22 冷めたスープ(♦︎)
試験が終わった後、キリンの方に向かって歩いて、異様な疲労感に襲われて……途中から記憶がない。
気が付いたら、寮の自分の部屋のベッドだった。テーブルの上に、パンと、鶏肉の揚げ物と、サラダと、冷めたスープ。
起きたら、食べて
メモはキリンの字だった。
急に空腹感に襲われて、俺は貪るように夕食を平らげた。どれもこれも冷えて、パンも肉も堅かったけど、やたら美味しかった。
ただ、何故か、右頬がちくちくと痛んだ。何かにぶつけたんだろうか。
瞳の力を使い過ぎたんだと思った。これまで、あんなに長く使ったことがなかった。確かに、あの力を使った組み手の後は疲れるなとお思っていたけど、まさか意識を失うとは。
今後気をつけなくちゃ。
それから。
キリンの声。
あの時、確かに、身体の動きが速くなった。
あれが無かったら、スザク先生の5速でやられてた。
あれは、何だったんだろう。
でも、確かに。
今は、少しイメージができる。
「速く動く力」のイメージが。
***
講堂にたくさんの生徒が集まっていた。
皆、壁に貼られた大きな紙を見つめていた。
1の試験の合格番号が記載された紙を。
縦に5個、横に11個。最期の列は、縦が3個。
合計で53個の番号が並んでいた。
7人の生徒が、1の試験を突破できなかった。
みんなは……。
「コテツ」
キリンの声に振り返った。
ソラもスパナもいた。ドレイクは……講堂の西の壁に背をもたれかけさせて、腕組みをしてこっちを見ていた。
「体調、大丈夫ですか?」
スパナが心配そうな顔をしている。
「え、そんな感じ? 俺、昨日の試験の後、全然記憶なくて……」
「キリンちゃんと、ドレイク君が二人がかりで寮まで運んでくれたのよ」
「え?」
本当に?
キリンのため息が聞こえた。
「声かけても、頬をつねっても起きないから、心配したわ、まったく……まぁ、夕食、がつがつ食べてたから、大丈夫かなと思ったけど」
頬が痛いのは、やっぱりキリンか。
絶対全力でつねりやがったな。
ん?
どういうことだ?
「……お前、男子寮に侵入したの?」
「ララ先生に許可取って、ご飯運んで、様子も見に行ったのよ!」
「女子寮に居ても、キリンちゃん全然落ち着かなかったんです……」
「ソラ! それは言わなくていいの!」
……。
そうか、色々、助けてくれたのか。
試験の時、俺の名前を呼んでくれてから、その後も。
あれがなかったら、落ちてた。
「ありがとな」
キリンが、赤みがかったオレンジ色の瞳をびっくりしたように見開いた。
「別に私は……あー、うん……。ま、元気なら良かった」
キリンは、急に静かになって、そっぽを向いてしまった。
でも、この感じだと。
「みんな、受かってる?」
ソラもスパナも、頷いた。
良かった。
「結局、スパナ君が一番危なかったんですけど。1の3の試験、ぎりぎり2分経過だったので」
「ソラさん、それは言わないでくださいよ……」
「でも筆記、ほぼ満点だったよね」
「それも言わないでください……恥ずかしい……ソラさんもほぼ満点じゃないですか」
さすが頭脳軍団。
あ、コテツだ、という声が聞こえた。
少なくない生徒が、男子も女子も俺の方を見ている。
何だよ……と思ったが、あまり感じの悪い視線では無かった。
「凄かったな、昨日の! スザク先生に本気出させるなんて」
「かっこよかった! びっくりしたよ!」
え、俺、誉められてる?
入学以来、こんなことなかったな。
若干、キリンが、特に「かっこよかった」と言った女子の方を険しい顔でにらんでいるのが気になったが……。
ふと、感じの悪い視線がまとわりついた。
「遅く来て、結果の張り紙も見ないなんて、余裕ね、コテツ・インバクタス」
こいつらは、なんでこう絡んで来るのか。
エレナとその取り巻き数人が、俺に冷たい視線を注いでいた。
「昨日のも、何だったのかしら。「ノード」も使える見込みのない落ちこぼれが。何か、先生と取引でもしたの?」
「取引?」
「犯罪者の弟だもの、不正に手を染めるくらい、訳ないわよね」
本当に、こいつは……。
「そう言えば、そこの嘘つきお姫様も、ずいぶん変な色の「ノード」を発光させてたわね。試験の後もつきっきりだったみたいだし……二人して、何か、細工でもしてるんじゃないの?」
「そりゃ、俺が試験で不正を働いたってことかい? エレナ・ステンダート」
いつの間にか、エレナの後ろにスザク先生が立っていた。
「試験の最初に言ったはずだぜ、担任として、一切容赦しない、俺が一番ハズレだって」
エレナの顔が、やや青ざめていた。
「警邏官は、嘘を憎み、真実とともにある。誓って、不正はないぜ」
スザク先生の顔は、五速の時くらい、鋭かった。
エレナとその取り巻き達は、そそくさと講堂から去っていった。
「疲れは取れたか? コテツ」
「あ、はい……」
「それなら良かった。2の試験は明日だ。今日は一日ゆっくり休むように」
スザク先生が、講堂の入り口に向かう。
「感じたことのない疲れ、だったか?」
「え?」
スザク先生が、俺の目をじっと見ていた。
「はい、今まで、感じたことがないような」
「そうか。じゃあ、力の使い過ぎには気を付けな。どれだけ強い力を持っていても、底をついたらおしまいだからな」
そう言って、スザク先生は、視界から消えた。
「ま、コテツなら、何とかすると思ってたわ。ソラ、行きましょ。明日の準備、しなくちゃね」
キリンとソラが、講堂を出て行く。
そうだ、まだ、何も終わってない。
試験はまだ、始まったばかり。
2の試験、3の試験を乗り越えなくては。
読んでいただいてありがとうございます!
もしよければ評価・ブクマ等いただけたらとっても嬉しいです!




