33 時代遅れの剣聖
*ドレイクの刀は、特殊な木で作られた警邏官用の木刀です。少し前の方のコテツとドレイクが喧嘩してるエピソード参照
左腕は、もう動かない。
振り回された尻尾で、吹き飛ばされた時、多分肘が折れた。肘が拳骨一つ分くらい腫れ上がり、曲げ延ばしができない。指はかろうじて動くが。
「っ!」
左の、肋骨も折れたかヒビが入ったか。
はったりでも何でもない。
竜の巣に生身の生徒を放り込んで。
この試験は、僕たちを殺す気で行われている。
30歩ほど離れたところから、竜が怒り狂い、咆哮を上げていた。
刀で、右脇腹と左脚に打撃を叩き込んでやった。左足は鱗が堅すぎて手応えが無かったが、脇腹は効いた様子だった。
効いたと言っても、ちょっと痛いくらいだろうけど。
竜が、地面を蹴って、小さな木をなぎ倒しながら、森の中、僕に向かって突撃してくる。
冗談じゃない。
死ぬだと?
ここで?
***
実家の剣技の流派は「時代遅れ」と揶揄された。
確かに、王都で、警邏官の訓練に、正式に採用されている2流派には含まれていない。
そんな古い型を教えても、生徒はこないぞ、と馬鹿にされていた。
違う。
全く持って違う。
難しいのだ。
繊細で、身に付けるのが困難なのだ。
だから、幼い頃から習い、動きを、体重移動を、刀の掴み方を、身体に染み付かせかせている人間じゃなければ、型の、技の、本当の威力を引き出せない。
だから、王都では、万人に教えやすい流派が採用されているんだ。
父は、警邏官だった。
どんな警邏官だったかは、聞いたことがない。
ある日、突然、警邏官を辞めて、俺が4歳の時、自分の産まれた街で道場を開いたらしい。
それから、ずっと、刀の使い方を教えてくれた。
でも古い流派だと、馬鹿にされたまま、最後の生徒も、街の大きな流派の道場に転籍して、その後、父は病気で倒れ、亡くなった。
最後は、病気にもあっさり負けたのか。
街でそんな声が聞こえて、街の子どもとけんかになった。
袋叩きにされて、もうろうとした中で、空を見上げた。
違う。
僕は、父が刀で負けたのを見たことがない。
無口で、近寄りがたい人だった。
「お父さん、強かったんでしょ?」
「ああ、最強の警邏官の一人だったさ」
「僕も、強くなれる?」
「お前が、望むなら」
そのときだけ、太陽みたいに笑った。
***
「僕は、証明する。この剣技が最強だと」
アルベスタ流剣術の神髄は、高速の居合い抜き。
相手の力の流れも利用して、一撃で、相手を行動不能にする。
しかも、殺さない。
警邏官の、殺さずに生け捕りにするための技術を、極限まで追求した技術。
だが、足りない。
僕には、何かが、足りないのだ。
父と同じ動き。
父が理想としていた動き。
イメージを。
イメージをするんだ。
4足で突撃してきた竜が、体勢を起こして、二本立ちになり、右の腕を振り下ろす。
動きを見極めてかわす、2撃目の左腕も、ぐるりと回転して振り回してきた、3撃目の尻尾も……。
身体が粉々になるような衝撃。
もうろうとした意識の中、離れたところの大木に叩きつけられているのが分かった。
更に踏み込んで、もう一回転尻尾を叩きつけてきた。
速すぎて、見えなかった。
左肩も、折れたか。
膝をついた僕に、とどめを刺そうと、牙を剥いた竜が襲いかかってくる。
***
父の姿が、見えた気がした。
右手に、刀を握る手に、父が手を添えた。
「刀を掴め。そして、速く動んだ。誰よりも」
***
竜の牙が、空をかみ切った。
羽根が生えたように。
身体が軽い。
後ろに回り込んだ僕を、竜は不思議そうな目で見つめた後、けたたましい叫び声を上げて、突進してきた。
振り下ろした爪も、尻尾も、全て空を切った。
バックステップから、一瞬で目の前に飛んで現れた僕を、竜は再び不思議そうに見つめた。
「横薙ぎ!」
竜の首、頸動脈のあたり。
鞘から抜いて加速した刀を横に振り払う、父の得意だった、そして、見えなった、基礎剣技。
あの日見た、父のような速度。
には、少し、足りないか。
刀がめり込んだ竜は、泡を吹きながら崩れ落ちた。
途端、空中で全身が鉛のように重くなり、地面に頭を打ち付けそうになったところ、がっしりとした手が、僕を抱き抱えた。
「ま、お前はやると思ってたさ。ドレイク・アルベスタ。やっぱりお前のノードは「速く動く力」だったな。いきなり、7速なら立派なもんだぜ。幻の、第5代剣聖の息子」
聞き慣れた、スザク先生の声。
耳慣れない、剣聖という言葉。
「ディル・アルベルタは、多くの難事件をその刀で解決し、警邏官最強の剣技称号「剣聖」を授けられた。歴史上、5人目だった。その直後に、希少な、不治の病が発覚した。息子には、自分の経歴を秘密にしてくれと。警邏官にならないなら、重荷になるといけないからと」
何を。
今になって、何を。
「お前の親父さんは、「速く動く力」を使う者として、俺の憧れの先輩だ。そして、親父さんからの伝言を預かってる。お前が警邏官になれたら、伝えてくれと」
父さん。
「高みで待ってる。追いついてみろ」
僕は、その言葉の誇らしさに、薄れゆく意識の中、頬を涙が伝うのを感じていた。
ああ、でも、そうだ……。
他のみんなはどうなった……?
読んでいただいてありがとうございます!
続々と、主役達の覚醒が続きます。もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




