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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
31/64

31 光/黒い蛇

「……コテツ!」


 現れたのは、竜じゃなくて、金色の髪の……意志の強そうな瞳。


 「キリン……」


  情けないが。こんなに心強いと思うなんて、思ってもみなかった。


 「コテツも……追われた?」

 「ああ、ここは竜の巣だ。しかも、相当大きな……とんでもない数の竜がいるはず……」

 

 地鳴りがした。


 「私を追ってきた奴だわ……」

 「いや、俺を追ってきた奴もいそうだ」


 地鳴りが激しくなる。


 右、左。

 

 ほぼ同時に、藪を突き破るようにして、2匹の竜が現れた。

 

 そして、正面の木をなぎ倒して、2匹の竜より二回りほどでかい、黒い竜が現れた。

 

 キリンが、ポケットから何かを取り出す。

 

 「結局これを選んだわ」


 スリングショットだ。キリンは、どこかで拾った石をゴム紐でつまむと、吠えながら迫ってきた右手の竜の眉間あたりに直撃させた。


 悲鳴を上げて、竜がよろける。


 左からもう一匹の竜が迫る。俺はまた、手に掴んだ砂利を竜の顔に投げつけ、ひるませながら、竜の脇腹、鱗の薄いあたりに潜り込む。


 「おおおおぉ!!」

 

 渾身の「砲撃」をそこに叩きこむ。

 手ごたえはあった。


 だが、竜はうめき声を上げながら、俺に向かって前足を振り下ろして来る。


 体をそらす。鼻先を竜の前足がかすめる。


 キリンの放ったスリングショットがその竜の眉間に命中し、よろめく。


 いけるんじゃないか。そう思った俺たちを、影が覆った。


 正面から迫った巨大な黒い竜が、体を回転させ、その巨大な尻尾を薙ぎ払うように、俺たちに叩きつけてきた。


 「キリン!」


 スリングショットを放ち終え、無防備なキリンの盾になるように、俺は尻尾とキリンの間に飛び込んだ。


 「コテツ!」


 そのすさまじい質量に、俺とキリンは、なす術もなく吹き飛ばされた。

 

 「!」


 地面が、ない。


 崖?


***


 どれくらい意識を失っていたのか。


 目を開けると、森の藪の中、あたりは薄暗くなっていた。


 あの、くそでかい竜の尻尾になぎ払われた腹部が、ずきずきと痛む。


 空腹だったのは幸いか。 

 何も吐かなくて良かったから。


 「ちくしょう……」

 

 キリンはどうなった?


 最後に覚えているのは、崖の斜面を別の方向に転がり落ちていくキリンの姿。

 

 助けなきゃ。


 重い、獣の足音が聞こえる。


 うなり声を上げて、近づいてくる。


 あの黒いデカい竜の近くにいた、最初から俺を追っかけてた、中型の奴だ。


 逃げる体力は無い。


 立って、戦え。戦え。


 茂みを切り開いて、竜が姿を現し、ドスドスと音を立てて飛びかかってきた。


 獰猛な牙の生えた口を開け、噛みつこうと。


 もう馬鹿な選択肢しか浮かばなかった。


 逃げるんじゃねぇ。


 右の拳を握りしめて、迫り来る竜を睨みつけた。

 

 踏みつけるように、前足を振り下ろしてくる。 かわした、そう思った瞬間、俺は真横にあった大木に叩きつけられていた。

 

 全身に衝撃が走り、意識が、薄れる。

 

 見えない角度から、尻尾で吹き飛ばされた。

 

 

 竜が、馬鹿にしたように、ゆっくりと近づいてくる。

  

 するどい牙が、俺の面前に。




 俺の喉元を食い破り、この命を断ち切ろうと。

 

 小さな頃のことが頭に浮かんだ。

 巨大な狼に襲われた時のこと。

 あの、燃えたぎるような赤黒い瞳。

 

 俺を、殺そうと。



 

 右手が、ちくりと痛んだ。


 

 昔、キリンに噛みつかれた場所。


 

 こんな時まで、お前は。



 身体が動かない。

 目の前に、竜の牙。



 キリン。


 

 そうだ、助けに。


 

 鼓動が、爆発しそうなほど、激しさを増す。



 助けに行かなきゃ。 




 何だお前。


 

 

 オレノジャマヲスルナ。

 


 

 辺りが暗さを増した。

 暖かな色の、光が見えた。


 

 その光が、竜の顎のあたりに集まっていくのが見えた。


 そして、竜の動きが、ひどくゆっくりと見えた。

  

 その光に導かれるように、俺は地面すれすれまで身をかがめ、飛びかかってきた竜の下に潜り込む。

 

 「うおおおおおおおお!」

 頭上の光に吸い込まれるように、俺は全力で全身をねじり、下から上に「砲撃」を放ったた。

 一瞬、何か柔らかいものに掌底がめり込むような感触。


 甲高い、コウモリのような声を上げて、竜が地面に崩れ落ちた。


 「……」

 俺は、自分の右拳に目を落とした。

 

 何だ、今の。

 違う、竜が遅かったんじゃない。

 俺が、速かった。 

 そして、あの、堅い竜の、鱗で覆われた身体を?

 素手で?


 そんな筋力も、皮膚の硬さも、俺にはない。


 だが、俺の右拳は、驚くほどに無傷だ。


 竜は、口から青い血の混ざった、泡ぶく状の涎を垂らして、横たわっている。


 「!」

 竜の全身は、鱗で覆われている。


 だが、顎の下、ちょうど、俺の拳一つ分くらいの隙間。


 そこだけ、鱗がない。


 咀嚼するために良く動かすところだからか。


 もちろん、そんな竜の身体のことなんか知る訳ない。


 あの瞬間。

 間違いなく、俺には見えた。

 どこを殴れば良いか。


 そして、竜の動きも、スローモーションのように見えた。

 身体の動きも、速くなった。

 

 「……火事場の馬鹿力ってやつ?」

 

 何にせよ、切り抜けた。

 

 死ななかった。

 

 「……キリン!」

 

 あいつは、あっちの、更に深い崖に落ちた。俺より重傷かも知れない。

 

 急がねぇと、また竜が、人間や、血の匂い、仲間の気配を察知して、集まってくる。

 

 「キリン!」

 俺は、滑るように崖を駆け下りた。

 

 転がる様に走る先に、一瞬、何かが光った様に見えた。

 

 キリン?

 何だあれは……。

 藪の中に横たわるキリンの周りに、無数の黒い蛇の様な何かがうごめいている。


 いや、キリンの中から……出てきている?

 

 あれは、駄目だ。

 

 俺にははっきりと分かる。あれだけは駄目だ。

 

 あれに飲み込まれたら、キリンはいなくなる。 

 キリンが、死ぬ。

読んでいただいてありがとうございます!

次回、」中盤戦の山場です!

もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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