29 100点じゃなくても
エピソード23の伏線回収回になります!よろしければそちらも是非!
ソラとドレイクの二人は、壁に叩きつけられ……そのネバネバした液体で動けなくなっている。
接着液か何かか……殺傷力はなさそうだが……。
スパナがソラに駆け寄る。スパナなら、あの液体を溶かすか何かし、どうにかできるか……。
ドレイクは一人で頑張ってもらおう。
俺は身動きのとれないドレイクから巨大な黒鍵を回収すると、部屋の中央の、赤い球の方に走る。キリンと俺は背中合わせになって、ガーゴイルに対峙する。
ガーゴイル二匹は、俺達に鉤爪で襲いかかっては、飛び退くことを繰り返す。
正直、埒が明かない。だが、ここに引きつけないと、ソラやドレイクが襲われてしまう。
目の前のガーゴイルの動きも見えるし、弱点は当然鍵穴で、光って見えるのだが……。とにかく動きが細かすぎて、捕らえられない。どうも、人間相手と勝手が違う。
最期の目盛りの光が、徐々に薄くなっていく。
気持ちばかりが焦っていく。
キリンが、肘で俺を突っついた。顔だけちらっと振り向くと、キリンが、「弾き飛ばして。」とサインを送ってくる。
よく分かんねぇが、何かあるんだろ。
俺は、再び襲いかかってきた俺側のガーゴイルの動きを読むと、全力で、黒い鍵を大振りした。
ガーゴイルは、それを両手でガードしたが、弾き飛ばされる。
次の瞬間、俺の耳の脇辺りを勢いよく、何か硬い物が飛んでいった。
気が付くと、ガーゴイルの胸に鍵が刺さっている。
俺は自分の黒鍵を小脇に抱え、急いで間合いを詰め、ガーゴイルに刺さった方の黒鍵を回した。
再び、金切り声を上げてガーゴイルが動かなくなった。
また、耳から液体が出てくることを察知し、俺は距離を取ったが……。
頭上から液体が降り注ぎ、俺は身動きが取れなくなった。
くそ…今度は頭から出てきやがった。
あれ? スパナも液体に押し潰されてもがいている……。
キリンが駆け寄ってきて、俺が小脇に抱えていた黒い鍵を手に取り、最後のガーゴイルとにらみ合う。キリンが黒い鍵を振り下ろし、それを受け流したガーゴイルがキリンに鉤爪を振り下ろすが、今度はキリンがそれを鍵で受け流す。
一進一退の攻防。
俺は少しずつ、液体を体から引っ剥がしながら、身動きが取れるよう、這いずり出る。
早く加勢を……!
キリンが振り下ろした黒い鍵が、ガーゴイルを捉えたと思った瞬間。
ガーゴイルが中空に浮いた。
飛べんのかよ!
物理的な飛行じゃない……。
やはりマゲイアティアの魔術か……。
中空から、ガーゴイルがキリンめがけて襲いかかる。すんでのところでキリンはかわすが、攻撃をしようとした時には中空に逃げている。
圧倒的に不利。こっちの攻撃は届かないのに。
目盛りの光が、消えていく。
残り10分くらいか。
まずい、試験終了まで、時間がない。
ガーゴイルが口を開けた。
その口から、大量のピンク色の花びらが吹きだす。季節外れの春の花。
サクラの花。
なんだこりゃと思ったが、視界が遮られ、前が見えづらく、うっとおしい。
視界の右端で、何かが動いた。
ソラだ。
そして、左から、ドレイク。
二人とも抜け出したんだ。
両脇から、二人が縄を持ってガーゴイルに接近する。
ソラに向けてガーゴイルが急降下した。かわしきれなかったソラは、二重三重にした縄をピンと張って打撃を受け止めようとするが、そのまま壁に吹き飛ばされる。
だが、吹き飛ばされながら、ガーゴイルの首に縄が掛かる。
反対側から、ドレイクの縄が、同じく首に掛かる。
両脇から引っ張られ、身動きがとれず、縄を外そうと首に手をかけたガーゴイルの胸元に。
見とれるほど美しいフォームでキリンが投げた黒い鍵が、矢の様に突き刺さった。
さっきもこれをやったのか。
凄まじいコントロール。そういやこいつ、弓矢がめちゃくちゃ得意だったな…。
!
鍵が刺さったまま、ガーゴイルが中空に浮かび上がる。ソラとドレイクが引きずられている。
駄目だ、鍵を回さないと。
俺はようやく自由になった上半身の力を振り絞って、下半身を引き抜こうとした。
その時、キリンが縄を投げてガーゴイルの首に掛けた。
そして、力強く地面を蹴ると、鍵に向けて飛んだ。
鍵を掴むと、それを押し込むようにして、キリンはガーゴイルを床に叩きつけた。
勝った、と思った瞬間。
ガーゴイルの口から大量の花びらが噴出し、キリンの視界を奪う。
キリンがひるんだ隙をついて、ガーゴイルが黒い鍵を抜き、ぶん投げた。
黒い鍵が床をくるくると回転しながら、花びらが敷き詰められた部屋の中を滑っていく。
目盛りの光が、消えていく。
ここまで来たのに。
間に合わない。
黒い鍵に、駆け寄る影が見えた。
ソラ!
***
キリンちゃん。
私は、あなたの役に立ちたかった。
あの時、絶望してた自分に、光を灯してくれた。
100点じゃなくて良い。
30点で良いから。
その手に、届いて。
私は、黒い鍵を掴んで、キリンちゃんのフォームをイメージしながら、全力で投げた。
ガーゴイルにまたがったキリンちゃんが、右手を伸ばした。
***
ソラの投げた黒い鍵は、美しい軌道を描いて、キリンの右手に吸い込まれた。
ガコッ。
鍵が回る音がして、ガーゴイルが悲鳴を上げた。
最後にガーゴイルから吹き出したのは、液体ではなく、大量のピンクの花びらだった。
水晶の台座から外れた赤い球が、ころころとキリンの足下に転がってきた。
キリンが拾い上げたとき、同時に、目盛りの光が全て消えた。
間に合った。
祝福でもするかのように降り注ぐ花吹雪の中、キリンが振り向く。
そして、にっこりと笑って、ソラにピースサインをした。
ソラがキリンに飛びかかって抱きついた。
***
結果を聞くまでも無かったけど。
規定通り緑と赤の球を集めた俺たち5人は2の試験も合格となった。
まぁ、それぞれ頑張ったけど、最後はほとんどキリンとソラのお陰でなんとかなりました、みたいなとこがあった気もする。
2の試験の前、ソラが走ってきて「私、キリンちゃんとペアで良い? 何かあったら、後で合流するから……コテツ君、嫌じゃない?」と。
何故、何を俺が嫌がるのか、謎の質問があったが、エレナの妨害があったことを考えたら、結果として、二手に分かれて正解だったんだろうと思う。
それから、一つだけ。
エレナと、その取り巻きの男3人は、失格・退学、王都での取り調べになった。
アリスアトリス試験官長いわく。
「警邏官が、悪いことしちゃ駄目に決まってんだろ。こんな当たり前過ぎること、禁止条項に書くわけないだろ。試験以前の問題だ」とのことだった。




