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3 先生

 6人の「先生」のうち、俺たちの学年の担任であるララ先生とスザク先生が教壇に立っていた。

 

 ララ先生はいつもどおり、白いフワフワのワンピースに身を包み、うっすらと笑顔を浮かべながら、右手で、ウェーブのかかった明るい茶色の長い髪をいじくっているし、スザク先生はいつもどおり、細身の黒いスーツに身を包み、切れ長の一重の目で生徒たちをじろじろと見渡しながら、両腕を組んで立っている。

 

 「そういうことで~」

 「来週、ついにお前等の試験だ」


 あらかじめ役割分担してたのか、二人は順番に口を開いた。


 「痺れさせる力」の研究者にしてアレステリア「教師級警官(マスター)」8人の一人、ララ先生。


 5年前から全然変わらない、街で会ったらおしゃれな美人のお姉さんって感じの人、だが、もちろん「生徒」達でそんな風に思ってる奴は一人もいない。みんな、何かしらの理由で、一度はララ先生の「痺れさせる力」の電撃をくらってのたうち回ってるはず。


 ほんと、ずっと笑顔のまま電流を流し続けるからね。まじで、ドS。

 

 「速く動く力」の研究者にして「教師級警官(マスター)」8人の一人、スザク先生。

 

 5年前と比べて、一層目つきが鋭くなった気がする。ひょろりと長い手足、音もなく走り、気が付いたら背中を取られている。怖そうな雰囲気だが、1年生の最初の授業の時、「資料を配る」と言った次の瞬間、全員の机に資料が置かれていたり、学校で飼っている馬が逃げ出した時に瞬時に捕まえてなだめながら戻ってきたりと、なんか能力の使い方が日常的というか、ほのぼのしているというか。結構相談も乗ってくれて、女子生徒からの人気が特に高いんだよね。

 

「教師級警官」達は、アレステリアの「高度戦力」に当たり、たった1人で数百人の訓練された兵士と渡り合えるとかなんとか。二人とも普段はそんな雰囲気を出さないけど。


 他国で紛争やテロが起きたときには、条約に基づいて「教師級警官」達や更に上位の警官が派遣されることもある。


 この世界にとって、特別な戦力。

 「世界の警官」こと、アレスター。


 それを目指すのが、俺たち、アレステリア人の「生徒」。

 

 同期生は100人。

 この中から、「警官」になれるのは、約半数の50人くらいと言われている。だが、年によって、合格者は変動するので、はっきりとしたことは分からない。少ない年だと30人だったこともあれば、60人以上受かった年もあるらしい。 


 「お前等は、今日まで多くのことを学んできた。改めて、お前等に、「警官」とは何であるのか、5年前に話したことをもう一度話す」


 スザク先生が腕組みをしたまま、そう言った。


 「「警官」は、アレステリアのみならず、この「七つなぎの国々」に蔓延る犯罪者達を捕らえ、平和の維持を図る存在だ」

 「すっごく、だいじなお仕事ってことよ~」


 そうだ、このまんまのトーンで、5年前、俺たちはこの教室で、この話を聞いた。


 それから、ララ先生とスザク先生は、本当に、5年前に俺たちが入学式で聞かされた話から話し始めた。


 それを聞きながら、俺は警官学校の入学試験を受けたころを思い出していた。


 警官は、この七つなぎの国々全てに配置されていて、犯罪者を逮捕し、大監獄「大いなる壁」に連行する役割を担っている。


 警官学校は、9歳になるアレステリア人の血筋の子供しか受験できない。


 9歳で入校し、14歳で試験を受ける。なぜなら、「能力」は14歳になる年にしか発現しないから。14歳で発現させなかったアレステリア人は、一生「能力」を発現させることはない。逆に、14歳で発現させることができれば、「警官」としてこの国に採用される。


 「警官」になれば、引退後も含めて一生の収入が約束される上、その両親や兄弟も含めて、家族の生活まで保障される。俺の家みたいに、「警官犯罪者」を出さなければ。だから、アレステリア中の子供たちが、いろんな動機で入学試験を受けに来る。ある者は、世界中で活躍する警官に憧れて、ある者は貧困から抜け出すため、ある者は、家族の名誉のため……。


 受験の条件はシンプル。9歳のアレステリア人の血を引く者であること。アレステリア人の血を引いているかどうかは、入校試験の最初の採血で、アレステリア人にだけ反応する試薬を使って、文字通り血を調べられる。


 それから、筆記と実技を1週間かけて受ける。筆記は自信なかったけど、実技の組手だけは結構良い線行ってたと思う。犯罪者になる前の兄貴が、護身のためと言って組手をしょっちゅうやってくれていたけど、それが予行練習になっていた。

 

 入学試験の最後の面接は、今、目の前にいるララ先生とスザク先生だった。もっと兄貴のことを聞かれるかと思ったけど、全然そんなことはなくて、どうして警官になりたいのか、という質問のとき、絶対に兄貴を捕まえたいから、だから俺を警官学校に入れてください、といった俺を、二人が穏やかな顔で見つめていたのを覚えている。


 そういえば、後日ララ先生から「入学試験の結果の開示を求めますか?」と聞かれたけど、どうせ大したことないだろうから、聞かなかった。

 

 入れただけで満足だったから。


読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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