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アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
24/64

23 的の中心(⌘)/ソラの場合

 キリンちゃんに初めて話かけられた時のことは、よく覚えている。


 ずっと教室にいる間、一人で本を読んでいる子。

 

 私と同じ。

 授業が終わると、すっと自分の部屋に帰るか、一人でどこかに散歩に行ってしまう子。

 ずっと気になっていた。


 でも、話しかける勇気がなくて、ちらちらと盗み見るばかりだった。

 

 窓際の席のキリンちゃんの、その艶やかな金色の髪の毛や、赤く滲んだルビーのような瞳、淡い桃色の唇が、教室の窓から差し込む日差しに照らされると、まるで絵のように美しくて、見惚れてしまう。


 「ソラは、筆記2位だったけど、実技は断トツのビリだったから。筆記3位までは、健康なら無条件合格っていう特例適用で受かったってこと。研究職警邏官の……しかも「青の書架」担当が目標っていうのははっきりしてて良いけど、警邏官試験は実技も厳しいし……大体、「青の書架」担当自体、あそこの高度警護も兼ねてるんだから。これから頑張ってね」


 1年生の最初の面談の時、ララ先生にはっきりとそう言われた。

 まぁ、言われなくても分かっていたことでしたけど…。


 研究職警邏官になれば、七つなぎの国々の高官を含め、特殊な地位の人しか入れない「最果ての図書館」の「青色の書架」に入る権利が得られる。


 そこは、膨大な量に及ぶ世界中の貴重な書籍の原本や、古代の書物が保管されている。地下深くまで続いていて、未だに整理されていない書物が多数あるという。

 7カ国から、研究職かつ高度戦力相当の職員が派遣され、研究と警護に当たっている。

 

 「青色の書架」で働き、そこにある「世界の起源」に関する書物を見つけ、その内容を解き明かすこと。それが警邏官試験を受けた動機だった私は、「青色の書架」職員に高い戦力が求められると知るまで、逮捕術とか、実技には関心がなかった。実際、運動苦手だったし。


 1年生の、最初のころの実技の時間だった。


 その日は、飛び道具の演習で、最後に、二人一組になって、的に矢を当てる試合形式の時間になった。

 中心の、矢一本分の小さい丸が100点、その周りが40点、さらにその周りが35点、それ以外は10点。チーム対抗で、負けたチームは罰ゲームとして、放課後にスザク先生と倉庫の片付け。


 私は、たまたまキリンちゃんと同じチームになって、動揺した。


 対抗ペアは茶色い髪と金色の髪の女の子だった。

 

 最初に打った茶色い髪の子は、2本とも当てて、35点と35点、計70点だった。


 「良い調子ね」

 「読書家さん達とは違って、運動してるから」


 茶色い髪の子は金色の髪の子と、くすくすと笑った。


 ただでさえ緊張するのに。

 足を引っ張ったらどうしよう。嫌われたらどうしよう。


 そんなことを考え、一言も話せないまま、震えながら打った矢は、見事に的を外れた。


 金色の髪の女の子が笑った。


 とろいわねー。

 どうやって試験受かったの?

 いつも本ばっかり読んでるからじゃない?


 悔しくて、キリンちゃんを見るのも怖くて、涙ぐみながら打った矢も、的を外してしまった。


 対戦相手の二人から、笑い声が上がった。


 次に打った金色の髪の子も2本とも当てて、その子は上手くて2発とも40点だった。


 「エレナすごい!」

 「お父様から、馬術と弓矢は習ってたのよ」

 「さすが、名家の娘は違うわね!」 


 150点。


 もう勝ちは無くなった。

 

 私のせいで、と。消えてしまいたかった。


 でも、キリンちゃんは、1ミリも諦めてなくて。


 それからのわずかな時間を、私は一生忘れない。


 強い風が、ぴたりと止んだ、その瞬間。


 キリンちゃんがしなやかに引いた弓矢は、美しい軌道を描いて、春の日差しの中、ピンク色のサクラの花びらが舞いちる校庭で、的の真ん中に吸い込まれていった。


 金髪の女の子の笑みが消えた。


 それから、まるで時間を巻き戻したように、キリンちゃんは同じように弓矢を引いた。

 

 放った矢は、数枚のサクラの花びらを貫いて、一本目の矢に突き刺さった。

 

 これは、できすぎね。

 

 それが、初めて見た、キリンちゃんの笑顔だった。

 

 春風にそよいだ、金色の髪と、ルビーのような瞳を、私はずっと見ていたかった。

 

 この撃ち方、本を読んで勉強したの。

 スクトゥムティアの打ち方よ。

 読書って、役に立つと思わない?

 

 私と、それから金髪の女の子にも聞こえるように、キリンちゃんは言った。

 

 ちょうど、授業終わりの鐘が鳴って、キリンちゃんは弓矢を片付けながら、寄宿舎に帰っていった。

 

 それから、私はスクトゥムティアについて書かれた本を探しては、読みふけるようになった。

 

 それから、毎日、人目を避けて、夜中に体を鍛えた。

 キリンちゃんと、どうしてもまた話したくて、 

 話す勇気を手に入れたくて。

読んでいただいてありがとうございます!

週末に更新しています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!


次回から試験2です!

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