表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレステリア国物語  作者: 鳩峰浦
第一章
23/64

22 冷めたスープ(♦︎)

 試験が終わった後、キリンの方に向かって歩いて、異様な疲労感に襲われて……途中から記憶がない。


 気が付いたら、寮の自分の部屋のベッドだった。テーブルの上に、パンと、鶏肉の揚げ物と、サラダと、冷めたスープ。

 

 起きたら、食べて

 

 メモはキリンの字だった。


 急に空腹感に襲われて、俺は貪るように夕食を平らげた。どれもこれも冷えて、パンも肉も堅かったけど、やたら美味しかった。


 ただ、何故か、右頬がちくちくと痛んだ。何かにぶつけたんだろうか。

 

 瞳の力を使い過ぎたんだと思った。これまで、あんなに長く使ったことがなかった。確かに、あの力を使った組み手の後は疲れるなとお思っていたけど、まさか意識を失うとは。

 

 今後気をつけなくちゃ。


 それから。

 キリンの声。

 

 あの時、確かに、身体の動きが速くなった。


 あれが無かったら、スザク先生の5速(クゥインク)でやられてた。

 あれは、何だったんだろう。


 でも、確かに。


 今は、少しイメージができる。

 「速く動く力」のイメージが。


 ***


 講堂にたくさんの生徒が集まっていた。

 皆、壁に貼られた大きな紙を見つめていた。

 1の試験の合格番号が記載された紙を。

 

 縦に5個、横に11個。最期の列は、縦が3個。


 合計で53個の番号が並んでいた。


 7人の生徒が、1の試験を突破できなかった。 


 みんなは……。


 「コテツ」

 キリンの声に振り返った。 


 ソラもスパナもいた。ドレイクは……講堂の西の壁に背をもたれかけさせて、腕組みをしてこっちを見ていた。


 「体調、大丈夫ですか?」


 スパナが心配そうな顔をしている。


 「え、そんな感じ? 俺、昨日の試験の後、全然記憶なくて……」


 「キリンちゃんと、ドレイク君が二人がかりで寮まで運んでくれたのよ」


 「え?」


 本当に?

 キリンのため息が聞こえた。


 「声かけても、頬をつねっても起きないから、心配したわ、まったく……まぁ、夕食、がつがつ食べてたから、大丈夫かなと思ったけど」


 頬が痛いのは、やっぱりキリンか。

 絶対全力でつねりやがったな。


 ん?

 どういうことだ?


 「……お前、男子寮に侵入したの?」


 「ララ先生に許可取って、ご飯運んで、様子も見に行ったのよ!」


 「女子寮に居ても、キリンちゃん全然落ち着かなかったんです……」


 「ソラ! それは言わなくていいの!」


 ……。

 

 そうか、色々、助けてくれたのか。

 試験の時、俺の名前を呼んでくれてから、その後も。

 あれがなかったら、落ちてた。


 「ありがとな」

 

 キリンが、赤みがかったオレンジ色の瞳をびっくりしたように見開いた。


 「別に私は……あー、うん……。ま、元気なら良かった」


 キリンは、急に静かになって、そっぽを向いてしまった。


 でも、この感じだと。


 「みんな、受かってる?」


 ソラもスパナも、頷いた。


 良かった。


 「結局、スパナ君が一番危なかったんですけど。1の3の試験、ぎりぎり2分経過だったので」


 「ソラさん、それは言わないでくださいよ……」


 「でも筆記、ほぼ満点だったよね」


 「それも言わないでください……恥ずかしい……ソラさんもほぼ満点じゃないですか」


 さすが頭脳軍団。


 あ、コテツだ、という声が聞こえた。


 少なくない生徒が、男子も女子も俺の方を見ている。

 何だよ……と思ったが、あまり感じの悪い視線では無かった。

 

 「凄かったな、昨日の! スザク先生に本気出させるなんて」

 「かっこよかった! びっくりしたよ!」

 

 え、俺、誉められてる?


 入学以来、こんなことなかったな。

  

 若干、キリンが、特に「かっこよかった」と言った女子の方を険しい顔でにらんでいるのが気になったが……。

 

 ふと、感じの悪い視線がまとわりついた。

 

 「遅く来て、結果の張り紙も見ないなんて、余裕ね、コテツ・インバクタス」


 こいつらは、なんでこう絡んで来るのか。

 エレナとその取り巻き数人が、俺に冷たい視線を注いでいた。


 「昨日のも、何だったのかしら。「ノード」も使える見込みのない落ちこぼれが。何か、先生と取引でもしたの?」


 「取引?」


 「犯罪者の弟だもの、不正に手を染めるくらい、訳ないわよね」

 

 本当に、こいつは……。

 

 「そう言えば、そこの嘘つきお姫様も、ずいぶん変な色の「ノード」を発光させてたわね。試験の後もつきっきりだったみたいだし……二人して、何か、細工でもしてるんじゃないの?」


 「そりゃ、俺が試験で不正を働いたってことかい? エレナ・ステンダート」


 いつの間にか、エレナの後ろにスザク先生が立っていた。


 「試験の最初に言ったはずだぜ、担任として、一切容赦しない、俺が一番ハズレだって」

 

 エレナの顔が、やや青ざめていた。


 「警邏官(アレスター)は、嘘を憎み、真実とともにある。誓って、不正はないぜ」

 スザク先生の顔は、五速の時くらい、鋭かった。


 エレナとその取り巻き達は、そそくさと講堂から去っていった。


 「疲れは取れたか? コテツ」


 「あ、はい……」


 「それなら良かった。2の試験は明日だ。今日は一日ゆっくり休むように」


 スザク先生が、講堂の入り口に向かう。


 「感じたことのない疲れ、だったか?」

 「え?」


 スザク先生が、俺の目をじっと見ていた。


 「はい、今まで、感じたことがないような」

 「そうか。じゃあ、力の使い過ぎには気を付けな。どれだけ強い力を持っていても、底をついたらおしまいだからな」


 そう言って、スザク先生は、視界から消えた。


 「ま、コテツなら、何とかすると思ってたわ。ソラ、行きましょ。明日の準備、しなくちゃね」

 キリンとソラが、講堂を出て行く。

 

 そうだ、まだ、何も終わってない。


 試験はまだ、始まったばかり。

 2の試験、3の試験を乗り越えなくては。

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価・ブクマ等いただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ