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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
32/65

32 書架と母に続く雷空

 右手が、ラズベリーのジャム壷に突っ込んだみたいだ。


 もちろん、これはジャムじゃない。


 カーネリアンを砕いた茶褐色の岩絵の具でもない。


 こんなときなのに、頭の中には、今まで読んだたくさんの本の知識が、次々に浮かんでは、消えていく。

 

 私のわき腹から、吹き出している自分の血液。


 穴の開いた場所を、べたべたの右手で、肉と肉を寄せて、ふさぐ。

 

 どうしよう……。


 血が、止まらない。


 血が、止まらないよ。


 地鳴りが、近づいてくる。


 あの竜の、かわしきれなかった爪の一本が、私のわき腹を貫いた。

 

 血の匂いをたどって。

 とどめを刺しに来る。


 

 この辺りの竜は、肉食だったっけな。


 

 食べられる。

 私、食べられる。


  

 嫌だ。


 嫌。


 地鳴りが、地鳴りが、近づいてくる。


 藪を抜けて、巨大な竜が姿を現した。


 私の姿を見つけて。

 弱った獲物の姿を見下ろして。


 舌なめずりをした。


 ***

 

 本を、読みたかった。

 お母さんを追いかけて。

 お母さんを見つけ出すために。

 

 「さようなら、ソラ」

 お父さんの顔は知らない。 

 ある日、一冊の本を持って、お母さんは家を出て、私は祖父母に育てられた。


 「本ばっかり読んで、馬鹿じゃないの」

 街の子どもに言われた言葉。 


 違う。


 本に書いてある知識、技術、歴史。

 

 解き明かされてない世界の秘密。

 埋もれてしまった、本当の歴史。

 街の図書館のいくつかの本で見つけた、その痕跡。

 お母さんが人知れず、本に書き込んだ、何かの記号。それは、間違いなく、記憶の中のお母さんの筆跡。



 この世界には、何か、隠された事実がある。


 誰にも理解されなかった。

 

 気持ち悪いと言われて、狂ってるとまで言われて、口をつぐんだ。

  


 でも。

 

 ここで、私にも友達ができたの。

 私の話も、否定せずに聞いてくれたの。


 すてきな友達が。

 4人も。


 右手は、血でぐちゃぐちゃだった。


 竜が、牙を剥いた。


 私は、みんなと、警邏官になるの。

 そして、全ての本が最後に集まる、青の書架に行くの。

 そこには、きっと、お母さんの手がかりがある。

 お母さんが持っていた、あの本。

 

 だから。


 まだ、死ねないの。

 

 死ぬのは、嫌!


 ***


 頭の中に、雲と、空のイメージが。雨雲が、雷雲が。輝く光の束が。

 掴める。

 私は、あれを掴める。

 

 イメージの中で、私は全力でそれを掴んで、引きずり出した。

 

 ***


 右手の血を弾き飛ばすような勢いで、幾筋もの雷光が私の両手の上で渦巻く。

 

 私は、これの名前を知ってる。

 ララ先生が何度も見せてくれたから。


 両手を竜の頭上の方へかざす。


 

 「落下する電撃(トルニトス)!!」



 目の前が真っ白になって。


 気が付いたら、そこには竜が倒れていた。

 

 意識が遠のき、膝から崩れ落ちた私を、柔らかな手が支えた。


 何年もお世話になった、良く知っている、柔らかな匂いと、声。


 「それが、あなたのノードね。おめでとう。今回の試験の第一号よ」


 ララ先生が、私を抱きしめた。



 「新しい仲間を、歓迎するわ。青の書架を目指す警邏官、ソラ・リードベルト」



 「先生……私……」


 「傷が開くから、しゃべらないの。王都から来てる特別治療班に引き継ぐから。大丈夫よ。それに、ノードに目覚めたアレステリア人は、傷の治りも早いから。さっきまでより、痛くないでしょ?」

 


 ひどく、眠い。

 でも、わき腹の痛みは、確かに薄らいで、血もいつの間にか止まりつつあった。

 

 「みんなは……」


 「それは、まだこれから、ね」

 ララ先生の、緊張した横顔を見たのを最後に、私は意識を失った。

読んでいただいてありがとうございます!

なんだか盛り上がってきました、、、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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