27 最悪
引き続き、言葉を発したら失格の2の試験中です。
約4時間、試験時間の3分の2が過ぎたところだった。
私とソラは、二つ目の緑の球を手に入れていた。
ソラが写しを取っていたスパナ君のノートを見ながら、瞬きとハンドサインを復習し、石像の動きを攪乱しながらの立ち回り。
最初のネズミの石像は部屋中を逃げ回る石像を捕まえる課題で失敗した。
次とその次の部屋で見つけた鳥と馬の石像の仕掛けは、パズル系統の課題で、隠された規則を見抜いて、数字と記号が書かれた石盤を並べるものだった。
これはソラが瞬時に規則を見抜いて、立て続けに緑の球を入手した。
二つ目を取ったところで、ソラと抱き合ってひとしきり無言で喜んだ後、入り口に向かおうとした、その時。
入ってきた扉から、ガチャリと嫌な音がした。
急いで取手に手をかけると、押しても引いても開かない。鍵が掛かっている。
一筋縄じゃいかないってことね……。
ソラが、部屋の奥の扉を指さしている。確かにそっちに進むしかない。でも……。
その扉は、明らかに今までのものと異質だった。
赤と黒のストライプ。
ここに、やばいのが待ち構えてますよ。と書いてあるようなものだった。とは言え、進むほか、道はないし……。
コテツ達はどうしてるかな。別のルートで探索してるみたいだったけど。
きっと上手くいってるわ。まずは自分のことをちゃんとやらなきゃ。
私とソラは目配せして、そのやばそうなドアに手の取手に手をかけ、ゆっくりと開ける。
何かが飛び出してくる気配はない。中も静かなようだ。警戒しながら、それぞれ、前後左右宇を警戒しながら、中に入る。
「!」
部屋の中は、うっすらと赤い光に包まれていた。その真ん中には…翼を持った幻獣、ガーゴイルの石像が3体、そして、それに守られるように、透明な水晶の箱が置かれていた。
その中で、赤い球が燦然と輝きを放っている。
これまでの経験から、石像が素朴な動物か、より格の高い魔獣や幻獣の類かで難易度も違うようだった。
見るからに、高難度の課題。これは、ちょっと取れる気がしない。
しかも、挑戦する理由も今はない。
ソラが肩を叩く。指さした先には、見慣れた灰色の扉がある。近づかなければ、ガーゴイルも動き出さないようだ。
私たちはそそくさと、部屋の壁沿いを走って灰色の扉を開け、赤い球の部屋を後にした。
その後は、方向感覚的に入り口の方と思われる灰色のドアを選んで進むと、入り口階段手前の、最初の広間にたどり着いた。
張りつめていた緊張が、ふっと和らぎ、私とソラは顔を見合わせて笑顔になった。
時計は後1時間半を残している。
なかなかの成績なんじゃないかな。
後は、コテツ達が上手くいってれば……終わってなかったら合流して……。
そんなことを考えながら、広間を歩いていたその時。
広間の陰に人の気配がして、私とソラは瞬時に身構えた。
が、そこにいたのは、私たちと同じ服装の生徒だった。
1年生の頃から、何かと私やコテツに絡んできたエレナと、その取り巻きの男子三人だ。確か、実技の方の成績は優秀な人たちだった気がする。
私たちと同じで、緑の球を集め終わったのか?……。
エレナがにっこりと笑顔を見せて、私とソラも釣られて笑顔を返した、その時。
突然視界の端に現れた男子生徒に、私は直感的に飛び退いた。
蹴りが空を切る音が響く。
エレナの舌打ちが聞こえた。
……最悪だ……。
……緑の球を奪うつもりだ……。こんなことを考えるなんて……。
いくら手段を問わないって言ったって、これはあんまりなんじゃないの?!
許せない……けど……。
冷静に。
生徒とはいえ、警邏官の訓練を積んできた人間4人が相手。
こんなの相手にしなくていい。逃げて、試験官のところに……。
私の目の前の男子生徒がうっすら笑うと、私に向き合うのを止めた。
しまった。
ソラが3人に囲まれる。
突きや蹴りを何とかかわしていたソラを、エレナが背後から羽交い締めにする、そして……。
男子生徒が、ソラの顔にナイフを突きつけた。
こいつら……許せない……信じられない……。こんな奴が……こんな奴らが同じ警邏官を目指してたなんて……。
男子生徒の一人が、ソラの腕を縛る。エレナが、ソラの体を捜検の要領でパンパンとはたいていき、上着の右ポケットから緑の球を抜き出すと、私に向けて、「お前のもよこせ」というジェスチャーをする。
悔しい、悔しい、悔しい。
私は、血がにじみそうな程、歯を食いしばる。
ソラが首を振っている。
でも。
こいつらは、本当に危害を加えかねない。
私は、緑の球を取り出し、床においた。
男子生徒が近づいてきて、緑の球を素通りし、私に「動くな」というジェスチャーをする。そのまま、私は後ろ手に、紐か何かで縛られた。
許可の無い、手錠の目的外使用はしない、そこは守るんだ……。
そんなことを考えながら、私は、男子生徒が緑の球を拾うのを見ていた。
エレナが入り口の方へ駆け出す。それを追いかけ始める男子3人。
私は立ち上がって、その4人を追いかけ、一番後ろの男子生徒の背中に向けて跳び蹴りを放つ。
だが、私の足は、閉じられた扉に阻まれた。
着地して、扉を睨みつける。
私と同様、後ろ手に縛られたままのソラが駆け寄ってきた。
大粒の涙。
泣かないで。ソラが悪いんじゃない。
甘かった。気づけなかった。同じ服を着て、同じことを学んでいても。
思ってることや願い、信条も、信念も、みんなばらばらなんだ。
いや、それ以上に気の緩みだ。
2の試験に合格したと思いこんでいた。
情けない……。
後2時間。もう緑の球はほとんど残ってない。
この遺跡の中は、もう全部見た。これから他の遺跡に移動して、後二つなんて……。
え?
ソラが、唇を動かす。
マタ、ヤクニ、タテ、ナカッタ。
何を言ってるのよ。
私は、最初からずっと、ソラに助けられてるわ。
階段を上って、スクトゥムティアの本を持ってきてくれた、あの日からずっと。
私は、ソラのおでこに自分のおでこをこつりと、触れされた。
ソラの瞳を間近で見つめる。
まだ終わってない。
まだ何にも終わってない。
私はソラに「行こう」と瞬きした。
ソラは目を丸くしていたけど、うん、とうなずいた。
確実に、手に入るのが残っている。
赤い球。
あの、ガーゴイルの部屋。
まずこの縄をどうにかして……。
その時、入り口の方のドアが開いた。
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