさんのところに持って行った。
その記述は、本当にあっさりしたもので、「スクトゥムティアの皇位継承権は、執筆日現在で第五位まで有ることを確認している」というものだった。
ひどく古い本で、なんならカバーも付け間違えていて、雑に扱われていた本のようだった。さしたる価値のある記述とは思えなかった。
でも、その場にいた、コテツ君も、キリンさんも、ドレイク君も、みんなが凄く喜んでいて。
何でそんなに喜ばれているのかは分からなかったけど。
自分の記憶力で喜ばれたのは、これが最初だった。
それから、みんなは、良く調べ物や、分からないことを自分に聞きに来た。
最初は、便利な奴だと思ったのだと思っていた。
でも、あの日。山登りの班を自分たちで作れ、というのがもう本当に嫌で、やっぱり辞めようと、時計をいじっていた日。
コテツ君が、この先必ず、自分と班を組むと言った日。彼が、それを本気で言っていて、本当にそうするつもりだと分かった時。自分の中では、辞める理由が薄れてしまった。
それから、コテツ君は、本当にそうし続けてくれた。
自分はもう、一人になる不安を感じる必要はなかった。
それどころか、コテツ君が言ったとおり、キリンさんや、ソラさんや、ドレイク君が、いつもそこにいた。
他人って、案外悪くない。
そう思った時。
改めて、自分は知りたくなった。
なぜ、母は、自分を捨てたのか。
あの日、最後に何を話したのか。
その心を、知りたいと、思った。
***
横に飛んで、地面を転がる。
竜の右腕が迫る。
自分の身体能力じゃ、かわせない。
でも、即死は、ダメだ。
産まれてきた理由も知らずに。
死んでたまるものか。
それに……。
これが終わったら、コテツ君達と、またシチューを食べたいじゃないか。
自分程度が受かるなら。
彼らが受かるのは、当然さ。
爪の振り下ろしの角度。
もう少しだけ、身体を、よじれ。
内蔵は避けろ、突き刺さらないように。
自分のわき腹を貫通して、竜の爪が地面に突き刺さる。
肉を、削られた。肋骨もいったか。
だが、今だ。
右手の注射器を、竜の右腕に突き刺し、麻痺毒を注入する。
一瞬硬直した竜が、けたたましい叫び声を上げて後ずさる。
怒りの形相。
だめだ、毒が回るには、あの巨体じゃ、しばらくかかる。それに、そもそも、あの程度じゃ、足りない。
竜が咆哮した。
やめてくれ。
駄目だ。
まだ、まだ死ねない。
まだ……まだ!
竜の牙が、目の前に迫った。
***
周囲の草花の色が、木の実の色が、樹皮の色が、変わった。
黄色、青、赤、紫、橙。
極彩色の世界。
一つ一つが、眠りを誘う薬であり、麻痺をさせる毒であり、爆発する火薬であり、火を消し去る消火剤であり、物を溶かす溶剤であり、物を固める凝固剤であり……。
ここは、天然の、薬品倉庫。
自分の知識だけでは、知り得なかった、無数の化学物質。
わき腹をえぐられたのに、身体が、軽い。
折れた左手の指も、感覚が戻ってくる。
後ろに飛んだ。
ガチン、と竜の牙が、中空を噛んだ。
驚いた表情の竜を後目に、赤に見える木の実と黄色に見える草を拾う。円を描くように竜の周りを走りながら、木の実を握りつぶし、草の切れ目にその汁を流し込んで、注射器に装填した。
迫り来る竜の牙を大きくかわす。
竜の肩の辺りに注射器を差し込み、全力で液体を注入する。
針が折れた。
竜が、自分を睨んだ後、2度痙攣して、地面に横たわった。
巨体を一瞬で行動不能にする、超絶的な速攻麻痺毒。
こんな組み合わせがあるなんて。
「!」
ひどい頭痛がした。
意識が遠のく。倒れかけた自分を、柔らかな腕が抱きとめた。
「あなたは、調合・分析する力ね。スパナ」
聞き馴染みのある、ララ先生の声。
「この試験、調合・分析する力は、不利だと思ってるの。必ずしも、戦闘向きじゃないから。だから、ノードが覚醒したら、すぐ助けに来ることにしてるんだけど、必要なかったわね」
ああ、そうか。
これが、自分のノードか。
良かった。
この力を望んでいた。
「あなたは、もっと自分に自信を持っていい。自分で、限界を決めてはだめよ。その力で、竜を撃退したのは、数年ぶりなんだから。おめでとう、歓迎するわ。スパナ」
自分が受かったなら……。
「みんなは……」
「ソラとドレイクは、合格したわ」
え……。
それじゃ……。
コテツ君と、キリンさん……は……。
読んでいただいてありがとうございます!
投稿頻度を上げています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




