28 ガーゴイル
まさか、エレナ? と身構えたその時。
見慣れた、青い瞳が姿を現した。
***
縄を切ってもらいながら、筆談で簡潔に、ひとしきり状況を説明したところ、3人とも……スパナ君まで激怒して、エレナ達を捕まえに行こうとしたけど、止めた。
どう考えても、もう緑の球は提出されてる。
コテツ達は、残り1個の緑の球を探しに来ていた。
だから、ここにはもう緑の球はないこと、私たちは赤い球を狙いに行くから、他の遺跡に行った方が良いと言ったんだけど…。
はやく、そこに行こうぜ。
コテツがそんなジェスチャーをした。
あ、そうか。
赤い球は、緑の玉、三つ分。
私とソラの分で、さらにお釣りが来る。
他の球の場所が不明な以上、コテツ達にとっても、あのガーゴイルの赤い球を手に入れることは、十分現実的な選択肢……。
とは言え、リスクは未知数。
でも、他の遺跡に一つくらい緑の球、あるかもよ?
私がそんなジェスチャーをする。
きょとんとしたコテツは「それじゃ足りないだろ」とジェスチャーした。
私たちの分を集める必要なんて、自分のことだけなら、関係ないのに。
そうだよね、コテツはそういう奴。
甘いんだから。
そんなんじゃ、いつか、悪い奴に騙されるんだから。
トンっと、コテツの胸を小突くと、私はくるりと振り返り、赤い球に向かう扉の方に走った。
時間無いから、急ごう、とみんなにジェスチャーして。
***
こりゃ、やべーな。
今まで見てきた石像と全然違う。
ハンドサインを5人で確認する。幸い、キリンとソラも同じことをやっていたみたいで、サインも同じだった。
スパナ様々だ。真面目に授業のノートをとるって大事なんだな。
部屋をよく見渡すと、三方向の壁に、ドレイクの木刀位の長さと太さのある、巨大な黒い鍵のような物が掛かっている。
そして、ガーゴイルの胸の辺りには鍵穴のような穴が開いている。
どう考えても、そこに刺しこめってことだろう。
俺と、ドレイクと、キリンが、鍵担当。
スパナとソラは陽動担当。
時間は後45分程度。円盤の目盛りは残り2つ、そのうち片方は光を失いつつある。
これが全部消えたら、試験終了。
作戦開始の合図のために、4人が合わせた手の上に、何でか最後に俺が手を置くことになった。
全員に目配せして、俺は手を押し込んだ。
5人がバラバラに走り出す。
俺が巨大な鍵に手をかけるか否か、その瞬間。
石が擦れる大きな音がして、ガーゴイルが、生き物のように滑らかに動き出した。
ソラとスパナが、ガーゴイルの前を横切り、2体の注意を引きつける。残った一体が、俺の方に向かってくる。翼はあるが、さすがに飛んでは来ない。だが、速い。
壁から黒い鍵を取った俺に、即座に間合いを詰めて、鉤爪を振り下ろして来る。俺は黒い鍵を両手で持って盾の様に使って受け流す。
甲高い音が響く。
このガーゴイル、ただの石像じゃない。何かひどく堅い金属が練りこまれている。
他の石像みたいに破壊は無理だ。
何とか隙を見つけて、鍵を差し込まないと…。
俺はガーゴイルが再び振り下ろしてきた右の鍵爪をかわすと、その腕を、黒い鍵を剣の様に使い、跳ね上げる。
がら空きになった胸元に鍵を突き刺す…が、ガーゴイルはぴょんぴょんと後ろに跳ねて難なくそれを逃れる。
こりゃ、厄介だぞ……動きも速い。
壁の鍵を取ったドレイクとキリンが、ソラとスパナが引きつけているガーゴイルに向かうが、同じ様な状態だ。
時間が、削られていく。
目盛りが一つ、完全に光を失った。
残り30分。
動きを止めないと……。
俺はスパナに目配せをした。
試験用に、スパナは、これまで実験してきた小道具のうち、実戦で使えそうな物を厳選して持ってきている。
走りながら、スパナが懐から液体の入った瓶を取り出し、俺が最初に対峙したガーゴイルの方に投げる。
割れた瓶から飛び散った液体がガーゴイルの足下に広がり、ガーゴイルは滑って姿勢を崩す。
ソラとドレイクが捕縄用の警邏官紐を輪っかにしてガーゴイルの羽に掛け、両方から引っ張る。
今だ!
俺は身動きがとれなくなったガーゴイルの胸元の鍵穴に巨大な鍵を両手で差し込み、鍵穴を開けるように右に捻った。
ガーゴイルが甲高い金属音の叫び声を上げた。その瞬間、部屋の中央の赤い球の周りの水晶の囲いが一つ開いて、床の方に沈んでいった。三枚重ねの内の一つが無くなった。あと二つ。
数的有利になったと思った、その時。
俺が鍵穴に差し込んだガーゴイルの両耳から、勢いよく、何かの液体が飛び出し、羽を縄で引っ張っていたドレイクとソラに直撃した。




