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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
33/64

33 時代遅れの剣聖

*ドレイクの刀は、特殊な木で作られた警邏官用の木刀です。少し前の方のコテツとドレイクが喧嘩してるエピソード参照

 左腕は、もう動かない。


 振り回された尻尾で、吹き飛ばされた時、多分肘が折れた。肘が拳骨一つ分くらい腫れ上がり、曲げ延ばしができない。指はかろうじて動くが。


 「っ!」


 左の、肋骨も折れたかヒビが入ったか。


 はったりでも何でもない。

 竜の巣に生身の生徒を放り込んで。


 この試験は、僕たちを殺す気で行われている。


 30歩ほど離れたところから、竜が怒り狂い、咆哮を上げていた。

 刀で、右脇腹と左脚に打撃を叩き込んでやった。左足は鱗が堅すぎて手応えが無かったが、脇腹は効いた様子だった。

 効いたと言っても、ちょっと痛いくらいだろうけど。

  

 竜が、地面を蹴って、小さな木をなぎ倒しながら、森の中、僕に向かって突撃してくる。


 冗談じゃない。

 死ぬだと?

 ここで?


 ***


 実家の剣技の流派は「時代遅れ」と揶揄された。

 確かに、王都で、警邏官の訓練に、正式に採用されている2流派には含まれていない。

 そんな古い型を教えても、生徒はこないぞ、と馬鹿にされていた。


 違う。

 

 全く持って違う。


 難しいのだ。

 繊細で、身に付けるのが困難なのだ。

 

 だから、幼い頃から習い、動きを、体重移動を、刀の掴み方を、身体に染み付かせかせている人間じゃなければ、型の、技の、本当の威力を引き出せない。

 

 だから、王都では、万人に教えやすい流派が採用されているんだ。


 父は、警邏官だった。


 どんな警邏官だったかは、聞いたことがない。 

 ある日、突然、警邏官を辞めて、俺が4歳の時、自分の産まれた街で道場を開いたらしい。

 

 それから、ずっと、刀の使い方を教えてくれた。

 でも古い流派だと、馬鹿にされたまま、最後の生徒も、街の大きな流派の道場に転籍して、その後、父は病気で倒れ、亡くなった。

 

 最後は、病気にもあっさり負けたのか。

 街でそんな声が聞こえて、街の子どもとけんかになった。

 

 袋叩きにされて、もうろうとした中で、空を見上げた。

 

 違う。

 

 僕は、父が刀で負けたのを見たことがない。


 無口で、近寄りがたい人だった。

 

 「お父さん、強かったんでしょ?」


 「ああ、最強の警邏官の一人だったさ」

 

 「僕も、強くなれる?」

 

 「お前が、望むなら」

 

 そのときだけ、太陽みたいに笑った。 

 

 ***

 

 「僕は、証明する。この剣技が最強だと」

 アルベスタ流剣術の神髄は、高速の居合い抜き。


 相手の力の流れも利用して、一撃で、相手を行動不能にする。

 しかも、殺さない。


 警邏官の、殺さずに生け捕りにするための技術を、極限まで追求した技術。

 

 だが、足りない。

 僕には、何かが、足りないのだ。

 

 父と同じ動き。

 父が理想としていた動き。


 イメージを。


 イメージをするんだ。


 4足で突撃してきた竜が、体勢を起こして、二本立ちになり、右の腕を振り下ろす。


 動きを見極めてかわす、2撃目の左腕も、ぐるりと回転して振り回してきた、3撃目の尻尾も……。

 身体が粉々になるような衝撃。

 

 もうろうとした意識の中、離れたところの大木に叩きつけられているのが分かった。

 

 更に踏み込んで、もう一回転尻尾を叩きつけてきた。

 速すぎて、見えなかった。


 左肩も、折れたか。


 膝をついた僕に、とどめを刺そうと、牙を剥いた竜が襲いかかってくる。


 ***


 父の姿が、見えた気がした。


 右手に、刀を握る手に、父が手を添えた。


 「刀を掴め。そして、速く動んだ。誰よりも」


 ***

 

 竜の牙が、空をかみ切った。


 羽根が生えたように。

 身体が軽い。


 後ろに回り込んだ僕を、竜は不思議そうな目で見つめた後、けたたましい叫び声を上げて、突進してきた。


 振り下ろした爪も、尻尾も、全て空を切った。

 バックステップから、一瞬で目の前に飛んで現れた僕を、竜は再び不思議そうに見つめた。

 

 「横薙ぎ(ラトゥス セカーレ)!」


 竜の首、頸動脈のあたり。

 

 鞘から抜いて加速した刀を横に振り払う、父の得意だった、そして、見えなった、基礎剣技。


 あの日見た、父のような速度。

 には、少し、足りないか。

 

 刀がめり込んだ竜は、泡を吹きながら崩れ落ちた。


 途端、空中で全身が鉛のように重くなり、地面に頭を打ち付けそうになったところ、がっしりとした手が、僕を抱き抱えた。


 「ま、お前はやると思ってたさ。ドレイク・アルベスタ。やっぱりお前のノードは「速く動く力」だったな。いきなり、7速(セプテム)なら立派なもんだぜ。幻の、第5代剣聖の息子」

 

 聞き慣れた、スザク先生の声。


 耳慣れない、剣聖という言葉。 


 「ディル・アルベルタは、多くの難事件をその刀で解決し、警邏官最強の剣技称号「剣聖」を授けられた。歴史上、5人目だった。その直後に、希少な、不治の病が発覚した。息子には、自分の経歴を秘密にしてくれと。警邏官にならないなら、重荷になるといけないからと」

 

 何を。

 今になって、何を。

 

 「お前の親父さんは、「速く動く力」を使う者として、俺の憧れの先輩だ。そして、親父さんからの伝言を預かってる。お前が警邏官になれたら、伝えてくれと」

 

 父さん。

 

 「高みで待ってる。追いついてみろ」


 僕は、その言葉の誇らしさに、薄れゆく意識の中、頬を涙が伝うのを感じていた。


 ああ、でも、そうだ……。

 他のみんなはどうなった……?


読んでいただいてありがとうございます!

続々と、主役達の覚醒が続きます。もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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